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手打うどん「きくや」本店で3L天付肉汁肉うどんカレーうどん一族にはお世話になって

武蔵野うどんと接してきた経緯、遍歴をふと思うことがある。
武蔵野うどん≒肉汁うどんとのファーストコンタクトは、実家でのこと。
親戚連中が集まって、実家の二間をぶち抜いて座卓を並べて、何かの宴会をしていた光景を思い出す。
そこで、奥さま方が準備していたのが、
茹で上げて四角いプラ笊に盛って、
乾かないようにビニールで覆った手打ちのうどんと、
豚バラ肉を浮かべたアルマイト鍋のつけ汁。
大勢が一斉に食べられるほど沢山の、
汁椀があったのが少し不思議だった(^^)。

普段の食事時でも時折、
大鉢の粉に水を回して捏ね、
ビニールで挟んで足で踏んでを繰り返し、
手切りしたうどんを茹でるその脇で、
肉汁の鍋が湯気を上げていた。

色々なものを食べ歩くようになって、
まず伺ったうどん店が、
東村山の廻田町四丁目信号の角にあった、
手打うどん「小島屋」だ。 青っぽいペンキで板張りの外装を塗っていて、
そこから張り出した橙色のテントが印象的だった。
そして、オバちゃんが茹で窯を炊いていたのは、
裏庭に沢山用意していた薪だったのも、
また印象的だった。
今はもう廃業されて、建物も解体され、
整骨院になってしまった。

「小島屋」と前後して足を向けたのが、
手打うどん「きくや」。 最初に伺ったのはたぶん「きくや」諏訪町店で、
その店は発展的に姿を変えて、近くに移転し、
秘かに大好きな店「龍巳うどん」になった。

そして現在、「きくや」本店とされているのが、
嘗ての「きくや」廻田町店。 国分寺駅から萩山を経由して多摩湖駅へと至る、
西武多摩湖線が鷹の道と呼ばれる都道と交わる、
八坂第2号踏切近くで暖簾を揺らせている。

多摩湖線に沿って伸びる自転車道脇の、
駐車場に車を停めて店に向かうと、
店の二階の窓辺が目に留まる。 時季によっては窓が開いていて、
そこでオバちゃんがひょこひょこする、
そんな様子に出会すこともある。
その挙動は間違いなく、
うどんの玉を足踏みしている場面だ。

そんなうどんの製麺室を二階に擁した、
手打うどん「きくや」本店には、
時に空席待ちのひと影がある。 回転は思いの外早いので、
焦れずにゆったりと待ちましょう。

「きくや」のメニューと云えば、
カウンターの頭上に吊り下がった、
黄色い紙札を見上げるのが当たり前の光景。
もっとも、慣れて註文の決まっている客人は、
それには見向きもせずに註文を発するのだ。

例えば、或る日には、「3Lミックス」。 “天付肉汁”つまりは、
かき揚げ天の載った肉汁に刻み海苔を添えたものが、
ここでは”ミックス”と呼ばれている。

ラーメンをいただく際には、
およそ必ず板海苔が欲しい性分なので、
うどんにも海苔があればと当初は思った。 でも、うどんに海苔が鏤めてあると、
肉汁に浸してうどんを啜る際に、
うどんにハラハラと纏わりついて、
オマケに歯にも絡んであまりよろしくない(^^)。
そんなこんなで最近は、
刻み海苔のない天付肉汁が専らであります。

「きくや」の肉汁はと云えば、
竹を割ったような性格の器に盛られてくる。 試しにと正面のオバちゃんに、
肉増し、できませんかと訊ねたら、
少し怪訝な表情をされたあと、
ちょっと足しておくねとニッと笑ってくれた。
ちなみに品書きには、
肉増しの件はありません(^^)。

「きくや」のうどんは基本、
茹で置きのうどんを鉢に盛り込むスタイル。 ずっと前は割と、
茹で上げすぐのうどんもあったような、
そんな気もするけれど、
早い提供を考慮しているのか、
茹で置きと思われるうどんが定番だ。
そりゃ茹で立ての方が、
ビビットな美味しさが味わえるだろうけれど、
茹で置きのうどんもまた、
実家の宴席で食べたうどんを思い出すよな、
ソウルフード的魅力があるのだ。

その、近頃定番の品がこちら「3L天付肉汁」。 薬味の小皿には、所謂「糧」にも繋がる、
湯掻いた青菜が少し添えられている。
うどんの粉がどこの粉か、どこの地粉か、
過去の品種となってしまった農林61号の系統か、
そんなことを訊ねずとも、
ずっと昔から大きくは変わっていない風味が、
啜るうどんにあるのに安堵する。

カウンター越しに眺める厨房の左手には、
二階への階段があり、
その階段側面の壁にはびっしりと、
色々な関係先の電話番号が直接書き込まれていて、
なんだか微笑ましい。 その二階からは時折、
ドンドンドンドンドンと、
テンポのいい音が聞こえてくる。
うどんを手切りしている際の音が、
階下にもしっかり届いているンだ。

そのカウンターの中には、
ちゃちゃっとうどんを出してくれるオバちゃんと、
下げた器やお盆や洗う係りのオバちゃん。
そして、客席の間を取り仕切るオバちゃんと、
突き当たりの暖簾の中にもうひとりと、
全員年嵩の女性陣によって営まれている。
二階でうどんを打つオバちゃんも、
別にいるのかもしれないけれど、
兎に角みなさんお元気で快活な様子が、
なんとも心強く、頼もしい。
同じようにオバちゃんが活躍していた、
嘗ての「小島屋」の様子も思い浮かびます。

冬場の或る日には、偶にはと、
「肉うどん」にしてみたくなることもある。 豚バラ肉の表情、半切の天ぷらに青菜の挿し色。
川越の「大助うどん」をふと思い出しつつ、
案外キマッているビジュアルにじっと見る(^^)。

いつものつけうどんのうどんとは、
少し違うピロっとしたテクスチャ。 ああ、温かいうどんもイケるじゃぁないかと、
妙な感心をするのは少々不遜でありますね。
つけうどんを熱盛りにすることはできるそうなので、
試してみる手はあるかもしれないな。

冬場でも夏場でも食指が動くことのあるのが、
「きくや」の「カレーうどん」。 同じ茶色系なのに、
トッピングした天ぷらが妙にシンボリック。

小麦粉と油脂の加減のいい濃度が、
トロロンとうどんに纏わりつく。 おウチカレーよりも幾分かスパイシーで、
でも甘味もしっかりあるようなカレーが旨い。
カレーライスでも食べたいと云ったら、
これまた失礼かもね(^^)。

西武多摩湖線が都道鷹の道と交わる、
八坂第2号踏切近くに、
手打うどん「きくや」本店は、ある。 店名「きくや」は、
創業者の五十嵐菊江(きくえ)さんの、
その名前に由来するとされる。
いつも厨房にいらして、
肉増しを訊ねた際にニッと笑ってくれたオバちゃんが、
もしかしらた当の菊江さんなのかもしれない。
菊江さんのご長男は、
何度もお邪魔している所沢駅東口の「涼太郎」を営み、
次男さんは、「きくや」諏訪町店を営んでいた。
「きくや」諏訪町店の発展形として、
無理くりに「龍巳うどん」を含めると、
菊江さん一族には実に長々と、
大変お世話になっていることに、
今さらながら気が付くのでありました。

「きくや」本店
東京都東村山市廻田町2-12-16 [Map]
042-394-9141

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