「星のや竹富島」ダイニングで山羊ふーちば車海老島人参牛肉ポーポーな島テロワール

八重山諸島の離島のひとつ、小浜島を離れる日のこと。
宿からの送迎のバスを降り、小浜港最寄りで島の総合案内所の建物の二階にある「BOB’S CAFE」へ。
エメラルドグリーンの海を見渡しながらハンバーガーに嚙り付く。
冷房の効かない乗り場の建物でじっと待っていた予約のフェリーは、竹富島経由で石垣港へ向かうもの。
離島から離島へと今度は、竹富島へとやってきました。

お世話になったお宿は、「星のや竹富島」。
レセプションから部屋へと運んでくれる電動カートは、
両サイドの石垣が誘導する珊瑚砂の回廊を往く。
「グック」と呼ばれる琉球石灰岩を積んだ石垣。
その左右には点在する家々のオレンジ基調の屋根瓦が続く。

カートが着いた家の前。
石垣の途切れた入口の中の正面には、
「ヒンプン」と呼ばれる衝立のような壁がある。 魔除けの意味を持つヒンプンは、
左側から回り込むよう教わる。
右側は、神様が使う道なのだそうだ。

瓦屋根の上には、ご存じ「シーサー」。 オスメス二体が対になっている、
そんなシーサーもお馴染みだけれど、
屋根獅子として単体で置く場合には、
口が空けているオスを置くのが習わしだ。

南風(ぱいかじ)を取り込むため、
家の南側には大きなガラス窓が広く設けてあり、
思い切り解放することができる。 北側の戸を開ければ、風が通って、
幸せを運ぶと伝えられる南風が流れ入ってくる。
家の周囲には、台風や北風からの防風の役割を果たす、
フクギ(福木)が沢山見られます。

北側に抜ける風の通り道には、
その真ん中にデンとバスタブが置かれているのも、
この家この部屋の特徴のひとつ。 石垣の上から覗かれないよう、
南側のブラインドも少し降ろします(^^)。

“集落”の中央にあるのが、
楕円形を描く、少々不思議な佇まいのプール。 すり鉢状の周囲には芝生が植え込まれ、
オブジェのような椅子が二脚浮かんでる。
陽射しを遮るタープがあるのは、
芝生を登った外周部分の一角。
夜半にも泳ぎに行きました(^^)。

さてさて、そして夕食は、
集いの館のダイニングレストランへ。 案内されたテーブルから、
件のプールを少し見下ろすように眺めます。

「星のや竹富島」ダイニングでの夕食。
その標題は、”島テロワール”。
部屋に置かれた案内書きには、こうある。
竹富島は、豊かな自然と島の文化が色濃く残る島。
沖縄ならではの素材と島人の暮らしに根付く食文化を、
フレンチの技法で表現した「島テロワール」。

まずは暑さに乾いた喉を潤そうと、
ご存じ、「石垣島地ビール」。 流石に、竹富島には地の麦酒はないみたい(^^)。

メニューでは、”カツオ 燻製”とだけ示すアミューズは、
カツオのタルティーヌ カチューユを添えて。 朱色の陶器のお皿の上には、
硝子のコップが伏せて置かれていて、
それを傾けてパカリと開けば、
煙とともに薫香がする。
桜のチップの燻しが仕込んであると云う仕掛け。
コップの中に鎮座していたのは謂わば、
ひと口サイズのフレンチ仕立ての鰹のたたきだ。

そこへ添えてくれたグラスには、
カチューユの雫。 カチューユとは、鰹湯/かちゅー湯を指す。
鰹節を使った沖縄県地方の汁物料理、
カチューユーから発想したコンソメだ。

続いて届いたのは、
沖縄らしい鮮やかな青緑のお皿。
メニューには、”山羊 フーチバ”とだけある。 シェーブルのクスクスサラダ仕立て パッションのソースは、
地中海料理でもみられるクスクスを用いたひと皿。

最下層が山羊肉エリアで、
クスクスを緑色に染めているのがフーチバーか。 トッピングのクリームは、
シューブル(山羊)のチーズによるもの。
全体を混ぜ合わせて、いざ、いただきます。

続くお皿は、
車エビのポワレ 島人参とデュカのアンサンブル。 ポワレした車海老に添えたソースは、
車海老エキスによるアメリケーヌ。
さらにその脇には、島人参のピューレ。
南瓜みたいな黄色が面白い。
島人参の甘さが不思議と車海老に似合う。
枝珊瑚のような印象のチュールには、
海老のパウダーを振り掛けてあって、
やめられないとまらないの海老風味(^^)。

ホールのBGMは、
ゆったりした三線と琉球民謡。 フレンチだけどそこは、島テロワール。
「泡波」を舐めていても、
違和感、まったくありません。

スープの器は、
島菜のスープ サザエのフランを忍ばせて。 島菜=シマナー=からし菜のことか。
なかなかに濃密な明緑色スープは、
載せられた葉を口にすると苦みが強めにあるが、
スープそのもののほの苦さは、滋味深さにも映る。
スープの中には、栄螺の肝使ったフランが潜む。
葉の苦みと肝の苦みとを含む大人のスープ。
南の海に栄螺が採れるイメージはなかったのだけれど、
訊けば、栄養豊富な海ゆえ近海で採れるそうだ。

青々としたビジュアルととともに届いたのは、
ミーバイのムース包み 青豆とミントの香り。 アイスクリームディッシャーで削り出したような球状。
白の釉薬にミントの彩りが映えています。

そこへ白ワイン系のソースが注がれる。 球状を崩せばそこには、島の高級魚ミーバイ。
ミーバイをムースで包んで蒸し上げているという。
時にミントは香りや主張が強過ぎるきらいがあるが、
ふんだんに使っても不思議とそんなことがなく、
青臭くないのが、本当に不思議(^^)。

肉料理の標題は、「牛肉 ポーポー ちんすこう」。
低温ローストした牛フィレ肉の上には、
スパイスと併せたちんすこうを纏っている。 ウミウシのようにも見える付け合わせは、
沖縄の郷土料理ポーポーのフレンチ仕立て。
中には八重山の穀物を仕込んでいるという。
ちんすこうをなんとか料理に取り込みたい!
そんな思考錯誤がきっとあったのでしょう(^^)。

二重構造の美しい硝子の器で届いたデザートは、
島豆腐のクレメダンジュ ライムのアクセント。 クレメダンジュは、フランスの伝統菓子。
それを島豆腐でアレンジしたものだという。
口にしてみればなるほど、滑らかにした島豆腐。
柑橘の香りが、いい。
シークァーサーではなくて、
ライムとは案外珍しいかもしれません。

そして、大トリの器は、
ジーマミのマルジョレーヌ
バナナのアイスクリームと共に。 これまたフランス発祥のデザート、
マルジョレーヌを、ご存じジーマミ、
つまりはピーナッツでアレンジしたもの。
バナナのアイスクリーム、
パイナップルのコンフィチュールが脇を固めてる。
バナナのアイスが、実にバナナだ(^^)。

「星のや竹富島」のダイニングは、
集落の中央のプールを望む集いの館にある。 それは、”島テロワール”を標榜するレストラン。
開いた二つ折りのメニューの左手に、こうある。
テロワールとは、生産物を育てる際に影響する、
天候や土壌、歴史、人の営みのことをいいます。
沖縄の島々で親しまれている素材を、
星のや竹富島の技法で表現した、
天・地・人が織りなすご夕食をお楽しみください。

外ではヤモリが元気に動き、鳴いている。
これからもきっと、
島の食材や文化を活かしたフレンチの創造に、
さまざまな工夫が施され、重ねられていくことでしょう。
決して華美にも過剰に複雑にもならず、
本懐を忘れずに洗練していって欲しいと思います。

「星のや竹富島」ダイニング
沖縄県八重山郡竹富町竹富1955 [Map]
0980-84-5888
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyataketomijima/

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