コレクターを自任されている御大が珍しくも空けずして再訪している様子と”濃厚煮干し”というフレーズとの合わせ技で気になっていた店を目掛けて歩む、雨の芝大門。
増上寺大門の向こうに、ダイアモンドヴェールと呼ぶ限定ライトアップの東京タワーが雨に滲んでいます。
そしてその大門の前を左に折れた、ちょうど「麺屋大斗」の向かいあるのが、この3月にオープンしたという「麺や ポツリ」だ。
サッシュの内側に入るとあっという間に眼鏡が曇る。
すぐ脇にある券売機でチケットを買おうとするも、まるで見えないので眼鏡を顔から外して、どれどれと。
「麺や ポツリ」のお品書きには、大きく3カテゴリー。
「つけ麺」に「中華そば」、そして「油そば」という構成になっています。
まずはやっぱり、気になっていたフレーズの「濃厚煮干しつけ麺」からでしょう。
チケットを渡して待っていると、後からやってきて3人組みが既に済ませていた注文を途中から「熱盛りに変更して」と厨房に声を掛けた。
すると、その連中へのオーダーが先に届いて、こちらには一向に届かない状況に。
まぁ、多少前後はするもんだと待ちつつ様子を窺うと、どうやら自分用の麺がすっ飛ばされちゃった模様。
そろそろ云わなきゃいけないかなぁと思ったところで、厨房の彼が気がついて、ハッ!という顔をした。
丁重なお詫び姿勢とともに「手違いあり遅くなっていて申し訳ありません、もう少々お待ちください」と云ってくれた。
云われる前に気付いてくれたことにかえって好感しているところへ、味玉・チャーシュー増し盛りの皿を「サービスです」と持ってきていくれたもんだから、「いやいや、そんな、いいのに~」的な感じになったりして(笑)。
選んだ大盛りでやってきたどんぶりには、褐色艶やかな太めの麺。
「小麦胚芽麺」を謳うだけあって、なるほど京都の「ろぉじ」「高倉二条」で味わった全粒粉使用の麺にも似た粒々が力強さを窺わせる麺の表情を飾っています。
つけ汁は、例のとろみコッテリ&魚出汁なノリのもの。
珍しくも拍子木に切ったチャーシューを浮かべています。
むんずという感じで麺を掴んで、そのつけ汁に浸して、啜る。
とろんとした汁が口の廻りやら眼鏡やらに撥ねる。
おおお、旨い。
例えば、一種の荒々しさも魅力の一面だと思う「六厘舎」を比較対象とすると、丁寧に作り込んだセンスの良さのようなものが、麺につけ汁に表現されているような気がする。
ただ、つけ汁からは、「濃厚煮干し」のタイトルに期待したような煮干しの風味は感じない。
濁りとならないよう下処理に手間をかけているのか、そうはいっても高価な煮干しを贅沢には使えないということなのか、そもそも「煮干しが濃厚」という意味ではないのか。
それでも期待外れに思わないのは、ただただ、旨いからなンだけどね。
日を改めての、大門の夜。
実はもう4度目の訪問なのです。
この夜は、初訪問と同じ席にて「味玉中華そば」。
「中華そば」らしい風貌のどんぶりには、渦巻きのナルトも載っている。
魚出汁エキスが濃密に訴えつつ、それはあくまで丁寧で、麺を含めたさまざまな要素とのバランスがとれている感じ。
そしてこのどんぶりにも、つけ麺で感じたようなセンスの良さが全面に発露されていること思ったりする。
いやー、こっちも旨いです。
味玉がほんのりと赤味がかっているのは、ワインに漬けているからなんだね。
大門にこの3月に出現したという、「麺や 大門」。
なぜに「ポツリ」なのかと訊いたらば、やや気恥かしさを漂わせつつ、こう応えてくれました。
「狭い間口のこの物件を最初眺めた時、なんだかポツリとあるなぁ、と思ったからです」。
なるほどね。
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つけ麺や「ろぉじ」 で挽きぐるみ的つけ麺と鯛ぶぶ京の路地(08年05月)
「麺や ポツリ」
港区芝公園2-3-9 第二モリモトビル1F[Map] 電話番号不詳
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