
余市で一宿一飯の、いや二飯のお世話になったのが、余市駅前に小さなランドマークのように建つ「Yoichi LOOP」だ。
ワインの熟成・貯蔵のために設けられた場所、ワインカーヴから着想したという部屋は、モルタルと木の風合いに妙に落ち着く印象がした。
夜には、1階のレストランでオーベルジュよろしく、余市地物のワインのペアリングとともに、余市料理たるフレンチベースのコース料理を堪能した。
翌朝には、同じレストランフロアがなんと、
HERRING RAMEN「よいち」の暖簾を掲げる、
鰊らぁめんの店に変貌するという僥倖に。
そんな「Yoichi LOOP」から目と鼻の先、
「Yoichi LOOP」の建物越しに見遣ることができるのが、
余市と云えば、まずその名が挙がる、
ご存じ「ニッカウヰスキー 余市蒸溜所」だ。
生憎の雨模様の中、予約時間に正門を訪ねる。
石造りの正門も、そこから左右に連なる壁も、
ちょっとした欧州の小城のようだ。
チェックを受けて所内へと進み、
ビジターセンターで映像を観て、
まずは蒸溜所の基本的なことを知る。
そして広場へと出ていよいよ、
ガイドに率いられての所内見学だ。
右手に奥へと向かって、
乾燥塔(キルン塔)、粉砕・糖化棟、発酵棟が並ぶ。
背景が澄んだ青空だったらもっと良かったのにね。
発酵棟から蒸溜塔へと進めば、
例えば、仙台の宮城峡蒸溜所でも、
京都の山崎蒸溜所でも、山梨の白州蒸溜所でも、
目にした憶えがあるのとおよそ同じ光景がある。
余市蒸溜所のポットスチルは、4基。
伝統的な「石炭直火蒸溜」で行っているのも、
余市蒸溜所の特徴のひとつ、だ。
見学エリアからでも頬に直接の熱を感じる。
と、ちょうど偶々、石炭を焼べる時間とのことで、
蒸気機関車よろしく炉の蓋が開かれ、
轟々と燃え盛る火の中へと、
石炭を放り込む様子が間近で見ることが出来た。
蒸溜後の原酒を樽詰めしたり、
熟成を終えた原酒のブレンドなぞを行う、
混和棟を経由して、
創業時に建てられたという一号貯蔵庫へ。
大きめの石造りの納屋にようにも見える貯蔵庫は、
イメージからすれば、こじんまりとしたサイズ感。
上方や横方向ばかりか、地下へも広がっていて、
大容量の樽貯蔵に感嘆した白州の貯蔵庫とは、
如何にも隔世の感があるなぁと思い入る。
創業前に建てられ、以後半世紀に亘り、
研究室として使われていた旧研究室や、
竹鶴夫妻が暮らした余市町郊外の住居を移築した、
和洋折衷のスタイルの旧竹鶴邸の外観も拝んだ。
朝ドラ「マッサン」に登場したシーンと、
およそ同じ光景だったのかもしれないね。
さてさて、小樽~余市への旅を終えて、
札幌へと出てきたその夜のこと。
札幌市電の中央区役所前停留場近くにある、
「やまさ和」で地鶏料理を堪能した足で、
投宿したホテルのあるすすきへと戻ってきた。
路面電車を降りたところから見上げれば、
ブラックニッカの”ひげのおじさん”が、
ネオンサインに浮かび上がる。
札幌・すすきのと云えばまず、
この光景が思い出されましょう。
この”ひげのおじさん”こそが、
ブラックニッカの象徴、
“KING of BLENDERS”。
同じような髭を蓄えたことからも、
竹鶴政孝そのひとをキャラクター化したものでは?
と問われた竹鶴ご本人は、
わしは自分の顔をラベルに使うほど、
厚かましくはないぞ、と応えられたそう。
そして、このすすきの交叉点には、
全国の「NIKKA BAR」の中でも唯一、
定冠詞THEの冠のつく店、
「THE NIKKA BAR」がある。
“ひげのおじさん”のネオンサインのあるビル、
まさにそこにあれば、とても美しいのだけれど、
残念ながらそうではなくて、
ネオンサインに向かって左手並びのビルに所在する。
そのあたりはまぁ、ご愛敬ということで(^^)。
過日、二軒目にと訪ねたところ、
満席札止めだったことを踏まえての、
そうかそうだよね人気の店だもんねと、
この夜にはあらかじめ予約を入れておいた。
バーへ行ったら腰を据えるのは、
カウンターの止まり木へと相場が決まってる。
でも、3名さま以上ともなると、
カウンターへというのは原則なし、みたい。
ということで、カウンターの客たちをシルエットで、
バックバーをやや遠目に眺めるに感じになった。
余市蒸溜所のディスティラーショップで、
久々にそのボトルを見付けて懐かしくて、
でも、商品がなく買えなかったのが、
NIKKA WHISKY「FROM THE BARREL」。
そうそう、この四角いボトルが印象的で、ね。
熟成モルトとグレーンをブレンドした後、
ふたたび貯蔵するというスタイルのブレンデッド。
割り水を極力控えてボトリングするという。
なんかこう、コクのある感じのするのが、
懐かしさとともに美味しく思えて、いい。
そんな懐かしいグラスが敷いていたコースター。
そこにもやっぱり、ひげのおじさんがいる。
「宮城峡」も「竹鶴」も勿論悪くない。
でも、もう一杯を何にしようかと悩んだら、
余市帰りですものやはり、「余市」と参りましょう。
蒸溜所の名前をそのまま冠したシングルモルト。
それをトワイスアップTwice upで。
樽の甘さにピート香とその芳ばしさを、
しっかりしたボディが包み込む感じ、か。
お供のチョコレートを少し齧って、
またひとくち、そしてまたひとくち(^^)。
夙に知られたすすきの交叉点角地ビル隅切りの、
“ひげのおじさん”のネオンサインの並びのビルに、
Bar「THE NIKKA BAR」は、ある。
永らく懸案の余市蒸溜所を訪ねることが出来て、
その流れからここに来れたことが秘かに嬉しい。
ブラックニッカのネオンサインの掛る、
すすきのビルでもテナントの出入りがあるようなので、
隅切り部分のフロアへの移転によって、
すすきの交叉点を真っすぐと見下ろす、
ニッカバーのカウンターが出来たらいいな、
なんて妄想を抱いたりなんかしてしまいます(^^)。
「THE NIKKA BAR」
北海道札幌市中央区南4条西3丁目1-2 第3グリーンビル2F [MAp]
011-518-3344
https://nikkabar.jp/