
入間から越谷までを結ぶ一般国道463号線は、航空公園の角から北浦和辺りまで17kmに亘って欅並木が続いていて、「日本一のけやき並木」とされている。
所沢市内大六天交叉点から入間までの区間は、並行してバイパスが設けられて幾分か渋滞が軽減したものの、
逃げ場のない主要幹線道路として混み合っていることが多い。
入間に向かって車を走らせ、
小手指陸橋北の交叉点を過ぎて進んだ辺りに、
その前を通る度に気になる建物があった。
光沢のある象牙色の大振りのタイルを貼り込んで、
キューブかスクエアかという印象のする、
郊外たる周囲の様子とは隔絶した平屋の建物。
壁の「CP」という英文字2文字には、
RESTAURANTの文字が添えられている。
どうやら歴としたレストランであると知り、
機会を待って伺うことにしました。
お酒もいただくならと、
小手指駅の北口からのんびりと歩いて向かう。
行政道路を渡り、白い建物の左手へ回り込むと、
裏手の駐車場側にレストランへのアプローチ。
車の行き交う街道から少し距離をとって、
静かな裏手からの動線とする。
成る程、こういう外構の構えになっていたのだね。
生憎の曇天ながら、
木々の緑や花の彩りが鮮やかに映る庭園を往く。
高めの植栽で周囲の風景を遮断して、
意図した雰囲気づくりへの腐心が偲ばれる。
エントランスで外套を下して、
ダイニングフロアへいざ。
白を基調に淡いアースカラーで整えていて、
落ち着いた大人の空間に仕立てている。
壁には絶妙の間隔で絵画の額が飾られている。
テーブルに着いてまず迎えてくれるのが、
お皿に描かれたシャガール。
それぞれのお皿にそれぞれのシャガール、だ。
口開きにシャンパンのグラスを。
本日のグラス・シャンパーニュは、
Henriot Brut Souverain。
“至高”と謳うだけあって、美味なるぞ(^^)。
品書きにない最初のお皿は、
シェフからのサービスというアミューズ。
ハムのムースを包んだシュークリームに、
フォアグラでつくったアイスクリームを挟んだクッキー。
ブランマンジェは、なんとベーコンでつくったもの。
野菜の色素で色付けしたというゼリーが飾る。
見た目はまさにデザートだけれど、
勿論甘くはなく、加減のいい塩味のする。
この時点でシェフの塩野さんが挨拶に来てくれる。
厨房で忙しいはずなのに、有難い(^^)。
塩野恭男シェフは以前、銀座「レカン」にいて、
十数年在籍し、副料理長まで務められたそう。
そして、”お食事の流れ”の簡潔な説明がある。
最初に気持ちとお腹の準備が出来るようで、
これもまた、有難い。
何気なく老舗レストランの風格を思わせるあたりは、
塩野シェフの差配によるものなのかもしれません。
テーブルに届いたのは、
玉子のような割れ物を包むようにした、
両掌のモノクロームをプリントしたお皿。
相棒のお皿には女性の掌のプリントが施されている。
お題は、当レストランの人気メニュー、
エッグキャビア、だ。
卵を低温でゆっくりと火を通した、
ウッフ・ブルイエで玉子の殻を満たし、
上にも中にもたっぷりとしたキャビア。
温かで柔らかな玉子料理、うんうん、美味しい。
滑らかさに、時間をかけた調理を想像する。
キャビアもきっといいものに違いない。
インパクトのあるお皿は、
フランスのリモージュ、ベルナルド製。
リモージュ村の工芸品をひっくり返すと、
なんと掌の外側がプリントされている。
そのプリント部分は、触れるとまるで、
指紋があるような凹凸まであるのだ。
続いて、オードブルな野菜と鮮魚のカルパッチョ。
お魚は、静岡・焼津からの白身魚ウスバハギ。
それは、ご存じ、サスエ前田魚店からのものだという。
スガシカオ(“kokua”)の「Progress」でもお馴染みの、
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」や、
TBS系「情熱大陸」でもその仕事っぷりが紹介されていた、
“日本のトップクラスの魚屋”とも称される、
人気老舗魚屋と取引できるというだけでも、
なかなかのことではあるまいか。
なんと、埼玉県内では、唯一此処だけが、
サスエ前田魚店と取引しているのだそうだ。
カワハギ科の薄葉剥に施しているソースは、
白馬村から届いた食用の鬼灯。
この鬼灯が甘くて、美味しい。
鬼灯のソースがよく似合う、
花弁のようにも見えるウスバハギの下には、
セルクルに詰めたであろう野菜たち。
オレンジ色は、バターナッツかぼちゃ。
薩摩芋の紅はるかや銀杏、などなど。
一番下のエッジの利いた土台は、
人参のアロマレットをババロアにしたもの。
ここ、絶対に、しっとり甘い。
ペロッと食べちゃった後で、
手許のお箸をじっと見る。
これまたユニークな硝子のお箸は、
菅原工芸硝子による一本づつ手作りの品。
お皿も中空にしてあり、
例えば、植物をあしらったり出来る。
でも、おウチではとっても使い難いよねーと、
メートルと一緒に笑い合う(^^)。
お次の白のグラスは、
2021 R de Rieussecエール・ド・リューセック。
葡萄は、ソービニヨンブラン。
ハーブっぽいニュワンスが、いい。
続くお皿もお魚系で、
それは、甘鯛のうろこ焼き。
甘鯛の鱗を立てるように焼いている。
細やかなカリカリのサクサク食感が愉しい。
和食の松笠揚げと似ているけれど、
鱗や皮目の面から揚げ焼きしているのが、
見た目からも想像できる。
ボリューム感を出しつつのトッピングは、
白髪葱的葱をフリットしたもの。
甘鯛のサクサクに葱のサクサクをON。
雑穀米的下敷きには、
黒紫米や麦、米を蒸しあげたもの。
添えられたソースは、ソースバス。
野菜の甘味だけでつくったソースだ。
champignon茸と題したメニューは、
数種類のキノコを使ったクリームスープ。
蓋を開けば、ほーら、香る薫るー。
浮かんでいる黒トリュフ。
それに、ホワイトマッシュルームに、
菌の異なるブラウンマッシュルーム。
椎茸に舞茸、占地などなど。
あー、色々入ってるーなー。
豊かな芳醇な香りで愉しませ、
口に含んでまたしみじみと旨い。
添えられたスプーンは、
先端がカットしてあり、
最後のひと雫まで掬えるようになって、
ホントもー、願ったり叶ったり(^^)。
メインのお魚は、
函館から届いたマゾイのポワレ。
それは、ポワレかムニエルか(^^)。
脂がのった旬の白身魚は、
狐目張とも呼ばれるメバル科の魚。
トップには、ワイルドライスのパフェ。
ここでのパフェとは、あのパフェではなく、
“石畳”つまりは敷き詰めるという意味で、
文字通りマゾイの上に載せられている。
下のグリーンのソースは、
あおさ海苔と浅利のソース。
両者からの出汁がたっぷりと下支えしていて、
その底にはさらにレンズ豆が潜んでる。
身の厚いマゾイの焼きの部分と、
ソースの合奏が、いい、いい。
お次はメインのお肉料理なのだけれど、
そこは敢えて白ワインをと、
LES VINS DE YURA 2022。
地域は、ドイツとの国境近くアルザス。
葡萄は、ピノブラン100%。
“YURA”とあるのは、
アルザス在住の日本人初生産者、
由良さん夫妻のことだと聞いてびっくり。
オーガニックで生産量も少なく、
まだあまり日本に入ってきていないものの、
近く話題になるかもしれない、と云う。
そしてメインディッシュは、
フランスの伝統的な料理、ロッシーニ。
国産牛のひれ肉とフォアグラを焼き上げて、
トリュフをたっぷり使ったソースで仕上げた、
見目麗しいお皿がやってきた。
福井は越前打刃物のひとつ、
「龍泉」のお肉用ナイフですっと切り入れ、
フォアグラと牛ひれ、そしてソースを、
ひと纏めにして口に運ぶ。
三位一体の味わいに、脳内で唸る(^^)。
重厚な肉料理はあまり得意ではないのに、
なんだかペロっといけそうだとすぐ思う。
塩野シェフがレカン仕込みのソースを、
より丹精込めてつくったものなのでしょう。
デザートは、モンブラン。
周囲は勿論マロンクリームを纏わせ、
栗のグラッセに塩生クリームを閉じ込めて。
鏤めたカカオニブの香りと苦みも、いい。
なんだか呪文のようだけれど、
ネスプレッソのリストレットを、
エスプレッソのダブルで添えて。
所沢市内の幹線道路、国道463号線沿い、
小手指陸橋北交叉点近くに、
RESTAURANT「CP」は、ある。
メートルと思しき紳士に、給仕の途中こう尋ねてみた。
「CP」って、コストパフォーマンス、じゃないですよね?
すると朗らかな苦笑いとともにこう応えてくれた。
一時期随分と皆さまがそれを仰られて……。
オープン当初は、「CP」という言葉の意味自体は、
皆さまにご説明、公開していなかったのです。
コスパという言葉が流行った頃には、
あまりにもその呼び名が呈されるので、
そういうことにしておいてもいいかという、
そんな風に考える時期もあった、そう。
しかし乍ら、それではあまりに業務的で、
夢がないとのご指摘もあり、
今は、”クリエーション・プロダクツ”と説明している。
共に創り上げる=共創、というような意味合いで、
6年前に塩野シェフを迎えたの際に、
食器も椅子もテーブルも絵画も全て入れ替えて、
リニューアルしたことを契機に改めて、
作り手、オーナー、サービスの者、
そしてお客さまも含めてみんなで共に、
いい店をつくっていきましょう、
という意味合いを後付けで持たせている、と仰る。
ただ、「CP」の元々の意味は、
どなたかの名前といった類の、
すごくプライベートな内容で、
皆さまにご説明できるものではないのです、とも。
つまりは、極めて個人的な着想からの2文字、
だったということになる。
あまりにもご説明できないので、
現場としては非常に苦労しました、
とふたたび朗らかな苦笑いをされた(^^)。
比較的身近な場所に、
きちんとした正統派のフレンチレストランがある。
それが頼もしくもなんとも心強い。
銀座「レカン」にも行かなくちゃ、だ。
「CP」
埼玉県所沢市北中2丁目153-2 [Map]
https://r-cp.com/
04-2923-0001