二日目には、不思議にオリエンタルなフォルムの尾山神社の鳥居からアクセスして、金沢城をゆっくりと見物。
以前訪れた時は駆け足だったので、
こうして時間をかけて歩き回らないと、
よく分からない儘になってしまうなぁと改めて思うところ。
久し振りの兼六園もゆっくりと巡って、
園内の「堤亭」で遅めのおひる時と相成りました。
午後は長町の武家屋敷跡界隈を散策。
武家屋敷跡「野村家」ではのんびりし過ぎて、
最後に退館する客人になってしまった(^^)。
そうして日が暮れはじめた頃、
拾ったタクシーで向かったのは、
ひがし茶屋街のずーっと後方辺り。
春日山の裾野を上がる卯辰山公園線の途中で、
タクシーを見送りました。
樹高しっかりの木々に囲まれた一軒家。
此処が目的地でよいのだろうかと、
訝り乍ら近づいてみる。
すると敷地の隅に小さめの自立サインが見付かる。
どうやら此処で間違いないようです。
建物の正面に回り込む。
小さな声で、こんばんはーと囁いてみる。
玄関スペースは、厳つい鉄板の壁に囲まれていて一瞬、
妖しい洋館に紛れ込んでしまったような気分になる。
あ、左手の鉄壁が入口になっているようです。
モダンな薪ストーブのある、
サロンのような部屋でウェイティング。
窓辺からは、東山越しの金沢城方面、
そして、香林坊辺りのビル群が見渡せる。
それだけの高台にあるんだね。
しばし後案内されたホールには、
ででんと据えられたコの字のカウンター。
こんなステージがあるというだけで、
高まる期待と臨場感(^^)。
腐食させた鉄板を丸めた台座に載るは、
ナプキンとメニューでありましょうか。
緑青色の表紙を捲るように裏返す。
するとそこには、
幾つものモノクロのイラストが並んでる。
食材だけを示す、例の手法でありますな、これは。
イラストのひとつひとつを眺めては、
イラストが指し示す食材が何で、
どんな料理が供されるのだろうかと、
あれこれ想像するのもちょー愉しい(^^)。
ふと頭上を見上げれば、
天井板の代わりに硝子板が填められていて、
梁や屋根の構造体の様子が判る。
天井高をより高く感じられるという寸法だねと、
そんなことを話しつつ、手許を見ると、
カトラリーと一緒に並んでいた箸の持ち手には、
「MAKINONCÎ」のログタイプと一緒に、
この建物のシルエットイラストが焼き込まれています。
口開きにいただいたのは、
金沢市内の湯涌谷地区で作られるという地ビール、
その名もおのまま「湯涌谷ビール」。
金沢の奥座敷、隠れ宿ともされる湯涌谷は、
ひっそりとした小さな温泉地だと云う。
アンバーエールの褐色濃いめのグラスは、
苦み控えめでメロウな美味しい麦酒だ。
ひとつ目の料理のメニューイラストは、”人参と箱”。
豆腐?と思っていたのは、箱、だった(^^)。
オーガニックの人参を皮ごと使って作ったムース。
その上にポン酢のジュレ、そして礼文島の雲丹。
で、箱の上に据えられているのが、
春巻チックな生地に包んだ湯剥きの白海老。
トッピングされているオレンジ色の宝石は、
スウェーデンのキャビア。
こんな美しい色のキャビアもあるんだね。
白海老が、やっぱり甘い。
カウンターの隅に大振りの焼き物の器が据えられた。
中には炭、ではなく電気のコンロが仕込まれていて、
そこへ褐色の液体の入った硝子の薬缶が置かれた。
カウンターからそのまま覗ける厨房では、
シェフやスタッフがせっせと次の料理の準備中。
慌てず騒がず、でもスピーディーかつ丁寧に、
なんだかそんな心意気が伝わる光景だ。
厨房で用意されていた黒い蓋付の器が、
卓上にやってきた。
それは、メニューイラストそのまんま。
輪島塗のお椀だという。
蓋を開けばそこには、秋の味覚、松茸がいた。
岩手県産の松茸の下にはなんと、
5キロものの鼈スッポンのゼラチン質を用いたムース。
金沢の北側、河北潟からやってきたものだという。
ドライにしてからさっと揚げた松茸のチップスを添え、
そこへコンロの上にあった硝子薬缶から、
ととととっとスープを注ぐ。
スープは勿論、スッポンのコンソメだ。
ひーー、いい香りに包まれつつの贅沢椀。
堪りません。
ワインは、料理に合わせて5種類ほどを、
白基調でとオーダー。
最初のグラスは、Domaine du Petit Metris。
フランスのロワール地域で、
シュナン・ブランというぶどう品種によりつくられたもの。
柔らかく、程よくフローラルで、軽い苦みの後味がいい。
お次のメニューイラストは、海老。
すると、21世紀美術館から持ち込んだような、
コロンとしてふんわりとした白い器がやってきた。
浅い窪み部分の下地には、
加計呂麻島産パッションフルーツのソース。
その上の海老は、3種類。
北陸で呼ぶところのキジエビに、
富山湾の牡丹海老、金沢底引きの甘海老。
云われて凝視して気が付いたのは、
海老たちの上を、うすーーくスライスした、
障泥烏賊がヴェールのように覆っている。
トッピングの青緑色は果たして、内子か外子か。
パンションフルーツのソースが、
海老ととても相性がよいことを改めて思う。
と、シェフが目の前に金串に刺した魚を運んできた。
“デブ”と呼ばれる鰹の藁焼き。
“デブ”なのに小さい奴だと云う(^^)。
富山湾にも地付きの鰹で、
丸いフォルムであるらしい。
そんな小振りの鰹が捌かれていく。
メニューイラストは、焚き木の図案。
そう藁焼きを示していたンだね。
俎板で薬味のような葉を刻むのを見届けた後、
藁焼き鰹のお皿を受け取る。
細やかなフライドポテトの上には、
愛らしきお魚シルエットが、ちょんと載る。
鰹は、生の部分とたたきした部分と。
その上に、福井の地がらしを少し搾り、
ルッコラやカシューナッツ、オリーブ、
隠し味の梅干しでつくったソースでどうぞ。
このルッコラのソース、いい、美味しい。
そんなタイミングでやってきたグラスは、
ラベルもちょっと面白いオレンジワイン。
ワインの元祖とも云われる国、ジョージアで、
キシというぶどう品種でつくられたものだという。
確かに、藁焼きの鰹に合わせるワインとなると、
こんな不思議ちゃんも断然あり、ですね。
続くメニューイラストはもしかして、
蓮の花かなぁと考えているところに、
象牙色の粉の山を頂いた大振りの鉢がやってきた。
実に肌理の細かいサラっサラのパン粉に、
やおら箸の先を突っ込んで掘り起こすは、
そう、輪切りの蓮根であります。
加賀蓮根とも云われる川端産の無農薬蓮根だ。
パン粉の山から探り出した蓮根を目の前で揚げる。
揚げるコンロを囲んでいるのは、
コロナ禍の際に使った透明アクリルの衝立。
こんな流用も勿論、ありだ(^^)。
と、卓上に不思議な、硝子の作品が並んだ。
蓮が好きな金沢の作家さんの作で、
七尾は一本杉通りの昆布屋さん「しら井」の、
ギャラリーの個展でたまたま見付けて、
製作依頼したものだそう。
そんな硝子の蓮の器に蓮の花托を据え、
揚げた蓮根をベースにしたセルクルを載せ、
やや不安定なところへと、そっと抜く。
蓮根フライの上には、タルタルステーキ。
隠し味に刻んだエシャロットやタバスコが潜む。
その上には、ご存じキャビア。
トップにちょんと載っているのは、韮の花。
それぞれに食感も味わいも違うものが、
何かが突出することなく一体となって、
それが実に美味しいという不思議が、ここにある。
いいね、愉し嬉しいね(^^)。
☞<後編>へ続く(追ってリンクします)
「MAKINONCÎ」
石川県金沢市山の上町25-18 [Map]
050-3503-3318
https://www.french-makino.jp/