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琴平町の日本料理「宿月」で三豊茄子天に無花果鱧椀鮎造里鯛粗炊き手打釜上うどん

まんのう町の森の中にある純手打うどん「山内うどん店」で念願の一杯をいただいて、大満足のその足で向かったのは、同じ香川県仲多度郡の隣町、琴平町。
琴平町と云えば、そう、目的地はこんぴらさんこと金刀比羅宮であります。
金毘羅街道沿いの駐車場に車を停めて、いざ、御本宮までの785段の階段を登る。
ヒーヒー云いつつ休み休みしつつ、
借りた杖を手にやっとこさっとこ、
なんとか本宮の前までやってきた。

っていうのが、お決まりの流れなのですが、
実は我々ちょっとズルをかましました(^^)。
以前階段を登って死にそうになったことがあると、
相棒が難色を示したこともあって、
車での参拝の予約をこっそりと済ませていたのです。
金比羅宮の御山の左手から大回りするように、
やや怪しげな細い道を探るにように進んで、
猫の額のような狭い狭い駐車場に辿り着きました。

守衛さんと挨拶を交わしてから、
緑黛殿の横を通り過ぎればそこはもう、
御別宮「三穂津姫社」の正面。 なんと楽ちんなことでしょう(^^)。

こんな楽をしてしまうと御利益半減かもねと、
そんなことを話しつつ、
南渡殿の表情をじっとみる。 御神木の楠の向こうに、
御本宮が見えてきました。

金比羅宮御本宮の御祭神は、
大物主神と崇徳天皇。
農業・殖産・医薬・海上守護の神さま、
そして〝金刀比羅大神さま〟として、
古来から全国で御神徳を仰がれているのは、
ご存じの通りですね。

御本宮前の階段を少し降りていって振り返り、
やっとここまで来た、
というフリをしてみる(^^)。 階段から御本宮の社殿を見上げると、
唐破風の飾りがキラリと光った。
あれれ?と目を近づけてみると、
金と平の漢字二文字を略して合わせたような、
そんなロゴタイプが見付かった。
なるほど、こんぴらさん、だものね(^^)。

御朱印帳への記帳は行っておらず、
御朱印紙を買い求めるスタイルになっていた。
残念だけど、コロナ禍からの作法なのだろうねと、
そんなことを話し乍ら展望台とされる場所へ。 視界がわーっと開けて、実に清々しい。
ぽこっと大きめの山は飯野山か。
左手には、海を渡る瀬戸大橋が望めて、いい。
高校生の時の修学旅行で訪れた筈なのだけれど、
まったく憶えていないのだものなぁ(^^)。

緑黛殿の横の狭き駐車場を離れて、
こんぴらさんの御山を下りて、
今宵のお宿の駐車場へと車を停めた。
お宿は参道沿いに建つ御宿「敷島館」。
さっと露天風呂に入ったりしてのんびりしてから、
向かったのは、こんぴらさんの表参道です。
さっきズルして参拝したのを悔いてやっぱり、
785段の階段を登ってきちんと参拝しよう、
という訳ではありません(^^)。

夕方の表参道は、すっかりシャッター街。 行き交うひとも疎らで、
皆さんが階段を下る中を逆行するように、
ゆっくりと登ってゆきます。

階段100段目を過ぎた辺りで一之坂の鳥居を潜る。 その先の左手には、灯明堂と釣灯籠。
勿論、石段は先へ先へと続いています。

金刀比羅宮の大門が見えてきたところで、
登ってきた石段を振り返る。 御本宮までを思えばまだまだ緒についた位置だけど、
よくぞこんな石段と参道を造ったものだと、
感心しつつしばし佇む。
いや、ひと息休憩するついでに、ね(^^)。

そこから左手に道を逸れて、
坂道を下ったところで、
今宵のお食事処が見えてきた。 てろてろと坂道を下り続けた曲がり角に、
立派な屋根を施した木製の案内板があり、
金毘羅街道(旧伊予土佐街道)との表題があった。
板には、狭く細い如何にも裏道のようなこの道が嘗て、
伊予(愛媛)と土佐(高知)と讃岐(香川)とを結ぶ、
唯一の街道であったとあって、びっくり。

へーーと云い合いながら、
その狭き金毘羅街道の坂道を登って漸く、
さっき上方から見下ろした建物に辿り着いた。 街道に面した窓から灯りの漏れる、
建物入口にはやや大振りな暖簾が掛かる。
暖簾に「宿月」の文字を確かめます。

予約の名を告げるとすぐに、
奥のカウンターへと招かれる。
こんぴら表参道からも外れた狭き坂道沿いに建つ、
百年以上経っている古民家を手に入れて、
内装をフルにリノベして営むこちら「宿月」。
「宿月」の夜の部はなんと、
ひと組さま限定なのであります。

階段を少々登ってきた喉の渇きを潤そうと、
麦酒の小瓶をとお願いすれば、
ご丁寧にお酌いただいて、お疲れさまと乾杯。
どちらからいらっしゃいました?から、
ご主人との会話が始まりました。

手書き筆文字の「本日の御料理」からまずは、
「馬鈴薯サラダ」。 お隣のまんのう町で採れた馬鈴薯だという。
「山内うどん店」があるのもまんのう町だよと、
相棒と小声で囁き合う(^^)。
トッピングは山椒の実。
マヨネーズを使わずに、チーズを混ぜていて、
しっとりした口触りにチーズの風味がして、いい。

凱陣、金陵あたりが琴平近辺のお酒とされるところも、
「宿月」ご主人は、地のお酒は置いていないと仰る。
ならばと、麦の焼酎をいただくことに。

続く「季節の天婦羅」は、大きなズッキーニから。 目の前で揚げてくれた揚げ立てをふーっとして、
そおっと噛むと、ぶわんと甘味が溢れる。
これまたお隣の三豊市で産したズッキーニ。
ズッキーニをここまで甘く感じたのは初めてだ。

さっぱり美味しい茗荷の天婦羅に続いて、茄子。 三豊なすという、同じく三豊市を中心に栽培される、
大振りで水分の多い丸茄子の一種だという。
醤油をちょんとつけて口に含むと成る程、
期待通りのふわっふわとろとろの食感だ。

高松のアーケードにある寿司店でお世話になり、
8年ほど前に琴平に移住してきたというご主人。
セルフうどん店経営の経験もあることから、
ひるは「饂飩ランチ」か「握り寿司ランチ」か。
よるは「饂飩会席」か「寿司会席」かという、
ちょっと不思議なメニュー構成になっているのだ。

そして、天婦羅がもう一品。 お魚を葱を軸に海苔で巻いて揚げ、
輪切りにしているのが断面から判る。
魚は鯵、鰯ではなく、時季の秋刀魚。
紫蘇の葉や梅肉を仕込んであって、
うんうん、美味しい。
今年の秋刀魚は型も脂ののりもよいもんね。

目の前の俎板で調理しているのを目にした時点で、
既にもうとろんとろんだった「無花果胡麻クリーム」。 まんのう町の羽間(はざま)地区の無花果が、
特産品として名が通っているそうで、
地元のひとたちにとっても、
季節の愉しみになっているんですとご主人は仰る。
一度蒸した無花果を出汁に漬けたものに、
練り胡麻のクリームソースを添えている。
ほっほー、ふんふん、美味しい美味しい。
ただ甘くなった感じではなく、でも芳醇。
無花果もこんな風になるのだねぇ。

目の前の俎板で骨切りが始まった。 こんなに間近で骨切りを見て、
ザ、ザ、ザっという音を聴くことは、
そうそうあることではないよね。

骨切りと云えばそう、「鱧椀」。 梅肉を添えるのはお約束か。
やっぱり梅が合うのですねぇと話しつつ、
青柚子の香りとともに花の咲いた鱧を口に含む。
ほろほろっとして、上品が滋味がすっと伝わる。
なんだかんだいって、いいものですなぁ。
椀に同舟の茄子は今度は、三豊なすではなくて、
絹川なすという愛媛県は西条市あたりの特産で、
その名の通り、果皮が絹のように滑らかで美しく、
薄く柔らかいのが特徴の茄子だという。
お出汁がよーく沁みて、これもまた旨い。

お次のお題は、「鮎造里」。 ちょうど脂ののる時季の鮎を洗いにして、
丁寧に盛り付けたお造り。
寿司店修行の経験があってこその盛り付けか。

鮎は、徳島は吉野川からのもの。
ブランドの四万十の鮎、特に仁淀川の鮎はもう、
お客さんに提供するには高くて手が出せないという。
肝を酒でしっかり焼いて、
醤油、味醂、酒で練った肝醤油と、
搾った酢橘、おろし山葵とで、いただく。
鮎の刺身、洗いって初めてかもなぁーと、
そう話しつつ、口に運ぶ。
おおお、しっかりした身に香りが立ち、
脂の甘さが品よく解けてきて、美味しい。
肝醤油がより一層美味しくしてくれている。

お魚の続く品書きのお次は「鮟鱇 二種の焼」。
骨についた身の天火焼きのようなものは、
鮟鱇のカマの部分で、利休焼きという、
練り胡麻などを入れた出汁に漬けて、
漬け焼きで焼き上げたもの。
食感はぷるぷる。
芳ばしさの中から鮟鱇の身の力強い旨味が解ける。 方や、柚子を入れた、所謂柚庵焼き。
こちらはこちらでコラーゲンちっくで、いい。
茨城でも風間浦でもなく、下関からの鮟鱇だそう。

〆た真鯖の皮目に包丁を入れ、
バーナーで炙った「〆鯖あぶり」。 鯖が一番好きな魚ですと仰るご主人。
五島列島の鯖ブランド「ときさば」が、
素晴らしくてよいのですが、
これがまた何倍もしますので、
厳しいブランドの基準からこぼれた、
でも五島の鯖です、と笑う(^^)。
〆具合がなかなかに絶妙。
脂ののり具合も期待通りだ。

「鯛あら炊き」は、出始めの小芋を合わせて。 秋になって栄養を蓄えた鯛は赤く発色して、
紅葉鯛とも呼ばれるんですとご主人。
あらについた身をほじほじしては、
ほんのり甘めの出汁にちょんとつけて。
小芋に使った梅の風味が漂って、
オツな佳品になっています。

そして、お食事には「釜上うどん」。 讃岐の夢100%。
同じ粉の配合で毎日打っても、水加減が変わり、
日によって茹で時間が随分違うんですと云う。
セルフのうどん店を6年ほど営んだ経験を持つ、
そんなご主人が手打ちしたうどん。
滑らかな口触り舌触りで心地良くつるんと啜れる。
やや細めのうどんは、手打ちらしい長さで、
勢い啜り応えもあって、それもまたいい。
地元でポピュラーないりこだけでなく、
鰹も昆布も使ったつけ汁にも何気に拘りがある。

クリームチーズのアイスをいただいて、
ゆっくりと茶を啜って、ふー、ご馳走さま。 暖簾を中から払ってふと、振り向けば、
さっき見上げた大門がライトアップされていた。
ご主人が見送ってくれたあとに今度は、
「宿月」の暖簾を振り返り見た。

満腹満足のお腹を摩りつつ、
のんびりと金毘羅街道の坂道を下り、
一之坂の鳥居を背にして階段を降りていく。 その先の街頭に照らされた石板の上に、
猫のシルエットがあるのに気が付いた。
流石にもう、誰もいないこんぴら表参道は、
猫が自由に佇む小路になっていました。

こんぴらさんこと金刀比羅宮への表参道から、
斜めに逸れていく金毘羅街道の狭き坂道沿いに、
琴平町の日本料理「宿月」は、ある。 店名の「宿月」は、”水清ければ月宿る”という、
水が澄んでいれば月が綺麗にうつることから、
心に穢れがなければ神仏の恵みがある、
という意のことわざに因んだものだという。
皆さまに選んでいただける店となれるよう、
とにかく誠心誠意尽くしていこうという、
決意を込めた店名なのです、とも。
でも実は、自分で考えたのではなくて、
妻が考えてくれたものなのですよー、
ちゃんとオチがあるのですと、笑う(^^)。
暖簾に縦書きした店名の書も、
左手のロゴタイプのようなデザインも、
奥さまが描かれたものなのだそうだ。

「宿月」
香川県仲多度郡琴平町谷川1068 [Map]
0877-85-8404
https://shukugetsu.com/

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