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割烹「おゝ杉」で海老豆鬚剃鯛刺し天然鰻養殖鰻自家製ポン酢名物うなしゃぶ発祥の店

玉置浩二with故郷楽団のライブを軸にと訪れた滋賀・大津への旅の二日目のこと。
京阪石山阪本線の唐橋前駅から瀬田川を「瀬田の唐橋」で渡り、近江國の一の宮「建部大社」に参拝し、御朱印をいただく。
その足で東レ滋賀事業場の城下町と思しき、京阪石山駅近くのbistro「guccho」にお邪魔して、ゆったりランチを愉しんだ。
ふたたび石山阪本線に乗って大津港方面へと戻り、
びわ湖浜大津駅からひとつ先の、
これまた小さな駅の三井寺駅で降車した。

三井晩鐘で知られる三井寺。
でもこの日の目的地はそちらではなくて、
石山阪本線が短い鉄橋で渡る水路が目的地。
そう、琵琶湖から山科方向へと流れる、
琵琶湖第一疏水を探検しようという、
そんな目論見なのであります。

簡単な説明、注意事項の口述の後、
ご案内に従って狭い通路で水路を渡る。 水路の脇を少し進んで振り返れば、
それが、大津閘門(おおつこうもん)。
明治期にレンガ造で造営され、
現存する近代閘門のひとつで、
琵琶湖と疏水路の水位差を調整しつつ、
水門を開閉することによって、
疏水路を舟が行き来させる機能を持つという。

ハキハキとした女性ガイドさんの、
淀みなき説明にいちいち頷きながら、
如何にも掘削した形状の水路の脇に立つ。 “びわ湖疏水船”の短い旅が近づいてきました。

乗り込んだボートがゆっくりと、
どこかの神殿を模したかのような門へと近づく。 迫ってきたのは、琵琶湖疏水第一トンネル。
東口洞門の上部には、扁額が掲げてあって、
「気象萬千」と浮き彫りされている。
その文字を揮毫したのは、彼の伊藤博文で、
様々に変化する風光は素晴らしい、
という意味だという。

琵琶湖疏水第一トンネルは、
日本で初めて竪坑方式で造られた、
全長2,436mのトンネル。 真っ直ぐに掘られたトンネルなので、
遠く向こうに出口の明りが小さく見える。
第三代京都府知事の北垣国道が揮毫した、
「寶祚無窮」の扁額やふたつの竪坑が、
途中、一瞬のことながら見ることが出来た。

西口洞門を出たボートは、
そのままするすると水路を往く。
両岸からは桜の木が枝を伸ばしていて、
時季に訪れれば、
それは綺麗だろうと想像される。 今回の短い船旅は、四ノ宮船溜まで。
その先にも勿論水路は伸びていて、
諸羽トンネルを抜けて、山科疏水となり、
第二トンネル、第三トンネルを経て、
旧御所水道ポンプ室近くまで。
そこが、”びわ湖疏水船”終点の、
蹴上上船下船場だ。

そしてその先には、傾斜鉄道 蹴上インクライン。
レールが形態保存されていて、
その両側が桜並木となっているようなので、
いつか、桜の時季に、南禅寺とともに訪れたい。

なかなか面白かったねぇと話し乍ら、
京阪山科駅で京阪に乗り、上栄町駅で下車。 大津エリアに戻ってきて、
古の雰囲気の残る旧東海道沿いにやってきた。

街道沿いに建つ縦格子の建物。 ここがこの日のお宿、
ホテル「講」の「茶屋」棟。
江戸末期に建てられた元茶商の家をベースに、
屋内を5室の客室に仕立てているのだ。

宿泊者専用ラウンジを通って二階の客室へ。
床の間や床脇の違い棚が目に映る。 縁側の引き戸を開けば、眼下に庭が見下ろせる。
風呂上がりにここで麦酒のグラスでも傾ける、
なーんてのもいい風情だね、きっと(^^)。

ホテル「講」では、有難いことに、
“商店街ガイドツアー”を毎日開催していて、
ならばとご案内をお願いした。 旧東海道沿いを漫ろに歩き、
セットバックに対処した街道沿いの町家の様子や、
御饅頭処「餅兵」の店先を眺める。
歴史を湛えた「中川誠盛堂茶舗」では、
幾つも試飲させていただき、茶葉を手に入れた。
京の抹茶は、実はここから、とも耳にしたっけ。
丸屋町商店街のアーケードでは、
「浅茅生」を醸す老舗酒蔵「平井商店」の店先を眺め、
そのまま菱屋町商店街をぐるっと歩いて、
「三井寺力餅本家」で力餅をお買い上げ。
そのお隣の「小川商店」で、
女将さんおススメの地のお酒を買い込んだ。

すっかり暗くなってしまったねと話しつつ、
「茶屋」の部屋に一旦戻ってからふたたび、
旧東海道に出て、東へと向かう。
湖岸に至る中央大通りを越えて、
さっき訪ねた「中川誠盛堂茶舗」の前を通って、
その先へ進めば、少し懐かしい光景が迎える。 およそ9年程前に一度訪ねたことのある、
割烹「おゝ杉」の渋めのファサードだ。
杉玉の下を潜って、鏝塗りの壁に挟まれた、
狭めの通路を奥へと進めば急に、
賑やかなざわめきが近づいてくる。

店内に入って正面のカウンター席へ。
あ、そうそう箸置きは、
手作りなこんな焼き物だったと思い出す。 付け台に積み並べた器たちも、
大将が拵えた陶芸作品で、
大将作のお猪口の販売もしている。
そのお猪口で滋賀の酒を呑むのは如何、
なーんてお誘い文句もみられます。

「おゝ杉」には勿論のこと、
近江の地酒のあれこれが沢山あって悩ませる。 まずはと「大治郎」純米をお願いしたら、
穴に釉薬を埋めて半透明にする、
“蛍手”を施した磁器のお猪口が届いた。
「大治郎」の畑酒造は、東近江市にある酒蔵で、
100年を超える1914年(大正3年)創業。
「大治郎」は、創業者の名前でもあるという。
どこかこう、お酒らしいお酒だ。

突き出しは、前回訪れた際と同様に、
アフタヌーンティー的三段スタンドでやってくる。 一番上が「砂ずり」、二段目が「えび豆」、
三段目が「桜海老とおじゃこ」。
「砂ずり」は、つまりは砂肝。
聞き慣れない「えび豆」は、
滋賀の郷土料理のひとつのようで、
琵琶湖で獲れるスジエビを大豆と一緒に、
甘辛く煮たもの。
こふいふのが何気に嬉しいって、
歳をとった証左かしらん(^^)。

と、それなりの人数さんがやってきた。
すると大将が「お二階へどうぞ!」と声を掛ける。
おっと、二階にも客席・客間があるんだ。
切り盛り大変じゃないのかなぁ。

お造りは、平目、とんぼばち、
ヒゲソリダイの昆布〆、島鯵、鮪、縁側。 初めて耳にしたのは「とんぼばち」。
「とんぼばち」はビンチョウマグロ(とんぼ)や、
メバチマグロを指す呼称として使われているそう。
まだまだ珍しい感のある魚に思う、
スズキ亜ヒゲダイ科の鬚剃鯛もまた、
さくさくとした歯触りもあって、
うん、なかなかに美味であります。

ここで、先程店先を眺めた老舗酒蔵「平井商店」の、
「浅茅生(あさぢを)」純米をお願いする。
すーっとスムーズに胃の腑に落ちる呑み口。
平井商店のWebページによると、
現当主で17代目という平井商店は、
1658年(万治元年)の創業。
銘柄「浅茅生」は、
後水尾天皇皇子聖護院宮道寛親王より、
当家に賜った和歌より命名したものだという。
ふむー、実に歴史のあるお酒なのですね。

以前お邪魔した時のメインイベントは、
琵琶湖特産魚にして高級魚でもある諸子による、
「琵琶湖産 本もろこ炭焼き」だった。
炭火の網の網目にモロコを頭から挿し込んで、
逆立ちスタイルで頭もじっくりと焼く、
そんなお作法に驚いたんだ。

でも今回は、前回の宿題でもあり、
「おゝ杉」の代表作にして名物が主題だ。 いよいよそのための大きな土鍋が、
カウンターにデンと据えられたのであります。

鍋そのものは、いつもの鍋の風景なるも、
そこへ追って届いたのがなんと、生の鰻。 美しくも瑞々しい風情の鰻の切り身たち。
生の鰻の切り身を眺めるって、なかなかない。
下処理に少々水に晒したりもするのかな。
鱧の骨切りのように、
細かい包丁が入っているようにも見える。
さぁ、「おゝ杉」名物の「うなしゃぶ」の開演だ。

皮目が黄色っぽいのが天然の鰻で、
それを皮を下にして鍋の奥側へ。
手前に養殖の鰻を入れてくれる。 次第に白く色を変えていく鰻の切り身たち。
薄切り牛肉をささっと湯に潜らす、
所謂しゃぶしゃぶスタイルでは勿論なく、
鍋に湯掻かれる程にふわやわになっていく、
というのが当店発祥「うなしゃぶ」なのだ。

暫くその切り身たちを眺めていると、
その身の周りから、
白いふわふわが輪郭を描いてくる。 それを合図に少し身を沈めてしばらく。
箸で持ち上げた時に身が割れるようなら、
それが出来上がりのサインだという。
身は湯掻く程にふわやわになっていくけれど、
強火で炊くと皮目が硬くなるので、
弱火でことことと炊くのが流儀だそうだ。
火からなるべく遠ざけるために、
白菜なぞの野菜をたっぷり敷いて、
切り身たちのベッドにしているんだ。
こうしてその様子を眺めながら、
お猪口を傾けるのもまた、
風雅なひと時ではありませぬか(^^)。

まずは、天然の鰻の身に、
山葵たっぷりめを載せて。 ああ、初体験。
なんだか新しい。
山葵の風味が鰻の身と脂の甘さを引き立てる。
それが、ふわわんと解けていく。
これって、鰻なのか、とも思う。
蒲焼の類しか知らなかったことに思い至る。
少々頭の整理、理解が追い付かないけれど、
兎に角、美味しい旨い。

続いて、養殖の鰻をポン酢で。 あああ、明らかに違う。
でもそれをどう表現したらよいのか。
養殖の方はなんとなく白焼きの気配があるけど、
天然にはそれもなく、ふわわん、なのだ。
どちらも炊いて脂を落としているけれど、
脂の香り、重さが違う、ような。
そして養殖ものでも負けじと美味しいのだ。

そして、色々な柑橘類を使い、
半年熟成させたポン酢もマジック。
ポン酢だけ舐めても、すっごい旨い。

天然ものと養殖もの。
山葵たっぷり載せとポン酢マジック。
それらを交互にとっかえひっかえして、
じっくり炊きながら、どんどん食べる。
めくるめくとはこのことか(^^)。

普段、蒲焼でも鰻一匹食べることはないのに、
この鍋ではひとり一匹以上をいただくことに。
天然ものと養殖ものをすべて平らげて、
それまで切り身たちのベッドになっていた、
お野菜たちにも箸を伸ばす。
お野菜たちも出汁、鰻の旨味を吸って、
沁み沁みにとろとろに旨い。
お野菜なぞを食べ切ったらもう満腹だ。

しかし、ここまできて、
雑炊をいただかない訳にはいかないと、
少な目にお願いする(^^)。 ふむふむ、期待通り、期待以上に美味しい。
煮詰まっている感はなく、汁に濁りなし。
鰻というとどうも脂滴るイメージになるけれど、
どっこい、あっさりと上品なお出汁に、
鰻の滋味が滲む。
洗ったご飯がさらさらとして、
溶き玉子のふわふわ具合も心地いい。
満腹でもう何も食べられないと云っていた相棒も、
何故か美味しい美味しいとするする食べる(^^)。
バニラのアイスをいただいて、大団円。
ひやぁー、よく食べたぁー。

大津の街を東西に貫く旧東海道沿いに、
割烹「おゝ杉」は、ある。 「おゝ杉」大将、大杉真五さんの柔和な笑顔がいい。
「たん熊」で修行された料理の腕前はもとより、
凝り性にして創意工夫、
創作的感性を持ち合わせているがゆえに、
名物「うなしゃぶ」を生み出せたのだと思う。
店内に不思議な形の陶板があるのを見付けて、
大将に訊けば、ジンギスカン鍋に似た機能の陶板で、
その陶板で焼く鰻や合鴨の料理もあるという。
次の機会には、その辺りをいただきに伺いますね。

「おゝ杉」
滋賀県大津市中央3-4-30 [Map]
077-526-3824
https://www.instagram.com/oosugiunagi/

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