瀬戸田の味処「わか葉」で瀬戸内の蛸と穴子レモン鍋と押し寿司海と流通の変化の中で

尾道映画祭2026の一幕として催された大橋トリオの西國寺金堂でのライブを軸にして出掛けた、尾道への旅の二日目のこと。
尾道を起点とするしまなみ海道の島のひとつ、生口島の瀬戸田地区で目覚めた。
世話になった宿「yubune」の部屋の窓を開けば、前日の暗い雨はすっかり上がって、気持ちのいい陽光が、しおまち商店街の通りを明るく照らしていました。

「yubune」の玄関の暖簾の前には、
スタッフにお願いしていたチャリンコが2台。 しまなみ海道と云えば、
日本で初めての、海峡を自転車で渡れる、
全長約70kmの絶景サイクリングロードとして、
夙に知られるところ。
まぁ、その雰囲気だけでもということで、
メットを被り、サドルに跨ったのであります。

前夜お邪魔した炭火割烹「淡々」の前を通り、
しおまち商店街を西に抜ければ瀬戸田港に出る。 左へターンすればすぐに海沿いの生口島循環線。
等間隔に立つ椰子の木が風に揺れています。

途中、瀬戸田サンセットビーチでひと休み。 生口島では、1989年から開催された、
世界一小さなアートプロジェクト、
「島ごと美術館」瀬戸田ビエンナーレによって、
設置された17の作品が島のそこここにあって、
瀬戸田サンセットビーチには、
「空へ」と題する眞板雅文氏の作品等がある。
それはそれで面白いのだけれど、
ベンチでジョッキの麦酒を呷るオッちゃんに、
大いなる共感を覚えたりして(^^)。

そのままスイーっと南下すると眼前に、
多々羅大橋の全容が見えてきた。 多々羅大橋は、生口島の西端と大三島を繋ぐ、
自転車専用道路を備えたモダンな斜張橋だ。
中央支間長890mで、斜張橋としては完成時、
世界最長だったという。

海沿いから橋へ向けて、専用路を登る。
残念ながら電動機なしチャリンコだったので、
えっちらおっちらの鈍行となる(^^)。
“国産レモン発祥の地の碑”あたりで、
ひと休みと水分補給。
ふたたびゆっくりと登って漸く、橋の上に出た。 風に吹かれながら、橋の上を走る。
左右には海の蒼と島々の景色。
橋脚の下から逆Y型を上へ上へと見上げると、
その高さに圧倒されて後ろに倒れそうになる。
主塔部で「多々羅鳴き龍」が発生するのは、
この橋脚の形状が要因なんだそうだ。

斜張橋を渡り切って、
多々羅展望台の下あたりでひと休み。
踵を返してふたたび今来た橋の上をゆっくりと戻る。
この頃からもうすっかり、ケツが痛い(^^)。
パッド付のショーツを履いている訳でもないので、
仕方ないのかもだけれど、
あんなにも痛くなるのだね……。

半ば立ち漕ぎ状態で(^^)、
「yubune」まで戻ってチャリンコを返し、
晴天のしおまち商店街を散策する。 「向栄堂菓子店」や「LE・BLANC(ル ブラン)」、
さらには商店街を通り抜け、
平山郁夫美術館の館内喫茶「オアシス」まで赴いて、
レモンケーキを買い漁ることに(^^)。

生口島の瀬戸田町は、
日本一の生産量を誇る国産レモンブランド、
「瀬戸田レモン」の生産地としても、
知られているのだ。

そして、なんだかんだでもうおひる時。
瀬戸田交番前信号に建つ商店街のアーチ近くの、
瀬戸田の味処「わか葉」の店先へ。 壁付けのアクリルの看板には、
“あなご・たこ料理”とあって、
読んで字の通り、
穴子料理、蛸料理の専門店とお見受けします。

暖簾を払い、遅くなりましたと予約の名を告げ、
入口近くの外の明るさの入るテーブル席へご案内。
メニューにはまず「穴子の刺身」時価が載るも、
残念ながら、入荷待ちの付箋が貼られている。
続いて「あなご寿司」に「穴子重」「たこ重」。
「穴子づくし御膳」「一本揚げ穴子丼」に、
「穴子天ぷら御膳」「たこ天ぷら御膳」、
穴子・蛸・海老の「特盛丼」と続く。
「穴子天丼」「たこ天丼」「えび天丼」の天丼三種に、
「大葉穴子巻き」「穴きゅう」と巻物二種の、
成る程、あなご・たこ料理専門店のラインナップだ。

「瀬戸田レモンチューハイ」でもと思うも、
この後尾道へ向かう足は、レンタカー。
なので、気分だけでもと選んだのは、
「レモンサワーノンアルコール」。 ノンアルのビールというのは判らなくもないけれど、
レモンサワーともなると最早、
割り材だけを飲むのとなにが違うのだろうねと、
そんなことをブツブツと云いながら、
グビグビと飲む、つまりはレモンスカッシュ。
でも、チャリンコでの多々羅大橋往復の後、
やっぱり喉が渇いているのか、
これはこれで、不思議に美味い(^^)。

穴子の刺身はないのですよねと訊くと大将は、
ほんま今瀬戸内海は獲れん、全然獲れんと嘆く。
うーむ、前夜「淡々」でも同様のことを聞いたけれど、
やっぱりそうなのか…。
兎に角蛸が獲れんのよーと嘆いた、
岡山・児島の元祖たこ料理「保乃家」の大将を思い出す。

既に用意されていたカセットコンロの上に、
大将がたっぷりとした土鍋を運んでくれる。
その全面を輪切りの檸檬が覆っているのが、
2月末までの季節限定「レモン鍋」だ。 「すだち蕎麦」を連想する見た目でもあるが、
予約に応じて前日に檸檬のあく抜きなぞをするので、
ウチのは檸檬ごと食べられる、と大将は仰る。
檸檬は勿論、地の瀬戸田レモンだ。

その瀬戸田レモンの輪切りを一旦脇に寄せると、
たっぷりの具たちが漸く顔を出す。 蛸に小さ目の牡蠣、豆腐に占地、
白身魚は鯛で、こっそり豚肉まで入っている。
それらを檸檬の輪切りと一緒に口に運ぶ。
うんうん、美味い美味い。
程良い歯応えの蛸。
下地の出汁と具からの旨味が交叉して、
あっさりとしつつ滋味がひたひたくる。
檸檬の苦みが面白いほどになく、
一緒に美味しく食べられて、
仄かな酸味と香気を添えてくれている。

そこへ、地元尾道出身の日本画家、
平山郁夫氏も愛したという「あなご寿司」。 先代から伝わる秘伝の特製ダレを使って、
煮付けたという穴子と、
その穴子の煮汁を加えた酢飯との一体感。
江戸前寿司の穴子となれば、
ふっくら煮付けた穴子にツメを載せるスタイルも、
西ではこうしてあっさりと煮付けた穴子の、
押し寿司が定番なのだろうね。

大将曰く、20年程前までは島にも穴子漁師がいて、
獲ったら店内にある生け簀に入れてくれていたものの、
近年ではすっかり獲れなくなって、
今は大三島の若い漁師が瀬戸内を右往左往して、
型のいいものを集めてきてくれている状態だという。
昔は、生活雑排も適当に海に流れ込んでいて、
栄養のある海だったけれど、
今はすっかり綺麗になり過ぎたことも、
穴子が獲れなくなった背景なのではないか、と。
尾道あたりに出て行っても、
資本の大きな業者が金にものをいわせて、
船買いで買い占めてしまうので、
なかなか手に入り難くなってきた。
海も変わり、流通形態も変わってしまったのだ。
そして、天然ものだということをいつの間にか、
薄っすら忘れていたことを省みる。
鮪のように近大あたりが、
養殖技術を確立してくれたらいいのだけれどね。

鍋の具をすっかり平らげたら、
土鍋を一旦厨房に戻して、〆のうどんにしてくれた。 煮詰まった濃度の増した出汁と具の旨味を、
出汁を足して整え直してくれている。
つるつるとした細麺がよく似合っていて、
一気に食べ切ってしまいました(^^)。

しまなみ海道の真ん中あたりの生口島。
瀬戸田地区のしおまち商店街の入口近くに、
瀬戸田の味処「わか葉」は、ある。 海の環境の変化に流通形態の変化も加わって、
入手の難しくなってきた瀬戸内の穴子や蛸。
それでも、郷土の味、瀬戸田の味を守ろうと、
静かに奮闘している様子、お話を伺えた。
数に限りがある状況だけれど、
しまなみ海道を訪れる機会があったなら、
ぜひ生口島の瀬戸田地区、
しおまち商店街の「わか葉」に足を運んで欲しい。
出来れば、季節限定の「レモン鍋」のある、
12月中旬~2月末の冬の時季にも、ね。

「わか葉」
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田520-1 [Map]
0845-27-0170
https://www.wakaba-onomichi.com/

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