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由布院温泉「山荘 無量塔」で古民家離れの湯と鱧土瓶蒸黒豚蕃茄鍋黒毛和牛五葷諸味焼

およそ三年振りに降り立った大分空港。
搭乗橋を出てすぐの通路に掲示されていた”OITA HELLO KITTY AIRPORT”の文字とキャラクターに、いつの間にそんなことになっていたのかーと驚きつつ、湯布院行きの空港バスに乗り込んだ。
由布院駅の駅前から偶々乗れたタクシーで急ぎ向かったのは、御宿「亀の井別荘」。
敷地内にある山家料理「湯の岳庵」の、
予約時間になんとか間に合った。

ちょいとひるお酒もいただきつつ、
季節の酒肴、地の食材の料理を味わって、
隣接する金鱗湖をふたたび散策。
大分川の水路沿いをのんびり歩いて、
COMICO ART MUSEUM YUFUINで、
草間彌生や村上隆なぞの作品を鑑賞した。
そして、由布岳の裾野とも云える、
湯布院の町北側の坂道の上へと向かいました。

ヘアピンカーブを描くように登り往くと、
右手の竹柵にさり気なく、
赤錆に腐蝕させた枠に銀の地のサインが、
「山荘 無量塔」への到着を知らせてる。 漸く樹々の陰に見えてきた建物の手前には、
小さな石塔があってそこにも、
「無量塔」の文字が刻まれていました。

「無量塔」の玄関口たる本館の正面でしばし佇む。 華美な飾り気は一切ないものの、
枯れた風格を帯びた清廉で質実な、
実に堂々とした構えではありませんか。

本館内部の設えもまた、
落ち着いた旧きお屋敷然としつつ、
何気に凝った意匠が随所にみられ、
配置された調度の味わいも深い。 囲炉裏には赤々と炭の火が起こり、
羽釜の上の蒸篭を温めている。

全て異なる造りの離れが全12タイプの「無量塔」。 三年前に初めて訪れた時には、
「藤tou」と名付けられた離れに世話になった。

40坪134㎡のゆったりと広々とした和洋室。 8帖和室の掘り炬燵になった座卓で、
ゆっくりと部屋食と酒をいただいたっけ。

離れ「籐」の浴室は、円形の浴槽が印象的。
底に細やかなタイルで円の意匠が配われていて、
角両側の引き戸を開放すれば忽ち半露天となる。 寝室は大きな梁が下がり天の効果も果たしていて、
静かに籠るようにしてぐっすりと眠れた。

そうそう、チェックインしてすぐに、
本館の続きにある「Tan’s Bar」に、
いそいそと足を向けたんだった。 「無量塔」の象徴的ラウンジ「Tan’s Bar」。
カウンターを通り過ぎて案内されたのは、
奥の暖炉の前に置かれたゆったりソファー。

腰を深く降ろして気が付くのは、
目の前の暖炉の上の異様な工作物だった。 WE16Aホーンという1930年代の、
アメリカ製の劇場用スピーカーであるそうで、
ひるはクラシック、よるはジャズを中心に、
流すのが慣わしであると聞いた。

「Tan’s Bar」の名の由来はと云えば、
大分県日田市出身の儒学者で、
江戸後期での最大規模の私塾「咸宜園」を主宰した、
広瀬淡窓の”淡”にあるという。
“淡”とは、味覚の最高、物事の最高の境地=悟りで、
淡窓には、そんな悟りの境地で窓から外を見るように、
物事を眺めたいという思いが込められている。
そのような”淡いひと”が集まる空間(Bar)にしたい、
という想いから、
淡のひとのBar=Tan’s Barとなった、という。

ラウンジがどんな様子か体感したかったことと、
それともうひとつの目的が「Pロール」。 「無量塔」による出店らしき、
湯の坪街道の入口のロールケーキ店、
「B-speak」で買い求めようとしたものの、
直前で売り切れとなってしまった。
そのロールケーキが、ここならばいただけると、
そう耳にしたからなのでした(^^)。

そして、三年振りの今回、お世話になったのが、
「籐」から三棟西寄りの離れ「楽raku」。 武骨さも思わせる離れ「藤」は、
古民家を丸々移築したもので、
対してここ「楽」は、
古民家の材を使ってはいるものの、
移築と云うよりは、それらを再構成して、
新しく建ててた形の建物だそう。

和風古民家の印象がやや強めで、
19坪63㎡と比較的こじんまりとしているものの、
此処は此処でゆったりと感じられた。
元は茶室だったのだねと思わせる和室には、
躙り口の名残りがあった。

源泉掛け流しの温泉を満たした浴槽は、
ヒバの木が囲み、
「亀の井別荘」の露天風呂と同じ、
十和田石と思われる石が敷かれている。 温泉が青みを帯びて、いい景色になる。
そんな浴槽で充分身体が温まったら、
その先の板敷きの木椅子に素っ裸で腰掛けて、
そよそよと流れる外気に当たるのもまた心地いい。

ひとっ風呂浴びて、作務衣に着替えて、
ゆるゆるっとしてから、元茶室たる和室へ。 掘り炬燵式に設えた座卓に招かれる。
「無量塔」の部屋食の始まりであります。
玄関側の配膳専用の戸口があって、
そこから料理たちを運び入れてくれるんだ。

まずは、地酒の項から「知恵美人」を冷やで。 「知恵美人」の中野酒造は、大分県杵築市の蔵。
ほんのりした甘味とあと口の香りが面白い。

先付は、「車海老と毬栗見立て」。 銀杏を磨り潰して丸め、揚げた”餅銀杏”も添えて。
水に浸して透明感の増したパプリカを紅葉にして。
白身魚を薄く伸ばしたものに素麺を挿して、
揚げることで、毬栗(いがぐり)に見立てている。
季節を表現するのにどうしたらよいか熟考し、
その手間を惜しまない気概をふと思ったりする。
揚げた素麺の毬(いが)をポリポリと齧りつつ(^^)。

椀は、「鱧土瓶蒸し」。 土瓶の口には香りを添えるためか、
松の葉の束が挿し込まれてある。
それを抜き取ってから、土瓶から出汁を注ぐ。
あらあらあらー、美味しくもいい香り。
いーーい、お出汁だぁ。

お出汁を堪能した後は、土瓶の中へ。 茸は、大黒占地、鮑茸、木耳、そして松茸。
香母酢をほんの少し搾って、いざ。
こりこりしているのが鮑茸だ。
直接食べるには、松茸よりも他のキノコの方が、
美味しいのは周知の通り。
出汁を含んだ鱧ってのもいいもんだね。

向付は、「季節の魚 四題」。 大分県産の関鯵には紅葉に刻んだ人参のあしらい。
その背後には、笹で編んだバッタがいる(^^)。
食用の菊花をちょんとのせ、葱に巻いたのが鯛。
トリュフの下には、
菊の花に切り取った紅心大根を敷いた烏賊。
右の紅葉おろしを載せているのが、鰹だ。
銀杏を模った南瓜を箸に先に掴んでは、
秋だねー、と囁き合った(^^)。

お次のお酒は、大分県竹田市の酒蔵、
佐藤酒造の純米吟醸「千羽鶴」。
大分のお酒って、
優しい呑み口のお酒が多い印象のする。

煮物には、「黒豚蕃茄の鍋」。 ご存じのように、蕃茄(ばんか)とはトマトのこと。
土鍋の景色では伺えなかったけれど、
鹿児島県産の黒豚がゴロゴロっと入っていて、
食べ応えしっかり。
それを出汁に滲んだトマトの酸味が軽やかにする。
薄くスライスした大根の食感が面白い。
柚子胡椒は後段でちょんとね。

揚物は、「穴子と野菜の天婦羅」。 穴子に茄子に南瓜、万願寺唐辛子に舞茸。
辛い万願寺にめっきり出会わなくなったけれど、
あー、これはアタリかも(^^)。
薄衣のさくさくな揚げ口が有難い。

変鉢は、「大分県産黒毛和牛 五葷諸味焼き」。 品書きにあったひと文字がまず読めなかった。
くさかんむりに軍と書いて、葷(くん)。
臭いの強い野菜や肉などの生ぐさいものなぞ、
を指す言葉らしいのだけれど、料理長が、
炭火で炙っているところを”五葷”とあてた、という。
その後に続く”諸味”からは、
味噌や醤油の発酵調味料を用いていることが窺える。
訊けば、和牛のお肉をもろみ味噌に、
4時間ほど漬け込んでいるという。
脂控えめな部位なのが有難く、
もろみ味噌に漬け込んだ効果か柔らかで、
噛み応えもありつつも、
そろそろ満ちてきていたお腹にも軽やかなお肉だ。
添えた野菜たちには、自家製の粒マスタード。
宿のショップでも売っているというこの粒マスタード、
香りがフレッシュでなかなか旨い。
これは帰りに買っていこう(^^)。

羽釜のご飯に香の物、止め椀。 お米は、大分県が力を入れているという品種、
「なつほのか」という米の新米。
釜の中で整然と米の粒が立って美しい。
ただ、悔しいかな既におよそ満腹ゆえ、
茶碗にふた口み口ほどといただくと、
成る程、ふっくらとしたお米の甘さが味わえる。
うん、美味しいご飯、だ。
おにぎりにも出来ますと気遣ってくれたけど、
後ですぐ食べれるお腹になるほど若くない(^^)。
くやしいなぁ。

デザートは、「モンブランとカットフルーツ」。 マロンクリームの中には栗の渋皮煮がゴロっと。
そこへ小豆とアイスクリーム、
紅葉にカットした林檎なぞをあしらって。
うむ、別腹ってのは、あるんだねぇ(^^)。

由布岳の裾野ともいえる、
湯布院の町北寄りの地の高台に、
由布院温泉「山荘 無量塔」は、ある。 離れの室内に置かれた冊子にこうある。
無量の塔と書いて、MURATA。
無量とは、計り知れない程多い量。
「無量塔」という屋号には、
お客様の深い感動で、
館内が満ち溢れる宿になりたい、
との願いが込められています、と。
古民家の再生によって蘇った離れの客室12棟。
ただ建て直すのではなく、
和と洋の要素を融合させつつ行ったことで、
旧くも新しくモダンな居心地を生んでいる。
一棟一棟それぞれに異なるから、
全部の部屋に泊まりたくなってくる(^^)。
茶の世界の”一期一会”の精神を念頭にした、
広い意味での接客、応接に力みなし。
また伺う機会のあらんことを。

「山荘 無量塔」
大分県由布市湯布院町川上1264-2 [Map]
0977-84-5000
https://sansou-murata.com/

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