沖縄料理「よね屋」で波の上ビーチの後のオリオンビールオヤジさんとの四方山話

何度も徘徊しておよそその様子の表層ぐらいは知っているつもりの沖縄・那覇。
ただ、石垣島への中継地として降り立つことが多かったし、那覇から今帰仁あたりへすぐ移動するということもあって、那覇でのんびりという旅はあまりしてこなかったような気がする。
しかもクソ暑い頃に訪れるのがほとんどで、初夏から晩夏以外の時季の那覇を訪れたのは初めてに近いかもしれません。

ダイビングを含め、特に何をするでもない旅にしよう、
ホテルのプールサイドに寝っ転がって本でも読んで過ごす、
ってなつもりでいたのに、なんと既にプールの営業が終わってた(笑)。
しかもビーチですら開場しているのは、
那覇近郊で二か所しかないという。
逆になかなかない機会かもと、
那覇の街の海側、市街地に寄り添うようにある波の上ビーチへ。眼前に空港へ向かう高架の道路が通るという、
不思議にアーバンなビーチなのだけれど、
流石沖縄、水も砂も十二分に綺麗だ。

ひる前から15時過ぎ頃までビーチのパラソルの下で過ごし、
部屋に戻ってシャワーを浴びて、
ホテル近くの県庁舎辺りを徘徊する。信号に立ち止まって振り向いた先に見付けたのが、
ハイビスカスに埋もれるように佇む草臥れた建物。
「よね屋」と示すベージュのテント地。
暖簾を挟んで揺れる赤提灯が、ザ居酒屋の風情だ。

恐る恐るドアを開き入ると、店内の古色も色濃い。
屋根からの雨漏りの所為か、
シミのついた天井板の一部は剥がれ落ちている。
おでん鍋は既に中身が片付けられた後で、
逆さまに被せられてしまっている。

ぐるっと見回した店内には、
フィギュアを飾る棚の前に古びたギターが置かれ、
小上がりの柱の周りには漫画の単行本が堆く積まれてる。

カウンターの中の厨房へと軽く会釈をして、
海の後のシャワーの後のオリオンビールが、
そして、まだまだ明るい裡からのオリオンビールが、
兎に角旨い(笑)。おでん出来ますかと訊ねると、
傷まないようにしまってあったのか、
てびちを含むおでんがドドンとやってきた。
煮崩れる前に止めておいた感じなのかもなぁとも思うほどに、
じっくりと煮含められた大根やてびちがイケる。

「よね屋」の泡盛は、久米仙一本遣り。厨房のオヤジさんと四方山話に小さな花を咲かせ乍ら、
久米仙をちびちび舐めます。

立て掛けたコルクボードの短冊を眺めて、
ツマミになりそうな「トーフチャンプル」を単品でいただく。なつかしの味「食堂カレー」とか、
沖縄ではご飯モノらしいという「ちゃんぽん」も気になるところ。

他に客がいなくなった後、オヤジさんが厨房から出てきて、
カウンターの対角線に腰掛けて四方山話の続きとなる。
近隣の飲食店の経営者から色々な相談を受けることがあるそうで、
意欲ある若者たちがここ一年で何軒もの店を新たに出したのに、
コロナ禍の所為で休業を余儀なくされ窮地に陥っているという。
開業の借金だけが残ったなんてことになったらと心配頻り。
頼り甲斐のありそうなオヤジさんは、
きっとこの界隈の親方のような存在なのでしょう。

そんなオヤジさんは、
戦後の那覇の変遷していく様子をつぶさに見続けてきた。
右側通行だった道路が左側に換わる瞬間も見届けていたんだそうだ。
ちょうど波の上ビーチにも近い辻地区は嘗て郭所で、
戦後、駐留米兵などを相手にした私娼蔓延る歓楽街となり、
バーやクラブなどが多くみられたという。
歓楽街としては廃れてしまった今でも、泡店やホテルが散在し、
駐留米兵相手の名残りのアメリカンな雰囲気も加味して、
妖しい魅力を漂わせているので、
ぜひ徘徊してみて、とオヤジさんは薦める(笑)。人類の地球環境に対する驕りと行き過ぎたグローバル化に対して、
神様が警鐘を鳴らしているんじゃないか、
くらいにも思えてきたよ、このコロナ禍。
なーんて話までしているうちに、
外はすっかり暗くなっていました。

ふたたびオヤジさんのご尊顔を拝そうとひる頃の県庁の近くへ。
カウンターの同じポジションに腰掛けるも、
厨房にオヤジさんの姿が見当たらない。
オヤジさんの代わりに厨房に立つ男性の顔立ちを見てすぐ気が付いた。
間違いなく息子さんだ(笑)。

やっぱり「食堂カレー」や「ちゃんぽん」が気になりつつも、
「ソーキそば」な気分に素直に従って、
オバちゃんに声を掛けます。
おいなりさんを添えてもらいましょう。特筆するような個性はないけれど、
澄んだ旨味がひたひたと迫る優しき一杯。
後半は、既製の醤油注しに入れたお手製と思しき、
コーレーグースをちょい垂らして変化を愉しみます。

那覇は沖縄県庁近くに沖縄料理「よね屋」はある。オヤジさんを慕う地元の後輩たちの動静も気になりつつ、
やっぱり「食堂のカレー」や「ちゃんぽん」も気に掛かる(笑)。
そしてまたオヤジさんとゆっくり四方山話をしに寄りたいな。

「よね屋」
那覇市松尾1-10-1[Map]
098-867-4575

column/03829