市場通りと永代通りが交叉するのが、茅場町交差点だと思い込んでいたことがある。茅場町交差点は、東京証券取引所前に至る平成通りと永代通りとが交わる処で、そこからひとつ永代橋寄りにある信号機は、そこが茅場町一丁目交差点であることを示している。
そんなことどうでもいいことのようにも思うけど、永いことこの辺りを彷徨っているのに、兎に角ずっとそこが茅場町交差点だと思い込んでいたのだ(笑)。
そんな茅場町一丁目交差点の角。
ビルの地階を覗き込めばそこに見つかる暖簾が、
「茅場町 長寿庵」の暖簾なのであります。
秋も深まった頃に足を運べばテーブルの上に、
こんな二行の短冊がある。
毎年のこと乍らこうして今年も、
「長寿庵」にも牡蠣の季節がやってくるのです。
真ん中に酢橘の輪切りと紅葉を象った麩を浮かべた「カキ南ばん」。
用いている牡蠣は広島産。
やや醤油強めの甘汁にひたっとした牡蠣を口に含めば、
昼からのお酒が欲しくなります(笑)。
蕎麦そのものはやっぱり蒸籠の方が似合う仕立て。
でもそこに、伊達に歴史を刻んでいないなと思わせる品格が、
どうしても滲んでしまうようです。
ランチ限定の牡蠣メニューがご存じ「カキフライ定食」。
細やかなパン粉を丁寧に纏わせた牡蠣フライに、
偶にはとうどんを合わせてみる。
そば屋のうどん、という例え話がどこかになかったっけ?
なんてことをふと思ったりなんかいたします(笑)。
そしてまた、冬場の興のひとつとして、
「ゆず切りせいろ」なんて一行が品書きに顔を出す。
例えば、同じ木鉢会に名を連ねる神田のそれも印象的だけれど、
茅場町のこれのそこはかとない風味も悪くない。
いずれにしても、就業中にはなかなかお銚子を傾けられないのが、
なんとも無粋でありますね(笑)。
茅場町の蕎麦屋と云えばまず「茅場町 長寿庵」の名が挙がる。
その創業は、1907年(明治40年)のことだという。
戦前に銀座7丁目辺りにあった長寿庵の暖簾分けであるらしい。
100年前の往時をいま直接偲ぶことはできないけれど、
もしも次にビルを建て替えることがあったなら是非、
創業時の姿を模した路面店にして欲しいなぁなんてことを、
ひとり勝手に思っています。
「茅場町 長寿庵」
中央区日本橋茅場町1-9-4 [Map] 03-3666-1971