レストラン「Yoichi LOOP」で美しき鰊に牡丹海老きんき十勝牛余市ワインと余市料理

小樽商工會議所をリノベーションしたホテル、OMO5小樽を離れて、駅近くでレンタカーを借りる。
途中、祝津漁港の先、日和山灯台近くの鰊御殿に寄り道。
天候も相俟ってうら淋しく、小樽貴賓館の方が良かったかとちょっぴり後悔しつつ、次の旅先であるところの余市へと向かう。
そうは云っても余市は、謂わば小樽の隣町。
クルマで30分程の距離感だ。

JR函館本線の余市駅正面口のロータリー。
そこをくるりとすればもう、
目的地は目の前。
煉瓦風のタイルで化粧した外壁が囲む、
三階建ての建物が、この日のお宿。
隅切りの壁に縦に大きく設置された、
HOTELと示す壁面文字が目に留まる。

屋上の広告塔は今はもう使われていない。 駅を背に、ホテル前の道の先を見遣れば、
ご存じ「ニッカウヰスキー 余市蒸溜所」の、
欧州の城のそれのような石造りの正門が見える。

改修前は何に用いられた建物なのだろう。
建物内にエレベーターはなく、
敢えてコンクリートの土間とした様子の階段を、
えっちらおっちらと上がる(^^)。

案内いただいたのは、3階の一室。 ワインの熟成・貯蔵のために設けられた場所、
ワインカーヴから着想したという部屋には、
窓辺に寄り添うカウンターと一連の、
大きな冷蔵庫やIHコンロを備えたキッチンがあり、
板の間に仕立てた小上がりには炬燵。
周囲の壁は共用部に同じく打ちっぱなし。
要所要所に無垢の木材を配していて、いい感じだ。

ステンレストップのカウンターの上にあった、
余市・仁木ヴァンヤード&ワイナリーmapを、
何気なく手に取って眺める。 えええー!
余市町からその奥の仁木町にかけて、
こんなに沢山のワイナリーや葡萄園があるのか。
知らんかったー(^^)。

そんな驚きを小脇に抱えながらふたたび、
えっちらおっちらと階段を下りて一階へ。
今宵のレストランはもうそこにある。 促されるまま窓辺のテーブル席に腰を下ろせば、
硝子越しに暮れなずむ余市駅の駅舎が映る。

小さなレセプションとキッチンを囲むカウンター。
フロアの中央には大振りのテーブルがある。 横手の壁沿いには木枠と格子で造り付けたセラー。
ワインボトルが映えるよう計算された照明が点る。

厚手の漉き紙を用いたこの日のメニュー。 例によって食材のみが印字されている。
このスタイル、近頃ではもう定番であります。

コースに合わせて、ワインはペアリング。
2種類のワインでスタートする。 ひとつは「北ののぼ」スパークリング。
葡萄は地元余市の木村農園の、
ピノ・ノワールとシャルドネ。
岩見沢の醸造場10Rで搾り一次発酵まで行ったものを、
なんと、ご存じ栃木・足利のココ・ファームへ運んで、
瓶詰めして長期熟成させたものなんだそう。
余市の葡萄が足利からワインになってUターンして、
今ここで吞めるというちょと不思議な恰好だ。
林檎シードルみたいな不思議な香りがする。

もうひとつは「PRESAGE 2019」ロゼスパークリング。
余市を代表するワイナリーのおひとりという、
平川ワイナリーの平川氏の手によるもの。
使った葡萄の品種を決して語らない方、らしい(^^)。
余市のテロワールとしての素晴らしさを、
品種の先入観に囚われることなく味わって欲しい、
そんな想いがその背景にあるようです。

そんなワインとコンビの前菜のひとつが、
メニュー名「由栗いも(ゆっくりいも)」。 土の中で長期熟成させたサツマイモ、由栗いも。
法蓮草とパン粉のパウダーに支持された球形は、
ペースト状にしたイモの中にブルーチーズを詰め、
周りをカリカリにしてキャラメリゼした、
謂わばサブレのようなもの、だ。
とろーんとしたイモの甘味が愉し嬉しい。

もうひとつが、メニュー名「パニプリ」。 “パニプリ”は、インドのストリートフードを云い、
薄く揚げた生地(プリ)の中に色々な具材を詰め、
スパイスの効いた水(パニ)を注いで食べる、
一種のフィンガーフードであるところの、
そのアレンジ版がこちら。
中には発酵させた行者大蒜や甘海老、
クリームチーズやトマトなどを詰めている。
口に咥えた瞬間のサイズ感は、あ、たこ焼き(^^)。
中はジューシーで海老の風味がスッとくる。

お次のペアリングは「JASMIN 2023」。 JASMINと書いて、ジャスマンと読む。
フランス語的にそう読ませるのは、
フランスはボルドー大学を首席で卒業され、
フランスで醸造学を学ばれた件の平川氏。
フランス各地のワイナリーを回って学んで、
長くフランスに親しまれた方だそうだ。
氏はこうして、フランス語でちょっと抽象的な語彙を、
ワインの名とするみたい。
ジャスミンの花のような、
そしてリースリングに想うようないい香りがする。

ジャスマンとコンビの次のお皿は、
メニュー名「牡蠣」。 これまたパウダーを用いたプレゼンも、
今度は具材がまったく見えないよう、
濃淡二色の緑色に覆ってしまっている。

緑の色素の元は、春菊。
それをアイスっぽい冷たいパウダーにしている。
そのパウダーの小山を木匙で弄ると、
白いババロア状が顔を出すも、
それは牡蠣ではなく、ココナッツシート。 木匙をもっとお皿の底まで進めて、
底に潜むキウイの酸味を絡めた牡蠣と、
エキゾチックな甘さも孕むシートと、
春菊の香りと苦みも含むパウダーとを、
一緒に口に運んでくだされ、と。
なんだかちょっとややこしいけれど(^^)、
その味わいに「ジャスマン」がよく似合う。

お次のペアリングは、
「玉雪 TAMAYUKI rose 2023」。 エチケットには、
製造者、余市ワイナリー倶楽部とある。
当HOTEL&RESTAURANTを営む会社が持つ、
自社のワイナリーから醸造したロゼは、
ピノ・ノワールが7割で、
ドイツ原産のケルナ3割のミックスだ。
コクがあるのが特徴と云う。

そこへ若きシェフが登場。
海老のビスクを器に注いでくれる。 注いだ瞬間、ぶわわわーと海老が香る。
余市バージョンのビスクは、
余市で水揚げされた牡丹海老でつくったもの。
注いだ器で待ち構えていたのは、
だるまいも、という山芋の一種の角切りに、
ピーカンナッツ、青みを添えてソテーして。
海老のスープで喰わせるってのは、
まぁー、ズルいズルい(^^)。
でも、オマールと違ってさらりとしてる。
山芋の焦げたあたりもそそってきます。

イケメン系で女子ウケしそうなシェフは、
なんとびっくりの29歳だという。
ニセコの「KAMIMURA」にいて、
そこからご存じ「カンテサンス」へ。
「カンテサンス」には3年ほどいたらしい。
札幌「ル・ミュゼ」を経て、
今年からここのシェフを担うという。
およそ10年の修行と経験が長いか短いか、
それぞれの店でどこまでどう任されていたか、
そのあたりの状況にもよるし、
シェフ自身の感性や研鑽が及ぼすものは、
年齢や修行先だけでは測れない。
けれど、それにしても若いなぁ、
そして、カッコいい(^^)。

お次のペアリングも、
自社の畑からの「AMAMITSUKI 2023」。 大和言葉から「天満月」と名付けたという。
ドイツ原産のミュラートゥルガウをメインに、
ソーヴィニヨンブラン、ピノノワールの組み合わせ。
うんうん、ナチュールだねー、って感じのする(^^)。

これら自社ワイナリーで醸造したワインは、
お隣の「LOOP STYLE」というショップで買える。
実はもうレストランに来る前に、
何本か買ってしまっていたのだ(^^)。

そこへ今度は、懐かしきアルコールランプとともに、
実験装置的サイフォンがやってくる。
フラスコに注がれていたのは浅利の出汁。
上側の漏斗部には、セロリの葉にドライな海苔。
ランプの炎に温められ、サイフォンが機能して、
出汁スープが出来上がる。

余市と云えばやっぱり鰊。
お皿に待ち構えるは、美しき鰊だ。 軽くマリネし、ライムの皮を削り散らした鰊。
そこへ、出来上がったばかりの出汁スープを注ぐ。

エッジの利いた鰊が載る法蓮草のソテーには、
若布のエッセンスを含ませ海藻に見立てていて、
その底には梅肉とも思えるペーストが潜んでいる。
なんだろうと訊けば、ナメコのピューレだという。 鰊に臭みなんて勿論、皆無。
フレッシュな鰊がいただける貴重な土地ならではの、
有難くも不思議に美味しいひと皿であります。

お次のペアリングは、
「ebe otus wein 虹 2023」。 余市からちょっと離れて旭川近くの江部乙から。
平川ワイナリーで醸造を学んだ方が独立して、
漸く自ら醸造しリリースしたもの。
その名に”虹”とあるように、
ピノノワールにオーストリア原産ツヴァイゲルト、
シャルドネやリースリングなどなど、
なんと7種類の葡萄を使っているという。
複雑そうでいてどこか、率直で素直な味わいだ。

そんな7色のワインとコンビを組むのが、
メニュー名「アスパラガス」のひと品。 出始めのアスパラガスを軽くソテーし、
これまた軽く火を入れた北寄貝を載せて。
北寄貝の周りには、
細かく刻んでカリカリにした帆立を纏わせている。
シャクっと噛むアスパラから零れる汁が、
甘くて旨くて、うんうん頷く。
そしてそこへ火入れで甘さの出た北寄貝と、
カリカリの中から滲む帆立の風味が、いい。

お次のペアリングは、「東風(こち) 2023」ロゼ。 ピノにソーヴィニヨンブラン、ツヴァイゲルト。
さっきの「玉雪」と違って、
ピンクグレープフルールっぽさが個性という。

まるで甘鯛の鱗焼きのように、
皮目を立たせて揚げ焼いたのは、
北海道の「きんき」。 北海道で「きんき」と呼ばれる深海魚は、
つまりは、キチジ(喜知次)のことだ。
魚介のスープをたっぷりと含ませて、そこに、
蕗の薹のちょっとした苦みを添えたクスクスが、
きんきを下から支えている。
全体のトーンは控えめで、和食のようだ。

お次のペアリングは、
「ヨイチ・ノボリ パストゥグラン 2022」。 “ノボリ”は、余市町登地区のこと。
余市でもっとも有名な作り手として知られる、
ドメーヌタカヒコの曽我貴彦氏のワインだ。
この方がいるからこそ、
余市のワインづくりが盛り上がっていて、
世界中のワインラバーが、
このワインを飲みたいがために余市を訪れるという。
2022は、70%のピノノワール、30%のツヴァイゲルト。
うーむ、余市のワインがそんなことになっているなんて、
まるっきり知らなかったなぁ(^^)。

牛や鹿によく合うワインのグラスを手にしたところに、
メニュー名「十勝牛」が届く。 これまた、ソースを注ぎ垂らして完成する。
咀嚼するほどに赤身肉の旨味がとても濃く感じる。
そこへソースが、旨味に奥行きを与えてくる感じだ。

付け合わせは、牛蒡のペースト。
舐めればめっちゃゴボウゴボウゴボウ(^^)。
この牛蒡の風味にも件の赤がよく似合う。 そして、ゴロっとしたのがなんと、
「月光」というブランドの百合根。
こんな大きな百合根は初めて見る。
牛と同じ十勝の近郊で産するものだという。
ホクホクしてめちゃ甘い薩摩芋みたいだ。

お次の、そして最後のペアリングは、
デザートに合わせた甘口ワイン、
「北ワイン ケルナーレイトハーベスト 2021」。 最初に呑んだスパークリング「北ののぼ」と同じ、
余市町の木村農園で遅摘みされたケルナー。
11月中旬位まで待って、本当に完熟して、
糖度が上がってから収穫したもの。
ただ、妙な甘ったるさはなく、
上品で自然な甘さのデザートワインだ。

最後のメニュー名は「林檎」。 自社の畑では林檎も作っているという。
トップに積むように鏤めた林檎には、
柑橘のアクセント添えている。
このフレッシュな林檎、めっちゃ甘い。
パイの中には、煮詰めた林檎と洋梨が詰まってる。
美味い美味い、酸味もいい。
その脇の何気ない様子のアイスが、
紛うことなきカマンベールチーズ風味で、
思わず笑ってしまいます(^^)。

ペアリングしたワインのボトルを、
センターテーブルに並べてくれた。 ちょっとした壮観ではありますまいか。
こんだけ呑んだけど、酔いが心地ちいいンだ。
タカヒコさんのワインを一番に求めて来る方が、
圧倒的に多いのだけれど、
決して生産量が多い訳ではなく、
ボトル売りをしないという約束になっているそう。
それ故、ペアリングで提供するというスタイルになると、
そういうことでもあるンだね。
もっとも、沢山のワイナリーを要する余市の、
バラエティーを愉しむについても、
ペアリングが合っていると思うのであります。

満ち足りたお腹を摩り乍ら、
雨上がりの余市駅前から改めて、
隅切りのネオンサインと建物を眺める。 イマドキなのでLEDなのだろうと思っていたけれど、
ズームして光源の周囲をよく見ると、
碍子が立ち上がっているようにも見える。
旧来のネオン管なのかもしれません。
いや、流石にそんなことはないか(^^)。

やはりこの赤いネオンサインを縦に据えた、
この建物の夜景が印象的だ。 ライトアップしている、
ニッカ余市蒸溜所の正門がその先に望めます。

小樽の先、小樽の隣町にして、
ニッカ余市蒸溜所で夙に知られた余市駅駅前に、
RESTAURANT「Yoichi LOOP」は、ある。 Webページには、”ワイナリーの空き部屋に泊まる”、
“ワインを楽しむホテルです”との記述がある。
周知の余市蒸溜所を追い駆けるようにして、
既にもう余市のアイコンのひとつになっている、
と素朴にそう思う。
フレンチの手法・仕立てをベースにしつつ、
余市の食材を活かし、
余市のワインと合うレシピを志向していけば、
重めのソース使いのというより、
和食寄りのテイストが多めになるのはよく判る。
新任の若きシェフが如何に、
“余市料理”としてのひとつひとつのお皿に、
“余市料理”らしさの一貫性と多様性を、
より深めて表現していくか。
愉しみですね。

「Yoichi LOOP」
北海道余市郡余市町黒川町4丁目123 [Map]
0135-21-7722
https://yoichiwine.co.jp/

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