第一京浜と平行する、新橋の裏通り。
前を通るたび、そのどこか朴訥とした佇まいが気になるそば処がありました。
壁のプレート
には「蕎麦と山菜と地酒の店」とあり、
スタント看板には「山形のそば」とある。
なるほど、山形蕎麦のお店なんだね。
すっと暖簾を払ったご隠居さん風爺さまに釣られるようにお邪魔してみました。
「えっと、おろし、よね」。
オバチャンは、常連と思しきオッチャンに向けて客が口を開く前に勝手にオーダーを決めて、厨房の方へと引っ込む。それがなんの嫌らしさもなく朗らかなんだ。
またまた釣られるように、「おろしそば」を大盛りでお願いしました。
左に「つめたいそば」、右に「あたたかいそば」と書かれたお品書きに載るメニューは極めてスタンダードなタイトルです。
「はい、おろし大盛り、ね」。
あれれ、意外や真っ白いそば。
なんとなく野趣ある田舎もしくは板そば系統のそばなんだろねという勝手なイメージを見事に裏切る見映えだ。
花鰹の下に大根おろしを潜ませて、笊でもせいろでもなく、どんぶりに盛られている。
じっと顔を寄せて蕎麦を凝視すると、
透明感のある中に蕎麦の粒子が活き活きとしているかのように見て取れて、不思議な説得力を思う。
小粋に澄んだ旨味の辛汁に払って啜れば、甘さに似た薫りがふっとする。それでいて、しなやかな弾力で噛み込む歯の先を押し返してくる。うん、嬉し楽し旨し。
頭上の額によると、西蔵王、尾花沢、雫石、幌加内といった国内産の蕎麦の実を石臼で挽いた一番粉(小さなそばの中心部、ほんの僅かな部分から取る粉)を使って製麺しているのだそう。
そば湯がしみじみ旨いのがなによりも、一方ならぬ蕎麦だと思わせます。
「美良」と書いて、「みよし」と読む。
夜の部には、山形の山菜の和え物、おひたし、油炒め、天ぷらなどを肴に山形の地酒がいただけるという。山菜は、4月下旬から6月初めが最盛期、とも。
ゆるゆるとそんな夜もいいかも、ね。
「美良」 港区新橋5-16-8 03-3431-0718
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