ロータリー越しに真っ直ぐ正面を見据えれば中央通りのゲートが望めて、その先には例えば懐かしの和風ラーメン「和鉄」を思い浮かべたりする。
左手を振り向けばそこには、大衆割烹「三洲屋本店」の暖簾がある。
駅前という立地も手伝ってか、昼から夜までの通し営業も嬉しい「三洲屋」ではきっと、土曜日の昼下がりに一杯やっつける紳士淑女がおられるものと思ったりいたします(笑)。
対して、蒲田駅の西口に出ると、ほぼ正面のサンライズ蒲田から左手へと自ずと目線が動く。
さらに左手のサンロードやさらにさらに左手高架脇のバーボンロードな横丁が実にいい味を出しているからなのであります。
どっこい、西口ロータリーのドン・キホーテ方向にも憩いの場所がある。そう、皆さんご存知の大衆酒場「鳥万」がその止まり木だ。
それはもう彼是ウン年前、蒲田といえばのキミマツさんとキミマツさん一ファンのlaraさんと落ち合ったのが初めての「鳥万」じゃなかったかな。
周囲のパチンコ屋やらの照明の影響でいっつも赤味を帯びているのがなんだけど、いつ見ても惚れ惚れするような雄姿ではありませんか。
キミマツさん等とテーブルを囲んだのは二階席だったりするのだけれど、ひとりでぷらっと寄る時は、まず一階に居場所を探すことになる。
わさっと混み合っているようでいて、大概どこかに空きがある入れ込みのテーブルなのであります。そこから厨房方向を眺めれば、ずらずらずらっとびっしり貼り込まれた品札が否応もなく目に留まります。
どんだけ迷わせようっていうのかねぇ(笑)。
黒ホッピーのセットと一緒に注文むのは、例えば「くじら刺し」。おろし生姜をのっけて醤油をちょちょんと漬けていただきます。
捕鯨の行方をちょっぴり憂いつつ、そのまま喰らう赤い身肉の滋味は牛肉とは一興違う趣きがいいよね。
くじら刺しを追いかけて注文むのは、例えば「なかおちユッケ」。玉子の黄身が綺麗に収まった鮪なかおちのクボミ。
これまた牛肉にあらずして、ふわりとした赤い身の滋味と脂を愉しめる。
黄身との相性も勿論の佳肴でございます。
冬場は特に欲しいよねといえば、例えば「かきフライ」。つまみにするには、こんなサイズの三個並びがちょうどよい。
二個じゃ寂しいし、四個じゃライスもらって食事にしちゃう方向だしね(笑)。
フロアのオバちゃんが注文の度に手にしてテーブルに置いていくのが、味の「鳥万」の伝票。流石、品数が多いだけあって、いつになく長いものになっている。
当然、ここに載っていないメニューもある訳で、注文受けるにも慣れが必須でありますですね。
あ、それもまたズルいと思うのが、例えば「納豆きつね」。油揚げの中に刻んだ長葱と納豆がやや控えめの量を詰めて炙ってある。
もっと中身があってもいいかなと思うも、油揚げと葱納豆とのバランスはこれでいいのだと思い直します。
練り芥子を溶いた醤油をちょちょんと漬けてね。
ホッピーのジョッキの向こうを幾人もの紳士淑女がやってきては、そして帰ってゆく。ま、もっとも、自分を含めたオッサン率は9割にも上ろうとするものでありますが(笑)。
例によってぐるっと見回した一階フロアは、この夜も混んでいる。
どふいふ訳か、案内されるのが女将さんがデンと構えるレジのすぐ横のカウンター席が多い。今夜も早速、ホッピーを所望しましょう。
たまにはとパウチされた手許のメニューをチラッとみて注文むのは、例えば「ねぎホイコーロー」。くたっと炒めた長葱の甘さとちょっと辛めに味付けた豚バラ肉が素直にイケる。
コレでご飯、でもいいかもしれません。
背中をちょっと反らせるようにして眺めたお品書きから注文んだのは、確か「つまみ穴子」といったでしょうか。生干しにしたような穴子を炙って短冊状に刻んだおつまみ。
ちょいと粉山葵を載っけるのもオツな食べ口です。
女将さんの声や話を聞けるカウンターの隅は特等席だと思うのだけど、唯一の難点はずらずらっと並ぶ品札をゆっくり眺めての吟味がし難いこと。そのため入口近くから店の奥の壁を眺めたりなんかするのでありますね。
酷暑の日の夕方なんかにいいよねと思うのは、例えば「冷やしおでん」。まさにおでんをそのまま冷蔵庫で冷やしてたらこうなった的な見映えであるけれど、煮凝り状になったスープが冷た旨くて愉しくなる。
冷やして崩れてしまう具材は除いているような気もするので、これ用に拵えたものなのかもしれません。
「かきフライ」に劣らぬ揚げ物の王道を注文みたいよねと思えば、例えば「あじフライ」。揚げ立ての鯵フライになんの文句がありましょか。
レジ前カウンターにいると、焼き鳥の注文が厨房に通る様子がよく判る。そしてその先には、焼き台があって、みるみる焼き色がついてゆく串の様子も観察できる。
然らばと、つくね、鶏皮、鶏正肉あたりのやきとりをいただきます。しっとりと細かく挽いたつくねの焦げ目に頷いてみたりする。
出色の焼き鳥という訳ではないけれど、きっとこの辺りに「鳥万」の原点があるのでしょうね。
蒲田駅の西口のザ・大衆居酒屋といえば勿論「鳥万」本店のこと。女将さんがレジを打ちながら身の上話を話してくれた。
千葉から出てきた女将さんは、新宿に出て過ごし、その後蒲田へと移ってきたらしい。
その当時蒲田で網タイツ履いていたのはアタシくらいのものヨとも仰る。
それは東口に下着の類を商いしている知り合いがいて、試しに買ってあげたらこれが破れなくて重宝したのだそう。
女将さんのお話は、戦時中のことにも及んで、兎に角戦争はダメよと実感を籠めて云う。
なんにもなくなった蒲田のこと、何故だか生姜だけはあってよく食べたと、そんなこともあったそう。
女将さんの出身地が千葉のどの辺りかは訊き損なったけれど、千葉駅の近くにあるという「鳥万」はもしかして支店にあたるのかなぁ。
あ、そうそう、秋葉原の銘居酒屋「赤津加」への道すがらでも「鳥万」の看板を見掛けたことがあるのだけれど、あちらも支店なのかなぁ。
まだまだ気になる品札目白押しのオトナのワンダーランドに、
今度はいつ寄れるかな。
女将さんに支店はあるやなしやなんて訊ねるタイミングはあるかな。
「鳥万」本店
大田区西蒲田7-3-1 [Map] 03-3735-8915