そば處「水天宮 長寿庵」で熱ソーメンカツカレーそば自慢オリジナル愉しきお品書き

茅場町の蕎麦屋と云えば、まず思い浮かべるのが「更科 丸屋」。
何故って、呑み過ぎてしまった翌日にちょくちょくお世話になっているから(笑)。
その次に思い浮かべるのはやはり、市場通りと永代通りの交叉点、茅場町一丁目信号角地にずっとある「茅場町 長寿庵」でありましょう。
牡蠣南蛮や柚子切せいろあたりが印象的な蕎麦の老舗。
社用にもしっかり向き合った佇まいもまた、
「茅場町 長寿庵」の個性であります。

数多ある”長寿庵”は、近く新川一丁目にもあり、
さらには水天宮のお宮さん近くにもある。日本橋蛎殻町の裏通りに足を運ぶと、
若竹色の暖簾が静かに風に棚引く。
街角の蕎麦屋感が実に好ましい佇まいであります。

「水天宮 長寿庵」。
暖簾の頭上には、立派な扁額が迎える。どなたが揮毫した文字なのでしょう。
十分な厚みと立体感のある彫刻文字は、
金箔様に彩られています。

割と細かい文字でずらずらっと行の並ぶお品書き。
ざっと40種類程はあるでしょうか。
その筆頭の一群のタイトルは、
“当店自慢オリジナル”。
蕎麦屋の品書きではなかなかお目にかかれない、
特異なフレーズではないでしょか。

当の”当店自慢オリジナル”ブロックで、
まず目を引くのが、”熱”の文字。
「熱野菜そば」をお願いすると、
卓上に届いたのは想定外の桶。厚焼き玉子に海老の剥き身。
油揚げや蒲鉾に玉子で綴じた野菜あれこれが、
たっぷりした装いで載っている。
あがる湯気からは桶に籠った熱気が、
ひしひしと伝わってきます。
掘り返すように汁の中の蕎麦を手繰り揚げると、
一気に熱気が開放されて、ハフハフさせる。

「熱野菜そば」と同じに見える桶の正体は、
お品書き筆頭の「熱ソーメン」。熱々の汁にとっぷりと浸っているので、
ソーメンはヘナヘナかと思ったら然に非ず。
しゃきっとした歯触りをしっかり維持していていい。
冬場に嬉しいオリジナルメニューです。

“自慢オリジナル”のラインナップには、
「揚餅うどん」に並んで「揚豆腐うどん」がある。厚揚げうどんではなくて、揚げ豆腐うどん。
註文を受けてから揚げたのであろう豆腐は熱々で、
これまた冬場の似合うメニューで御座います。

そして品書き筆頭の「熱ソーメン」に続いて、
第二行目に示されているのが「カツカレーそば」。土鍋風のドンブリの湖面を湛えるカレーのとろみ。
カツをしっかと受け止めて浮かべる和出汁のとろみは、
汁の熱気をたっぷりと内包してる。
そこから引き摺り出した蕎麦が茶蕎麦色なのが、
なんだかちょっとシュールではありませんか(笑)。

10席ほどのコンパクトな客席ゆえ、
既に満席のタイミングとなることもある。
空席を待っている間にショーケースを覗くと、
納豆そばらしきサンプルがあったりする。それもいいなぁと、
そう思いつつ硝子戸を引いたのに、
註文したのは温かい「納豆そば」。
ネバネバの堪能には至らずも、
納豆の粒を掬いつつ蕎麦に絡めていただく感じもまた、
どうして悪くない。

またまた”自慢オリジナル”からと、
「ワカメそば」を選ぶおひる時もある。そうかと思えば今度は、
“特製品の部”からその末尾を飾る、
「椎茸そば」なおひる時もある。

そしてそして、お蕎麦やさんの「生姜焼き定食」も侮り難し。生姜の風味がぴりっと利いた、
まったりコクのあるタレがゴハンを誘う。
「さば味噌定食」あたりもきっと、
なかなか佳いのではないかと狙っています(笑)。

水天宮エリアの裏道に、
立派な扁額を額に掲げた街角のそば處「水天宮 長寿庵」がある。少なくとも創作意欲という点では明らかに、
茅場町の店を凌駕してると思うところ。
「冷納豆そば」に「鴨カレー南蛮」。
「開花丼」に「親子丼」も気にかかる。
あ、そうそう「熱ソーメン」はあっても、
「ソーメン」が品書きには見当たらないのが、
ちょっと不思議なところです。

「水天宮 長寿庵」
中央区日本橋蛎殻町1-33-7[Map]03-3667-3365

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