どこかで寿司をつまみたい。
そう考えた時に真っ先に脳裡に浮かんだのが尾山台のハッピーロード。
そして、中国家庭料理「華門」階下の、気取らずも凛としたカウンターと大将の尊顔を思い出しました。
路上から連絡を入れると案の定、満席だという。
辺りを散策徘徊しながら席の空くであろう時間まで待つことにしました。
振り返ればもう、二年半振りのカウンター。
でもなんだか、ちょこちょこ通っているような虫のいい錯覚(笑)に陥らせてくれるのはなにより、大将徳さんの気の置けない佇まいによるのでしょう。
お通しの小鉢で麦酒を少々いただいて、
つまみをみつくろってもらいます。
夏のアイナメに鱸、ミル貝に青柳。
ほんのりした甘みがある白身と澄んだ香りの貝ふた品。
冷たいお酒がいいねとお願いすると、如何にも涼しげな酒器がやってきた。
つつつーと傾ける猪口の呑み口は、きりっとし過ぎず、豊かな奥行きのする。
そこへ、ちょっぴり悪戯っ子な表情した大将が、
まだ動いていそうな黒いイガイガを届けてくれた。
割った海栗から直にいただくにはと手にしたスプーンで雲丹を掬う。
乙なる磯の香りに包まれた雲丹の甘さにこんな幸せがあっていいのかと黙想する。
勿論、ミョウバン由来の苦みなんてありません。
ほいよ、ってな感じで渡してくれたお皿には、見た目から既に柔らかそうな蛸の足。
そっと口に含むとそれが、想定以上の柔らかさ。
とろんとそしてこっくりと蕩けて、
煮汁に滲む旨みとともに独特の香りを口腔に残す。
そこへ、冷たいお酒をきゅっと、ね(笑)。
徳さんが、すっとつけ台に据えた小皿には、
新生姜によるしっかり厚みのあるガリ。
繊維にさくっと歯の先が通り、辛さ柔らかな風味にこれだけで、お銚子一本呑めてしまいそうです。
そんなガリを合図に、まず握ってくれたのが、小鰭。
前回の、ちょっと斜めに握っていた小鰭が印象的だったのだけど、
今夜の握りは、すっと尾を引くよなお姿。
ああ、でも、この酢飯とのバランス、好きだなぁ。
続く白身は、真鯒の身。
徳さんの煮切りは、こんな白身でも強過ぎることなく、
塩梅のよく旨みを引き出してくれるんだ。
煮烏賊のツメもまた、いいね。
そして、徳さんの手元を見ているのがとっても愉しい。
寸分の躊躇いもなく刺身包丁を操り、海苔を廻し、握り、ツメの塗る。
以前と同じく、先の尖った金物の菜箸を、水を張った桶の底にタン!と刺す。
再びの白身は、鱚の昆布〆。
昆布〆にすることで、甘みがくくっと凝縮していて、うん、好きだな。
そして、何気なくの大とろ。
煮切りの包む鮪の薫りと脂が織り成す小さな宇宙が口の中でふわっと解ける。
もう、うんうんと頷くばかり。
あはは、蛸さんも魅力的な柔らかさだったけど、
この煮鮑の粋な柔らかさにもウットリ。
たっぷりのツメのさらりとしたコク味が美味しさをさらなる高みへと引き上げてくれるンだ。
クライマックスは、鮪のづけ。
赤身の香気豊かにして、脂の甘さとは違う凝縮感がそそる。
ただふっくらと云えば陳腐な云い回しかもしれないけれど、
この煮穴子の舌触りと味わいの深みは、素直に愉しみたいところ。
ひと通りが収まって、もう少しなにか〆たものがあればと所望して、鯵をいただく。
軽い〆加減の中に鯵の甘さを知るのでありました。
カウンターの逆の隅のお客さんが注文んでいたものをこちらにもとお願いして。
見惚れる所作で素早く巻いたその中身は、
叩いた御新香に、茗荷、胡瓜、紫蘇、白胡麻。
乙な仕上げに便乗しちゃったね。
朱塗りのつけ台に徳さんファンが夜ごと集う、尾山台、鮨「徳助」。
徳さんのカッコいいにぎりを堪能しにまた、お邪魔したいと思います。
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鮨「徳助」で 堪能のカッコイイにぎりたち(07年11月)
「徳助」
世田谷区尾山台3-10-10 OSビルB1
[Map] 03-3701-2383
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