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吞み喰い処「高太郎」で大豆お浸し〆炙り鰆燻玉ポテサラ黒舞茸蛤茶碗蒸し冬の高太郎

予約困難店のひとつに数えられる割烹居酒屋が、渋谷の桜丘町にある。
以前何度も電話連絡に挑むも、電話が通じても予約することは出来ず、そのうち電話が通じる頻度がどんどん落ちてきて、自然と諦めることになっていた。
でも、SNSにキャンセル情報が発信されるような状況になって漸く、「高太郎」への予約が叶うこととなった。
いやはや、何年越しだったのだろう(^^)。

予約当日の冬の或る日、
メトロ副都心線の渋谷駅ホームに降り立つ。
ご存じの通り、果てしなく工事の続く渋谷駅。
迷路のような構造や複数の階層を持った渋谷駅は、
誰がいつそう呼んだか正真正銘の”ダンジョン”だ。
渋谷駅から桜丘エリアに向かうには、
以前のイメージだと、まずJRを南口に出て、
歩道橋を登って246号線を渡る、
という感じだった。
そこをこの機会に、謂わば裏側から攻略して、
JRの新南口経由で桜丘町に出ようとしたんだ。

代官山寄りのエレベーターを上がり、
B2Fから渋谷ストリーム方面の出口C2を出て、
渋谷ストリームを3Fまで上がって、
未だ工事中の通路を抜けて、
JRの新南口改札前を素通りすることで、
渋谷川のある渋谷三丁目エリアから、
JRの線路をするんと越えて、
西側のサクラステージへと渡って、
エスカレーターで地上に降りた。
そこで漸く、見覚えのある桜丘町に着いた。
たぶん、こんなルートだった、はず(^^)。

そこからさくら坂に回り込むと、
坂の両側に並び立つ桜の木に、
ピンク色のLEDによるイルミネーション。 今はもうあちこちで見られるようになってきた。
“さくら坂”だもの、当然こうなるよね(^^)。

坂の上の突き当たりを右に折れ、
文化総合センター大和田の前を通って左に折れ、
セルリアンタワー裏手の坂道に出る。
桜丘町会のWebページによると、
この坂を蛇崩れ通りと呼ぶらしい。
坂を上り切る少し手前の、
角にベーカリーのある横丁を覗き込む。
すると暗がりの奥にペルー料理店の突出看板や、
幾つかのひと影が見えた。

今宵の止まり木、「高太郎」へ到着。 あまり見掛けない形状の注連縄が下がり、
その足許には懐かしき「剣菱」の一升瓶木箱。
杉玉ではなくて注連縄なんだねと思いつつ、
酒吞みの末席に連なるにふと、ほんの少し、
神妙な心持ちになったりなんかして(^^)。

カウンターに立つ高太郎氏に軽く会釈をして、
カウンターの一番奥に陣取る。 正面には壁にぶつけた三段の棚。
一番上には一升瓶が並び、
二段目には徳利やグラス。
三段目には、取り皿や豆皿・醤油皿など、
小皿系の様々な形や大きさのお皿たちが、
整然と並んでいる。
こんな棚の景色を眺めるのが好きなんだ(^^)。

店の突き当たりとなるテーブル席エリアへと、
右手を振り向くとそこには、
大きな額装に筆文字で、「Let it be」。 “あるがままに”が信条なのでしょうか。
揮毫されたのは、陶芸家であり書家でもあり、
ミュージシャンでもある御仁だという。
漢字や和文だと意味が直截に過ぎるので、
横文字をもってくるのは、いい。
その御仁は、あの写真家浅井慎平のご子息、
浅井竜介氏だそうだ。

お初の「高太郎」ゆえ、料理はおまかせにて。
ならばと、お酒もおまかせでお願いしました。

お通しは、二種類の大豆とお野菜のおひたし。 「高太郎」と云えば、
大豆のおひたしから語られる、
なんてこともあるやに思う。
そこに、透明感の出た角切りの紅芯大根や、
青菜なぞが彩りを添えている。
割り地がしっかり沁みていて、
じんわりと美味しい。
シンプルに法蓮草、かなぁと思いつつ、
いまひとつ判然としなかった青菜が何か訊ねたら、
なんとクレソンですって。
ひゃぁー、お恥ずかしいw(^^)。
出汁に浸かると、クレソンらしいえぐみが、
すっかり和らぐみたいで、
他に、江戸野菜のシントリ菜も含んでいるそう。

口開きのお酒はと云えば、
静岡は掛川の土井酒造場による、
「開運」無濾過純米 生酒 山田錦。 旨口に、不思議な風味のあと味が面白い。

続いて届いたのが、池袋西口にある、
「大桃豆腐」という豆腐店のお豆腐。 街の豆腐屋さん然としつつ、
凄くこだわりをもった豆腐屋さんらしく、
全国から見学に来るようなお店らしい。
揚げが木綿で、左手が絹豆腐。
滋賀の在来種の大豆を使った豆腐だという。
豆腐そのものの味が強いので、
塩も必要に応じてと仰る。
へー、池袋に高太郎氏のお眼鏡に適うお豆腐、
お豆腐屋さんがあるのだねぇと話し乍ら、
絹の豆腐をそのまま口に含む。
すると、大豆そのものの味、風味がふふんとする。
うん、うまーい。甘ーい。
塩をほんの少しちょんして口にすると、
さらに甘さが引き立って、いい。
そして、揚げた木綿には芳ばしさもあって、
こりゃまた旨いんだ。

ゆったりとしたカウンターには、
打ち出し銅製の薬缶が載る。 なんだかそれだけでいい画になる。
その先で高太郎氏が客と談笑しつつ、
外連味のない所作を続けているよう。

造りのお皿には、奥側に真鯛、
右手に鰆、左手には勘八。 鰆は酢〆して炙っている。
あらー、この鰆、凄い美味しい。
鰆ってどこか愛想のない場合もあるけれど、
型のいい鰆なのか、脂ののりも申し分ない。

青紫蘇の裏側に舎利が隠してあって、
それで寿司をつくるもよし、と。
ならばと、真鯛を鞍掛けにしたりなんかして(^^)。

お次のお酒は、「いづみ橋」。
一升瓶の肩口には、
純米吟醸 海老名産山田錦とある。 海老名と聞いて思わず、
海老名にも酒蔵あるんだーと口走る。
海老名市にある泉橋酒造は、
全国でも珍しい“栽培醸造蔵”であるらしい。
つまりは酒米のつくりから自ら行っているという。
恵比寿さまのお猪口でいただけば、
ちょっと独特なクセがあって面白い。

そして、「高太郎」定番中の定番、
燻玉ポテトサラダが登場。 2017年発行で、ずっと以前に手に入れていた、
『「高太郎」のおつまみ和食』をレシピに、
何度か自分でも作ってみた酒肴のひとつ。
燻された半熟の、いやトロトロ半熟の玉子を崩し、
その下のポテサラに混ぜ込んで、いただく。
玉子と黄身のズルさにポテサラの滑らかさ、
そこに垂らしたドレッシングの風味が合奏して、
こりゃ、旨いやーとこれまた口走る。
ウチでレシピ横目につくるのとは、
やっぱ違うねー、って当たり前か(^^)。
玉子をこれだけトロトロにしつつ燻製するって、
案外簡単じゃないのであります。

ポテサラを盛った硝子器を何気なく見ていると、
縁が三角に欠けていて、
そこを金継ぎしているのが目に留まった。 磁器や陶器の金継ぎは見掛けるけれど、
硝子器にも施すのかぁと感心してしまう。

お次のお酒は、山口の「貴」特別純米。 宇部市にある永山本家酒造場の産。
鍾乳洞のある秋吉台あたりの水由来か、
ミネラル感豊かなお酒を醸すという。
スッキリと透明感のあるお酒だ。

これもまた「高太郎」定番のひとつと思しき、
ジャンボシュウマイ。 なかなかの大きさのシュウマイ。
それを半切にしてくれている。
味はついているので和芥子をお好みでどうぞ。
おっき目の焼売というとふと、
鎌倉「おおはま」の焼売を思い出す。
ああ、シュウマイから上がる湯気から、
実にいい、美味しい匂いのする。
挽肉ひき肉しておらず、のしっとり派。
ああ、なんかこう完成度を思ってしまう。
何気なくも完全に仕上がっている。
半切なのも有難い。
多分一個だと最早、微妙に多いかもね。

お次の肴は、発酵白菜と海老のグラタン。 白菜の浅漬けを作り、そのまま常温で、
一週間ほど置いておくと乳酸発酵して、
酸味と旨味が出てきたものが発酵白菜。
台湾なぞでの白菜鍋につかうのもこれだ。
容器からして、熱々の熱々。
木匙をチーズの焼け目に挿し入れて、
ふーふーして、ふーふーして、口に運ぶ。
これぞ、和風グラタン。
白菜の発酵による旨味と甘味、
そして酸味が美味しく迫る。
ふー、海老はやっぱり熱々だ(^^)。

お次のお酒は、「竹雀」山廃おりがらみ生。 岐阜の西濃地方にある大塚酒造のもの。
なんとふたりで営んでいる小さな酒蔵だそうで、
それゆえ本数も少なく、
東京ではなかなか見ない、とも。
“滓絡み”つまりは所謂濁り酒であるも、
甘くなくすっきりとして、バランスのいい。
日本酒ニガテーーという女史もいけそうだ(^^)。

お次の肴は、
岐阜・飛騨のジャンボナメコのおひたし。 デっカーとこれまた口走る。
大きな滑子は、最近はスーパーでも、
割りと見掛けるようになってきたけれど、
これは目を瞠るばかりに大振りだ。
真ん中に載せた辛味大根のおろしを混ぜて。
傘を広げてみてまた、デっカー。
うんうん、大振りだけど大味ではなく、
滑子らしい風味と旨味がしっかりとあって、
それをいい出汁の浸し地がグっと後押しして、
辛味大根が全体を引き締めてる。
美味しい、美味しい。
このひたし地で一杯呑める(^^)。

お次のお酒は、「石鎚」純米土用酒。 愛媛県西条市にある西日本最高峰 石鎚山。
その麓にあるという石鎚酒造が醸す酒。
ん?土用酒?と裏側のラベルを読むと、
夏の土用の丑の日等にお使いいただくべく、
鰻の油分をスッキリと流すような、とある。
ふーむ、初めて見聞きするね、”土用酒”。

お次の肴は、「黒舞茸と蛤の茶碗蒸し」。 表面を一面刻んだ黒舞茸が覆っていて、
パッと見では、茶碗蒸しに見えない。
ああ、黒舞茸の香りが実にいい。
そう思いつつ卵液部分ごと匙で掬い食べると、
蛤の出汁の風味、旨味がしみじみとくる。
そしてその中から蛤の身が、
どーもー、と顔を出す。
そしてそして、胃の腑が温まる。

お次の肴は、これも名物と謳われる、
高太郎のメンチカツ、
またの名を讃岐のメンチカツ。 これもまた有難くも半切してくれている。
ただ、檸檬をちょいと搾っていただくのみ。
齧る衣の中から透明感のある肉々しさが届く。
余熱でじっくり火を入れるとか、
二度揚げするとか、手練があるに違いない。
と、レシピ本を捲ってみたりなんかして(^^)。

お腹の足り具合い如何でしょうか、と訊かれ、
もうそろそろーと応えれば、〆へと転じる。 届いたのは、「鴨汁のつけうどん」。
ふむー、麺も鴨汁もどちらも旨い。
うどんは、高太郎さんの岡山のお友達が、
つくってくれている乾麺だという。
ツルっとしつつ柔くなく、
粉の風味がちゃんとする。
おろし生姜がよく似合う。
ふー、満腹満腹、ご馳走さまー。

渋谷は246向こうの桜丘町、
セルリアンタワー裏手の蛇崩れ通りから分け入る、
横丁の暗がりに、吞み喰い処「高太郎」は、ある。 渋谷の喧噪とは隔絶の感のある佇まいがいい。
ああ、漸く「高太郎」のカウンターのひととなれた。
そして、期待を裏切らない空間がそこにあった。
一品一品からの小さな驚きや発見が積み重なる。
それが、泰然とした構えから繰り出されてくるんだ。
勿論、それぞれに肩肘の張らない美味しさがある。
毎月訪れるような常連にはなれそうもないけれど、
別の季節にまた必ずお邪魔したい。

「高太郎」
東京都渋谷区桜丘町28-2 三笠ビル1F [Map]
03-5428-5705
https://www.instagram.com/kotaro_shibuya/


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