
川面を眺めながらの河原での夕涼みとか、
川辺でのバーベキューの麦酒とか、いいよね。
海辺の魅力とはまた違う水辺の情緒が素敵です。
その一方で、電車が踏切を滑り抜ける姿とか、
鉄道車両が鉄橋を駆けてゆく光景には、
鉄ちゃんならずとも、しばしそれをじっと眺めてしまう魅力がある。
そんな、川沿いの魅力と鉄道脇の情緒をお酒と一緒に一度に楽しめてしまう場所があると知って、
以前から行きたいなぁと思っていました。
タワーマンションが林立し躍進目覚しい武蔵小杉駅でJR南武線に乗り換えて、
降り立ったのは稲田堤駅。
そこから一路、多摩川の方向へと向かいます。
多摩川の土手を走る車をやり過ごして、土手の向こうに立てば、
お目当ての建物が見下ろせる。
戸外に置かれたテーブルは既にもう、お客さん達で賑やか。

運よく席を離れる親子がいて、居場所を得ることができました。
早速、厨房があるらしきところの列に並ぶ。
残念ながらもう「牛もつ煮込み」は、品切れの様相と知る。
隅ではおばちゃんが焼きそばを炒めたり、
焼き鳥の串を動かしたりしています。

振り返って眺めた店内が割とガランとしているのは、
こんないい日和の午後にはみんなやっぱり外の席がいいからに他なりません。
さてさて、ジョッキの麦酒をゲットして、いざいざ乾杯!

ジョッキを傾け、ぷはーとしたところにそよそよっと風が吹いて、
あー、なんともいい心地であります。
盛り合わせをするにももう、おでん鍋の中は空になる寸前で、
ではそれだけでもと頂戴した「おでん」の竹輪。

残り物にたっぷりと汁が沁みています。
多摩川の向こう岸は、調布の街並み。

鉄パイプを組んだ簡易な屋根に日除けの葦簀。
流れる雲に秋の色が覗いています。
品切れだったけれど、やればできるよと云われてお願いした「枝豆」は、
つまりは湯掻き立て。

まだまだ温かい枝豆をつるんと口に搾れば、ああ旨い。
塩梅よき湯掻き立ての枝豆がいただけるとは思いませんでした。
そして、川のやや上流を走るのが京王の相模原線。

この自転車に乗り、犬を連れてやってきた捻じり鉢巻きのおやじさんは、
店の入口を入ったり出たりしながら何かしらお世話をしているようだけど、
常連さんなのかな、それともお店のスタッフなのかな、どっちだろ(笑)。
「ホッピー」と迷いつつ、シンプルに「チューハイ」を。

一緒に注文んだ「冷奴」も、このシチュエーションでは格別に美味しく思えます。
そして、タレでお願いしていた「焼き鳥盛り合わせ」5本がやってきた。

「とり正肉」「つくね」「白モツ」と豚の「カシラ」「レバー」あたりでしょうか。
そうそう、この辺りで「焼きそば」もと思ったら、なんと売り切れ。
しまった、さっき注文しておくのだった!
ないと知ると益々募る、「焼きそば」恋し(笑)。
そうこうしている裡に、鉄橋の向うに夕陽が沈んでゆく。

川縁からは、爪弾くギターの音が聞こえてきました。
多摩川の河川敷に建つ、心地良き休憩茶屋「たぬきや」。

「たぬきや」はなんと、昭和10年から営んでいるという。
嘗て、鉄橋の下辺りを渡し船が行き来し、土手の両側が桜並木で、
何十軒もの茶屋が並ぶようなちょっとした名所であったらしい。
それが今や、一軒のみ残る川岸の憩いの場となっているんだね。
ちなみに、河川法では、河川を排他・独占的に使用したり、
河川に工作物を設置することを制限している。
河川管理者が特定の者に、河川敷の占用を許可している場所もあるけど、
一般に許可を得られているのは地方自治体である模様。
「たぬきや」の心地よさは、
昭和の初頭からの歴史があるからこそ享受できる特別なことなのかもしれません。
秋が深まった頃には、冬季限定「とりなべ」「湯豆腐」や「みそおでん」で、
お酒を舐めるのもきっといい。
その時には、食べそこなった「牛もつ煮込み」や「焼きそば」もいただかなくっちゃ(笑)。
「たぬきや」
川崎市多摩区菅稲田堤2-9 [Map] TEL非公開
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