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酒亭「うり」で青大豆お浸し目一鯛刺牛筋大根餅悦凱陣辣韮タルタル三豊茄子丸亀の夜

こんぴらさんの表参道沿いに建つ温泉宿「敷島館」に泊まった翌朝。
香川への旅の二日目は、少し早起きをして、飯山町の土器川沿いにひっそりとある伝説のセルフうどんの店「なかむら」で、朝一番の讃岐うどん啜るということから始まった。
“裏の畑で自分でネギを取る”というキーワードに長年惹かれ続けて、
随分と時間が掛ってしまったけれど、
漸く訪ねることができ、
裏の葱畑も拝むことが出来た。

飯山町を離れて向かったのは、
金比羅宮の展望台からも望めた瀬戸大橋。
1988年(昭和63年)に全線開通した、
つまりはもう既に開通から40年近くの橋を、
これまた漸く、初めて車で走ることが出来た。 瀬戸大橋の中程の与島PAから今来た、
宇多津町・坂出市方向を眺め遣る。
瀬戸大橋を渡った本州側の下津井漁港にある、
元祖たこ料理「保乃家」を訪ねた際に乗った、
瀬戸大橋周遊観光船はこの与島の手前までの、
クルージングだったことを思い出す。

与島PAでしばしのんびりとしてから、
折り返して坂出IC方面へ。
飯野山を今度は右手に見ながらずいっと進み、
辿り着いたのは、綾歌郡綾川町。 これまた有名店のひとつ、
「山越うどん」の大行列に一瞬怯むも、
流れはなかなかに順調で、テンポよく進む。
「釜上げ玉子山かけうどん」と、
ひやあつの「かけうどん」とをシェアして啜り、
成る程これはこれで旨いと頷き合った。

踵を返すようにして飯野山方向へと車を走らせ、
そのままさっき通った瀬戸大橋の橋の袂まで。 瀬戸内の海を渡ろうとする瀬戸大橋の突端部には、
瀬戸大橋記念公園というエリアがあって、
隣接の東山魁夷せとうち美術館がその目的地だ。

美術館の静かなカフェ「な・ぎ・さ」から、
窓越しに瀬戸大橋のある海を眺めると、
なにやら随分と高い煙突状の構造物が目に留まる。 じっと見ていると、円盤型の物体が、
その高い塔を上下しているのが判った。

どうやら観覧用の施設だということで近づけば、
近づくほどにその高さに圧倒される。 料金800円を支払って、
ちょうど降りてきたドーナツ型の展望部に乗り込む。
動き初めて暫くして、ガコガコっと揺れて、ビビる。
1988年(昭和63年)完成というから、
もう37年が経っていることになる。
ゆっくり横に回転しながら、コキコキと昇っていく。
尾骶骨の辺りがスースーする(^^)。
大丈夫なのか?大丈夫なのか?と思っているうちに、
頂部である108m地点に到着した。
生憎天候はいまひとつながら、見晴しは素晴らしい。
そして、無事、地上に戻ることが出来ました。

その足で向かったのは、丸亀駅。
駅でレンタカーを返却して、
その日の宿に荷を降ろし、小休止。
夕餉にと足を向けたのは、
丸亀城下町の一角の歴史ある商店街のひとつ、
通町のアーケード。 まだそう遅い時間でもない。
なのに構えはなかなか立派なアーケードには、
びっくりする程、およそひとの気配がない。
地方都市で割りとよく見かけてしまう、
なんとも云えない光景のひとつではあるけれど……。

そんなアーケードから離れる横道との角に、
“へんろみち”と示す石標が目に留まる。 右へ行けば、七十七番札所道隆寺。
左へ向かえば、七十八番札所大窪寺。
多度津町にある道隆寺はまだしも、
四国八十八ヶ所霊場の88番目の札所、
大窪寺は徒歩12時間のさぬき市の山の中。
でもそうか、お遍路ってそもそも、
1450キロを巡拝して煩悩を消す旅なんだものね。

そんなことを考えつつ振り向けば、
窓もない桑染色した土壁だけの平屋の、
表札にひとつ洒落た灯りが点っていた。
正方形の板にはただ、”酒亭”とだけ刻む。 寂しげにも映る街角にそこだけ、
ぽっと凛とした佇まいを魅せているのが、
酒亭「うり」であります。

白の暖簾を払い、その奥へといざ。
正面に厨房に正対するカウンターがデンと構え、
右手に主だったテーブル席が配されている。
全体に木目の触感が柔らかい印象のする。 案内されたカウンターからは正面に、
オープンな板棚が据えてあって、
びっしりと様々な器たちが出番を待っている。
サッポロの生、ザ・パーフェクト黒ラベルの、
グラスでまずはの乾杯をしよう。

お通しは、青大豆のお浸し。
そして、鶏そぼろチーズに玉蜀黍豆腐。 大豆のお浸しというと、
未だ訪問の叶わない、
渋谷「高太郎」のお通しのひとつが、
大豆のおひたしだというのをふと思い出す。
鶏のそぼろにチーズを合わせるってのも面白く、
玉蜀黍を豆腐仕立てにするってのもまた愉し。
なんか玉蜀黍の羊羹みたいでもある。

まずは、「サラダ」の項から、
「お米とアボカドのサラダ」。 その名の通り、お米とアボカドが合わせてある。
小粒に色を挿しているのは、とびっこか。
匙で掬って口に運んで、
あらそうきたかーと思ったのは、
カレー風味だったから。
和風なドレッシングのままだと面白くないし、
あっさりし過ぎると考えたのかもね。

やっぱり地のお酒がよいねぇと選んだのは、
綾菊酒造の「国重」純米酒。 一升瓶が届いて、あれ?っと思ったのは、
「超辛口」とのラベルが貼られていたから。
日本酒度は+15。
自身ではおよそ見覚えのない日本酒度だ。
辛いお酒が粋だ、なんて考えは端からなくて、
どちらかというと避ける傾向にあるのだけれど、
うーむ、ちょっと辛過ぎるかなー(^^)。
綾菊酒造は、綾川町にあるようで、
おひるに啜った「山越うどん」と、
同じ町内にあるということになるね。

「お刺身」は、ひと切れづつの六点盛りのみ。
ならばと二人前をお願いする。 奥側の上段は、左から鮪、鰆。
鰆は、焼き目を入れてから藁で燻している。
中段は、左からメイチダイ、オコゼ、オオゴチ。
皮目を添えているのがオコゼで、
手前の下段は、剣先烏賊、秋刀魚、だ。

聞き慣れない目一鯛はフエフキダイ科のお魚。
うどんの汁をみても判るように、
香川のお醤油は色が薄くて、
出汁醤油のような甘めのもの。
淡泊な気配もある白身の魚にもよく似合う。 秋刀魚には、あたり葱という、
葱と生姜をすり鉢であたった、
擦り合わせた薬味が載る。
その薬味を載せたまま口へ。
軽く〆ている?という感じもして、旨い。

それにしても、町全体の印象でも、
アーケードの様子でもおよそひと気がないのに、
ここの店内は満席で朗らかな熱気がある。
そのコントラストがちょと不思議なくらいだ。

「温」メニューから、
「牛すじと大根もちの煮込み」。 添えてくれたのは、
香川本鷹鬼びっくり一味唐辛子の缶。
辛くなり過ぎないようにと軽くパラっと。
これまた綾川産の唐辛子は、
ちょっとでもしっかり辛いぃ。
牛すじの脂と旨味がとろみのあんに滲んで、
大根餅の滋味に加減よく絡んで、いい。
うんうん、美味しいなぁ。
ちゃんと大根の風味もする、って当たり前か。

入店6ヶ月の若き女子スタッフさんは、
今日初めて厨房に配置されたそうで、
先輩女子の指導を受けつつ立ち動く。
覚えなきゃいけないことがきっと山ほどある。
そのひとつひとつが勉強になる。
頑張れ、秘かに応援しているね(^^)。

続くお酒は、超辛口ではないやつで(^^)。
やはり香川の、と「悦凱陣」純米吟醸。 そうお願いしたらなんと、
一升瓶2本がどどーんとやってきた。
左側のブルーボトルは、
山田錦100%の凱陣の夏酒。
凱陣の中ではもっともすっきりしたタイプ。
右側のピンクのラベルは、赤岩雄町100%。
毎年秋口くらいの時季に出されるもので、
雄町由来のしっかりした呑み口だという。
同じ銘柄でも対照的な二本。
ならば、両方を一合づつの吞み比べで。
雄町のお酒はフルボディという印象を持つけれど、
ここでもやっぱりしっかりフルボディ。
日本酒度云々とは別の、
骨太というかちょいと圧もある感じだね。

正面の板棚の上の方を何気なく見ると、
フィギュアっぽい小さな置物があるのを見付けた。 右にあるのは招き猫?と凝視すると、
それは、招き猫ならぬ、招き犬だ。
柴犬なんですー、と女将さんが笑う(^^)。
真ん中には赤鬼ならぬ黒鬼が、
手にした大徳利を高く挙げている。
左には、酒に由来もありそうな白蛇の置物。
口に何を咥えているのでしょう。

ちょいと失礼と厠へ行って席に戻る途中で、
ふと見上げたレジ上の小梁の上にも、
フィギュアがそっと置かれているのに気が付いた。 さては女将さん、なかなかの柴犬好きですな(^^)。

と、そこへ届いたのは、
「エボダイのフライ らっきょうタルタルソース」。 タルタルソース、美味しいぃいと相棒。
干物で見掛けることが多い印象のイボダイが、
ここではふわふわとして軽やか。
そこに辣韮のタルタルがベストマッチ。
辣韮も玉子もザクザク刻みなのがいい。
辣韮のタルタルって、全然アリだ。

「炭火焼」の項から、
「しいたけ かにみそバター」。 熱々だよね熱いとねとそーっと齧れば、
うーん、いやー、旨い、うんまいと呟かせる。
蟹味噌の風味とバターのふくよかさに唸る。
カラフルな胡麻が愛らしい。

ふたたび「温」メニューから、
「三豊なすのオーブン焼 バジルみそ」。 前夜お世話になった琴平町の、
日本料理「宿月」でもいただいた三豊茄子。
近隣の三豊市で産する大きな実の、
水分が高くて甘い丸茄子の仲間を、
天婦羅で美味しくいただいたっけ。
ここでは、じっくりと火を入れたご様子。
手前に添えているのがバジル味噌と、
三豊茄子の皮を素揚げしたもの。
バジルの色が鮮やかで濁りないので、
白味噌を少々混ぜ込んでいるのかと想像する。
それを適量載せて茄子を口にするとまず、
バジルの風味がぶわっと広がり、
三豊茄子の甘さがすぐさま追い駆ける。
うんうん、これもいいねぇ。
三豊茄子、買って帰ろう、そうしよう(^^)。

香川は丸亀の通町。
ひっそりとしたアーケードの傍らに、
酒亭「うり」は、ある。 ウリ科の野菜たちの何かから?とか、
イノシシの赤ちゃんウリ坊から?とか、
まさか、売らんかなのウリ?などと、
想像してみても判らない。
そこでお店の名の由来について訊ねたら、
女将がそっと応えてくれた。
“unique”と”respect”というキーワードから、
頭をとってU-Re、つまり「うり」とした。
そう話してくれたに続いて、
でもね実は、飼っている犬の名前が、
「うり」なんですーと笑う(^^)。
あー、柴犬くんのフィギュアが、
お店のそこここにいるのは、
つまりはそういうことなんですね。
ひと気のないアーケードの様子と、
満席に賑わう店内の活気とのコントラストもまた、
印象的な丸亀の夜でありました。

「うり」
香川県丸亀市通町154-1 [Map]
0877-24-5252
https://www.instagram.com/shuteiuri/

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