某アパレルブランドのファミリーセールへと買い出しに出掛ける日が年に二度、春と秋とにある。そうして都心へ出る機会をつくるようになるなんてと思わなくもないけれど、いやいや、それでよいのだ(^^)。
序でに何処に寄ってみようかとか、帰りに何処で一杯呑ろうかなどと考えるのもまた愉しいものね。
そんなこんなで、この晩秋の或る日。
天気も良さそうだし、
温かそうだしと足を向けたのは、
銀杏並木で注目の明治神宮外苑。
平日のひる下がりということもあって、
人出はそれほどでもなかったけれど、
ルール無用に道路を闊歩する、
外国人の姿はそこここある。
銀杏並木と云えば、
この先の尖った銀杏の姿がイメージに近くて、
過日眺めた昭和記念公園の角刈り銀杏は、
やっぱり異色だと改めて思う。
でも、外苑は外苑で、尖がり過ぎてはいまいか。
聖徳記念絵画館は残念ながら、
保存修理工事で閉館中なのだねと話し乍ら、
楕円形に周回する道路の西側を辿る。
するとすぐに、
国立競技場の威容が目に飛び込んでくる。
そう云えば未だ場内に入ったことはない。
せめて外周でも散策しますかと、
壁に並び貼られた金メダリストたちの銘板を、
ひとつひとつ眺めつつ南側へと回り込む。
およそ真西側まで歩いたところで、
見知った店の名前が目に留まった。
そうだ、外苑の「ホープ軒」は、
国立競技場に隣接しているのだった。
竣工を半年後に控えた2019年の春に、
「ホープ軒」の二階から、
建築中の競技場を眺めたことがある。
その時は、またこんなハコを建てやがってと、
ひとり毒づいたのを思い出した(^^)。
国立競技場駅から恵比寿に移動して、
ファミリーセールに潜り込んで、少々のお買物。
恒例の会場があるガーデンプレイスでは、
クリスマスイルミネーションがはじまっていました。
そこからくすのき通りをサッポロ広場方向へ進み、
日仏会館の前からビール坂をだらだらと下り往く。
「MASA’S KITCHEN」のあるビルを横目に歩き、
渋谷川を渡る恵比寿橋の袂まで来たところで、
橋の向こう側の右手に目的地が見えた。
以前訪れた時には、
開店時刻前だったこともあって、
店前に入場を待つひと達の姿があった。
でもこの日は、少し開店時刻を過ぎていたので、
店前にはひと気なし。
すると忽ち、辺りは少し妖しさが増してくる。
閉まったままのシャッターには落書き。
カーテンもない2階の窓からはヘアサロンの気配。
1階のファサードには、
店名そのものの表示らしきものは見当たらない。
その無機質な黒い鉄扉の内側に、
和食割烹「創和堂 SOWADO」がある。
気が付けば戸口の右脇の柱型に、
家紋のようなマークがさり気なくある。
大人の隠れ家の過ぎない演出のひとつ、
と云えましょうか。
鉄扉の中に入ると左手に、
バーカウンターのある小部屋がある。
食後に寄るバーとして使われるのが主なのか、
時にはウェイティングバーとして活用されているのか。
はたまた、軽くお忍びとしたい、
やんごとなき方々のニーズにも応えているのか。
その先のメインフロアは、
中央にコの字をバランスをとって歪めたような、
角度によっては舟形にも見えるような、
ゆったりしたカウンターがぐるりと巡る。
カウンターの右手には渋谷川に面した席があり、
突き当たりには個室と籠る感じのテーブル席がある。
生のグラスでまずは、
ちょっと渇いた喉を潤す。
お通しは、豆乳を葛粉で練り上げた自家製豆腐。
佐賀は有田町発祥の郷土料理といわれる、
“呉豆腐”の仲間ということになる。
ねっとりとして、不思議な美味しさだ。
基本メニューには、
上段に「蒸煮」「焼」「揚」「小鉢」「酒肴」、
下段に「菜」「〆」「甘味」の各項が並ぶ。
「蒸煮」でひと項目というのも珍しいし、
それを先頭に置いているあたりには意図がありそう。
これらとは別に、本日のお品書き的に、
「季節のドリンク」「本日の日本酒」「お造り」「酒肴」、
そして、のどぐろ、きんき、鰻、銀だらみりんと、
四品から選ぶ「原始焼」を示す筆書きがある。
「原始焼」とは、鮮魚や野菜をそのまま、
囲炉裏端でじっくりと串焼きにする、
日本古来から伝わる伝統的な調理法だという。
見通し良きオープンなカウンターが囲む厨房の、
およそ中央の卓上にデン!と大鉢が置かれ、
その中心に異形棒鋼を溶接で編んだような、
五徳というか、炭金枠が据えられていて、
そこで赤々と炭が熾きている。
そしてその周囲に串に刺した魚が、
じりじりと炙られている。
以前お邪魔した際には、
一番奥側のカウンターだった。
そこはちょうど大鉢の囲炉裏が目の前で、
囲炉裏の熱が少し頬を温めるほどだった。
謂わばここ「創和堂」の象徴のような、
そんな印象もある「原始焼」大鉢囲炉裏だ。
「酒肴」から「あおりいかの下足唐揚げ」。
下味をしっかり目に入れている様子で、
やや甘味があるところが次の箸を誘う。
自家製の柚子胡椒をちょんと載せれば、
これまたオツな肴になるって寸法だ。
黒糖焼酎といえば奄美大島だねと「龍宮」。
奄美黒糖焼酎「龍宮」の酒蔵は、
奄美大島のほぼ中央にある名瀬入舟町にある、
1951年(昭和26年)創業の富田酒造場。
黒糖焼酎らしいほんのりした甘さがいいね。
「蒸煮」の項から、
「きじはたと近江かぶのみぞれ椀」。
この日は雉子羽太ではなくて、
同じ仲間の真羽太(マハタ)にて。
ああ、いいお出汁だ。
そしてそのお出汁がたっぷりと含むのが、
蕪の擂り流し、ってズルいよねー(^^)。
黒舞茸の上のパウダーは、
その黒舞茸のパウダーだという。
より風味を増すよな算段かなーなどと云いつつ、
その黒舞茸を口に含むと、
ああ、黒舞茸の味が濃く、旨い。
素揚げしてから出汁に浸すというひと手間で、
こんなにも美味しさが上がるンだ。
そして、焼きあがった「きんき」の「原始焼」が、
威風堂々とやってきた。
背鰭が素直にとれて、
ほろほろっと剥がれるように身を開ける。
あれあれへーと感心していたら、
隠し包丁を入れているんですと声が掛かる。
なるほどー、そりゃそうだ(^^)。
金目鯛ほどの脂の強さはないけれど、
十二分にその身の甘さ、繊細な滋味を愉しめる。
ふだん魚の皮目は避けている相棒も、
皮も美味しいと、そう仰る(^^)。
「小鉢」から「新じゃがと和牛のきんぴら」。
きんぴらと云えば細切りしたもの、
というイメージだけれど、
そんな固定観念はどこ吹く風。
だって、じゃが芋細切りにしたら、
ボロボロになってしまうじゃん、てね。
人参色のものは、お麩。
牛肉の脂で軽く炒めるとこうなるのか。
じゃが芋に火が入り過ぎないようにしている。
時雨れ煮とも違っていて、面白いね。
鹿児島の芋焼酎「安田」を註文んだら、
ちょうど切れてしまっているようで、
同じ蒸溜所、国分酒造の「蔓無源氏」なる、
芋焼酎を薦めてくれた。
ラベルには、”大正の一滴”。
復活させた100年昔の芋「蔓無源氏」を原料とし、
「老麴(ひねこうじ)」には、
霧島産の長粒米「夢十色」を全量使い、
製法・芋ともに大正時代を復元した芋焼酎、とある。
芋らしいクサさとは別物の独特の香りのする。
フルーティさに似た甘さもあって、結果として、
女子ウケ狙った感じの仕上がりにも思える。
当時にしたらめっちゃハイカラだったのかも(^^)。
「揚」の項から「二子里芋の唐揚げ」。
素揚げした季節の銀杏を添えて。
「二子里芋」とは、
岩手県北上地域で守られてきた「赤茎」種を、
北上川と丘陵で囲まれた肥沃な土壌で育んだ、
そんな里芋であるらしい。
うわー、この里芋、ほくほくして実に旨い。
そしてその里芋にたっぷりと載せた、
細やかな青海苔の香りが凄く似合う。
訊けば、「辻青のり(すじ青のり)」という、
主として四国徳島の吉野川で養殖される海藻で、
高知のシーベジタブル社では、
河口部の水温上昇といった環境変化に対応して、
独自に開発した設備や生産ノウハウによって、
世界初となる、地下海水を用いた陸上での栽培で、
通年での安定的な供給を行っている、ようだ。
「小鉢」から「かますと菊芋の土佐和え」。
酢橘を絞って。
菊芋は意外や、極薄のスライス。
それを湯通ししたくらいの、
シャックシャク食感に仕立てている。
鰹節と鰹節の粉末とで和えていて、
カマスの身もふんわり軽やかだ。
「〆」から「伊那鯖の炙り棒寿司」。
その姿や、美しい。
紫蘇と生姜と大葉を摺り合わせたものが載る。
酢〆の加減も絶妙で、うん、云うことなし。
「味噌汁」の椀と一緒にいただいて、
うん、ご馳走さまでしたー。
恵比寿のビール坂を北へとずっと下った、
渋谷川に架かる恵比寿橋の袂に、
和食割烹「創和堂」は、ある。
「創和堂」という店名は、
渋谷警察署裏手で「酒井商会」「SHIZEN」、
そしてここ恵比寿橋の「創和堂」を営む、
株式会社酒井商会の代表、酒井英彰氏の、
お祖母ちゃんが営んでいた、
雑貨店の名をいただいたものだそう。
ちょっと大人の隠れ家チックな感じと、
それでいて真っ当な割烹の気風との掛け合わせ。
その頃合いの良さが好みであります。
そして、妙な観光地化が決して進まないよう、
そのことをただただ願うところでもあります。
「創和堂」
東京都渋谷区広尾1-12–15 リバーサイドビル1F [Map]
050-1807-6893
https://sakai-shokai.jp/

