レストラン「L’AUBERGE DE l’ill」で鵞鳥フォアグラテリーヌ桜鱒ムニエル円山公園洋館

小樽で開催された大橋トリオのFC限定ライブへの参加が、今回の小樽~余市~札幌への旅の契機だった。
お初の小樽へと赴くならば、隣町とも云うべき余市にも寄らない手はない。
余市には皆さんご存じで、永らく懸案だったニッカの蒸溜所があるし、余市駅前にはずっと気になっていたオーベルジュ的レストランがある。
そして、この旅のもうひとつの目的が、
北海道唯一の”一の宮”へ改めて参拝して、
御朱印をいただこうということなのでありました。

漸く晴れ渡った快晴の空の下、
円山公園駅から公園内へとゆっくりと歩く。
半年ほど前に既に一度訪ねているので、
様子はおよそ知っているんだ。

長閑でゆったりした空気の公園内を抜け、
北海道神宮の神門までやってきた。 中央が太い注連縄の形と両端の4つの輪が面白い。
「フラヌイ大注連縄」と呼ばれているそうで、
“フラヌイ”はアイヌ語で、
「匂いのするところ」という意味だという。
富良野の地名の由来でもあるらしい。
ほー、そうなんだ(^^)。

神門を潜り抜ければ、広々とした参道、
そして石段の先に本殿が迎えてくれる。 現在の本殿社殿は、1978年(昭和53年)に、
全焼から再建されたものだという。
明治初頭の北海道開拓の守護神として、
開拓三神が奉遷された北海道一宮、
札幌神社が成り立ちの起源で、
円山への移転などなどを経て、
1964年(昭和39年)に明治天皇を増祀し、
社名を現在の北海道神宮とした、という。

参拝を済ませ、御朱印をいただいて、
ふたたび円山公園を散策する。
カラッとした空気と蒼空、
心地よくも陽射しが強くなってきた。

円山公園パークセンターの脇を抜けてすぐ、
公園の敷地内とも云えそうな場所に、
周囲の建物とは一線を画す、
洋館と呼ぶに相応しい装いの一軒家が現れた。 振り返れば、その先すぐに円山公園の木々が映る。

改装を施したのか、
外装板は割りと新しめに見える。 そこへ蔓性の植物が生え伸びようとしている。

門柱の両サイドには、金色の銘板が迎える。 門柱を渡したアーチには、
薔薇の気配がしていました。

一階メインダイニングの扉あたりの修繕工事と、
日程がかち合ってしまったようで、
サロンと呼ばれている地階の部屋へとご案内。 明るめのベージュ基調の要所要所に、
マホガニー色の木調を織り込んだデザインで、
突き当たりにはトラバーチンで仕立てた、
暖炉が据えられている。

天井からは、クリスタルグラスでしょうか、
沢山のダイヤモンド様の粒の煌めきを集めた、
豪華なシャンデリアが華やかな演出をしている。 両側の壁に向い合せた鏡、合わせ鏡によって、
そのシャンデリアがループしている。
部屋を広く見せる効果を期待した設えはきっと、
披露宴会場やパーティ会場として機能するため、
ということもありそうだ。

北海道の白をグラスで、とお願いしたら、
つい二日前に、「Yoichi LOOP」でもいただいた、
「AMAMITSUKI 2023」のボトルがやってきた。 確か、ドイツ原産のミュラートゥルガウをメインに、
ソーヴィニヨンブラン、ピノノワールの組み合わせ。
きっと余市のワインは北海道の主要なレストランに、
浸透し、活躍しているのでしょうね。

口開きの小さなおつまみが長いプレートに3品。 シュー生地にチーズを練り込んで、
焼き上げたグジェールに、
鶏のレバームースを仕込んだサブレ。
そこへ菜の花のトッピング。
蕗の薹バターのクロワッサンの中には春鰊の塩漬け。
サブレに飾った花弁は食用のビオラだという。
ウチの庭にもビオラはあるけれどーと訊けば、
それはおそらく食べられないかもー、と(^^)。

コース料理のスタートは、
「ヤリイカと春野菜のサラダ。 それは、想像とはまったく異なる様子でやってきた。
函館から届いた槍烏賊に、
新玉葱、空豆、独活などの山菜。
そこにアルザス名産リースリングの透明ゼリーや、
酸のニュワンスとして日向夏を少々織り込んでいる。
お皿が意外な様相を呈している、
その最大の要因であるところのソースはと云えば、
マヨネーズに近い卵黄のソースで、
乳化を日向夏の果汁で行った、という。
あしらっているこの花弁も、エディブル。
マヨネーズといってしまえばそれまでかもだけど、
ああ、なるほど柑橘とその酸味がそこにいる。
でもちょっと、
ソースが多すぎやしませんかねぇ(^^)。

「L’AUBERGE DE l’ill」アルザス本店の、
スペシャリテと云えば、
ガチョウのフォワグラを使ったテリーヌ、だという。 まずは壺、というか、
蕎麦猪口形状の器に収まった状態で、
氷に囲まれるようにして運ばれてきた。
氷で冷やしておかないと流れ出してしまうそう。
それをスプーンで剥ぐようにサーブしてくれる。
ポートワインのゼリーにブリオッシュを添えて。
なるほど、濃密。
濃密だけれど、口解け滑らかで艶めかしい。
本店140年の歴史の中から生み出されたものという。
ふと、テリーヌの定義ってなんでしたっけ?、
と問えば、それは、
蓋付き容器のテリーヌ型を用いて調理したもの。
そんな意味からは、テリーヌとは呼べないですね、
と笑い合ったりなんかして(^^)。

ここ「L’AUBERGE DE l’ill」のその本店はと云えば、
その前身となる「アルブル・ヴェール」の創業は、
140年以上を遡る1882年頃のこと。
ポールとジャン=ピエールとのエーベルラン兄弟が、
フランス北東部のアルザスの地に、
1949年に「L’AUBERGE DE l’ill」を開業し、
わずか3年でミシュラン一ツ星、1957年に二ツ星、
そして1967年に初めて三ツ星を獲得し、以来、
半世紀以上にも亘って、
ミシュランの星に輝き続けているという。
テリーヌの器にあるのは、エーベルラン家の家紋。
ふーむ、なるほどなるほど(^^)。

スペシャリテのテリーヌには、
秘伝のスパイスが使われている、という。
秘伝なので勿論教えられないけれど、
なんと、現オーナーシェフのマーク氏も実は、
その製法は判らないんだそう。
先代の父、ポール氏があるスパイス屋に製造を託し、
マーク氏はそこから調合したスパイスを仕入れる、
嘘か誠か、そんなカタチが今も続いている、らしい。
門外不出どころか、門の中でも判らないんだ(^^)。

お次のお魚のお皿は、
「サクラマスのムニエルとクレソンのブルーテ、
レタスとヒトビロのエテュベ」。 旬を迎えた桜鱒の下には、ヒトビロ。
ヒトビロとは、道産子がアイヌネギとも呼ぶ、
行者大蒜のことだという。
行者大蒜も旬の食材ということになるね。
添えているのは、クレソンの緑のソースと、
リースリングの白のソースと。
緑のソースの下には、ポーチドエッグが隠れてる。
桜鱒そのものが美味しいのか、
調理の手が素晴らしいのか、その両方か。
行者大蒜がこれまたよく似合って、美味い。

呼び鈴、ベルかと思っていた、
卓上のステンレスと硝子の器は、
意外やバターケースであった。 北海道・美瑛ファームの有塩バターに、
緑色の蕗の薹を混ぜ込んだバターとで、
北の香りという北海道の小麦粉を使った、
パンをいただく。

お次のお肉のお皿は、
「桜の花でマリネしたルスツ豚バラ肉のブレゼ」。 メインのお肉は、北海道ルスツの三元豚。
三元豚って、白、赤、黒の豚の掛け合わせだから。
そんな説明もできるんだね、知らんかった(^^ゞ。
一度煮込んだ豚肉の表面をキャラメリゼし、
そこへ、コリアンダーを含んだ、
甘味のあるソースを載せている。
三元豚の脂身もあるところは、
どんと載せたサラダの葉と一緒にすると、
バランスがとれるのでぜひ、とのご提案。
ナイフを入れると、肉の中が凄く柔らかい。
切るというより、ナイフで千切る感じになる。
噛めば、弾けたコリアンダーの風味がする。
こんなスパイスの使い方あるんだ、いいねー。
マークシェフは、
オリエンタルな要素もお好みらしい。

円山公園と一体化しているように佇む、
当の建物について訊くと、
元々このような洋館があってそれをレストランへと、
リノベーションした、訳ではなくて、
レストランとして一から建てたものだという。
ただ、竣工後の2004年にオープンしたのは、
「ル・バエレンタル」という、
同じアルザスの名店の名を冠した、
「ひらまつ」が経営するレストランで、
10年の定期借地権によるものだったそう。
つまりは、その後「L’AUBERGE DE l’ill」札幌に、
看板を書き換えた、ということになる。
なので、「L’AUBERGE DE l’ill」の本店を模して、
設計やデザインがなされた洋館ではなく、
謂わば、”アルザス風”ということになる。

デザート前の”小さなデザート”は、
アルザスの料理のアレンジ版。 グラスの底には、ブラッドオレンジと八朔。
その上に何度聞いても憶えられない(^^)、
ゲヴュルツトラミネールというライチ風味のワイン、
それをクリームと一緒にエスプーマにかけたもの。
トッピングには、パンドエピスという、
シナモンやクローブ、アニスといったスパイスを、
加えて焼き上げるパンをクルトン状にしている。
パンドエピスは、シュトーレンの原型みたいなもの、
でもあると聞くと、合点がいく感じのする。
ブラッドオレンジの苦みがいい挿し味だ。

デザート本篇は、
「赤い果実とフロマージュブランのタルト、
マンゴーのソルベ 新生姜の香り」。 タルトの中にフロマージュブラン。
赤い果実とはなんだろうと思っていたら、
それは王道、フレッシュ苺のコンポート。
そこへコンポートにして刻んだルバーブと、
さらにルバーブのシート状にしたゼリーを、
薄っすらと敷き込んでいる。
新生姜の香り、は泡で添えて。
初夏の南の島にマンゴー食べにだけ行きたい!
とそんなことを思い起こさせてくれる、
マンゴーソルベでありました。

カフェと一緒に出てきた小菓子は、
苺と梅のマカロンとガトー・ブルトン。
うんうん、ゆったり美味しいおひる時でありました。

ご存じ札幌は円山公園のおよそ敷地内、
公園の樹々に抱かれるように建つ洋館が、
「L’AUBERGE DE l’ill SAPPORO」だ。 「l’auberge de l’illオーベルジュ・ド・リル」の、
“リル”は、フランスはアルザス本店が、
イル河のほとりにあるからに他ならない。
ここ札幌では、オーベルジュと冠しているものの、
「泊まれません、ちょっと嘘ついています」。
“l’auberge de”を外してしまうと、
どのレストランの支店か判らなくなってしまうので、
そのままそう名乗っているという。
その辺りは、名古屋はミッドランドのお店も、
東京は西麻布のお店も同様でしょう。
今度機会があったらぜひ、
中庭からの陽光が柔らかに差し込む、
メインダイニングの雰囲気も味わいたいなぁ。

「l’auberge de l’ill SAPPORO オーベルジュ・ド・リル サッポロ」
北海道札幌市中央区南一条西28-3-1 [Map]
050-5595-0982
https://www.hiramatsurestaurant.jp/aubergedelill-sapporo/

column/02917

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください