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酒・肴「赤津庄兵衛」で狐鯛地頭鶏糠塚胡瓜鱧天富士山虹鱒鮎コンフィひい爺様ご芳名

当代桂文枝師匠と並んで、上方落語の大看板と呼んでも差し支えないのではと思っているのが、ご存じ桂文珍師匠。
文珍師匠の高座はここまで、中野駅最寄りのなかのZERO大ホールでの独演会を手始めに、LINE CUBE SHIBUYAで行われた桂南光、そして鶴瓶との「夢の三競演 三枚看板 大看板 金看板」、よみうり大手町ホールでの独演会、狭山市市民会館での春風亭一之輔との二人会と、
何度となく足を運んでいるところなのであります。

まだまだ暑い夏の或る日のこと。
荻窪駅の西口から階段を下りて、
青梅街道を四面道方向へと裏道を抜けてゆく。
そうして杉並公会堂前へとやってきた。 旧い杉並公会堂のイメージが残っていた所為か、
こうして硝子張りの建物に正対すると、
時空が歪んだよなちょっと不思議な感覚になる(^^)。

この日の杉並公会堂の催し物は「文珍・小朝二人会」。
文珍師匠の演目は、古典「粗忽長屋」だったけれど、
昨今の世情を映すマクラからが、やっぱり面白い。
「老婆の休日」「マニュアル時代」「ヘイ!マスター」といった、
自作落語は何度聴いても笑い過ぎて泣ける(^^)。
軽妙にして明瞭な心地いい語り口。
自らカハっと笑って笑いを誘う。
重鎮とか大御所とかといった顔を、
一瞬たりとも見せないのもいい。
通好みのシブめの他の落語家の噺もきっと、
ちょっと別の愉しみ方も出来るのだろうなぁと思うも、
志の輔師匠と並んでやっぱり、聴きたい落語家の筆頭だ。

高座の名残りか、
ニヤニヤしながら杉並公会堂を正面から出て、
そのまま横断歩道で青梅街道を渡る。
そのまま左へ行けば、居酒屋「ゆき椿」と思いつつ、
反対の右へと進んですぐの路地へと折れ入る。 曲がってすぐの雑居ビルの入口には、
不思議なフォルムの提灯のようなものが下がる。
そこには”赤”というひと文字が貼り込まれていて、
その下に置かれた木札でその”赤”が、
「赤津庄兵衛」の”赤”だと判る。
そう、ご存じ、のむちゃん御用達の一軒であります(^^)。

予約の名を告げて、カウンターの真ん中へ。
座って、お酒の品書きを物色し始めてから、ふと、
どこか以前と違うことに気が付いた。
どこかカウンターの形状も違っているような気もする。
あれ?っと訊けばやはり、
この前年の八月に改装したそうで、
その際にカウンターのレイアウトも変更したそうだ。

お通しは、ズッキーニを使った冷製スープ。 自家製のトルティーヤチップスが、
お皿の縁に添えてあったりなんかして、
いきなりここは、メキシコかスペインか(^^)。
まろやかなるガスパッチョ的な、
実に夏っぽい口開きだ。

「本日メニュー」には、紙面一面にびっしりと、
いちいち気になる酒肴たちが居並んでいる。
お刺身には8品が並び、揚げ物、焼き物、椀物、
サラダに野菜や果物を使った一品に、
「赤津式冷や汁」まで都合30品が勢揃いして、
誰もがを迷わせるに違いない。
さらには、定番メニュー10品ほどに、
自家製珍味が7品とさらにさらに迷わせるンだ。
うーむ、ひと通り読み込んでから考えよう(^^)。

赤津さんでは、”小サイズ”という対応があるのもまた、
その気配りが嬉しくも有難い。
一点注意が必要なのが、その”小サイズ”オーダーは、
おふたり様は二品まで、3名様以上は遠慮すべし、
という、厳然たるルールがあるということ。
お刺身にもひと通り小サイズの設定があるけれど、
3~5種の刺盛りやおつまみ盛り合わせを、
まずはおすすめします、と仰る。

成る程!っと膝を打って、
というか、漸く意を汲んで、まずは、
刺盛り、そしておつまみ盛合わせをそれぞれ、
3種類ほどでお願いしましょう。

まずの小皿は、「黒むつ炙りニラソース」。 韮を佃煮状にしたものが添えられていて、
炙った皮目あたりの脂の甘さと好相性。
こうして施してくれるひと工夫が、ただただ嬉しい。

一緒に届いた「きつね鯛ごまだれ」の小皿。 ベラ科のお魚きつね鯛とはその名の通り、
すっと口が尖がっているらしい。
胡麻だれがコクを添えて、きつね鯛に良く似合う。
添えてくれた和芥子をちょんとするとまた、
オツな美味しさになるね。

そして三皿目は、「あわびの肝和え」。 少し湯引きしたりしているのだろうか、
嫌なコリコリなんかではなく柔らかで、
でも鮑らしい食感もして、
そしてやっぱり、肝和えは、ズルい(^^)。

刺身の盛り合わせといえば、その名の通り、
切り付けた何種類かの刺身を同じお皿に、
整然と盛り込んだものが通例ではあるけれど、
こうして、ひと皿ひと皿にしてくれて、
そこへそれぞれのお刺身に相応しい、
ひと手間を添えてくれているのがなんとも嬉しい。
これは一緒盛りのお皿では出来ないこと。
そして、そのために手間や手数を費やしてくれるのも、
こうするとお酒がより美味しいでしょ的な、
饗応の心持ちや気風があってこそ、ですね。

こりゃあかん、と日本酒の品書きを慌てて開く(^^)。
そこにはほぼ燗向けのお酒がラインナップ。
時季もあり、冷たいお酒をおまかせでお願いする。 清酒「桃太郎」の硝子の徳利でやってきたのは、
滋賀は琵琶湖の南方、湖南市の北島酒造の、
“辛口完全発酵”を謳う純米吟醸「北島」。
辛口と云いつつ、米の甘味や旨味があって、いい。

そこへ、おつまみ三種盛りがトントントンと。
ひとつが、リクエストしていた、
「淡路玉ねぎのムースのせポテトサラダ」。 澄んだ甘さがすんなりと美味い玉葱ムースと、
ねっとり系ポテサラの組み合わせが絶妙。
下敷きにしているのは、極薄スライスのじゃが芋だ。

その横に並んで、
「地頭鶏むね肉とぬか塚きゅうり中華和え」。 地頭鶏ランド日南のWebサイトによると、
地頭鶏(じとっこ)とは、旧島津藩であるところの、
宮崎県や鹿児島県の一部で古くから飼育されていて、
地頭鶏というその名は、
当時の地頭職に献上されていたことに由来する、そう。
青森の掛け合わせなしの在来種で瓜っぽいです、
とお聞きしたのは「糠塚きゅうり」。
八戸市の伝統野菜とのことで、一般的な胡瓜よりも、
ずんぐりした体形をしているらしい。
胡瓜は成る程、少し水っぽい感じで、
ウチの庭であっという間に育ち過ぎてしまった胡瓜に、
似ている感じもして面白い。

とろろんとあんの掛るは「いちぢく胡麻酢がけ」。 完熟した無花果がこんなにも美味しいと、
気が付いたのはお恥ずかし乍ら、つい最近(^^)。
そのまんまでも十分美味しい無花果だけれど、
そこに施した胡麻酢あんがちゃんと料理に仕立ててる。

こうして、きちんと手をかけたおつまみ・酒肴が、
ふた口少々の小サイズでいただけることが有難い。
お腹の容量というか、処理能力が大人しくなってきた、
そんなお年頃には、なおのこと有難いのであります(^^)。

ちょうど目の前には、燗酒器。 燗酒の似合う冬場にも来なくっちゃなぁと思いつつ、
その隣にも燗酒器からひと廻り大き目の木枠の容器でも、
張られたお湯から湯気が上がっている。
何に使うのかなぁと見ていればそれは、
温かい料理の器を温めるために用意されたもの。
いやはや、これもまた粋な計らいではありませぬか。

ここでお次にと、
純米酒「丹澤山」原酒火入・猫と花火、が届く。 猫と花火?と思っていると、
一升瓶の向こう側からライトを照らしてくれた。
あらーー、なはははー、なるほどー(^^)。
見事に虹色に花火が上がり、黒猫がそれを眺めてる。
「丹澤山」を醸しているのは、
丹沢山系の伏流水を用いる、
足柄上郡山北町の川西屋酒造店。
13度の低アルコールで、
穏やかで優しく軽い呑み口だ。

まずひとつ、小サイズにてお願いしていたのが、
「ハモの天ぷら ごぼうソースと山椒オイル」。 摺り下ろした牛蒡のソースの風味がいい。
牛蒡だけだともっさりするかもとも思うところに、
山椒のオイルを合わせればあら不思議。
淡泊にも映る鱧の身に奥行きと輪郭を添えてくれる。

大根おろしもたっぷり添えた、
「富士山サーモンのハラス焼き」。 富士山サーモン株式会社のWebサイトによると、
富士山サーモンとは、バナジウム水で有名な、
静岡県富士宮市猪之頭湧水、
芝川上流にある養殖場をはじめとする4つの拠点で、
養殖するサーモン、虹鱒だという。
焼いてなお鮮やかなサーモンピンク。
ベタベタした脂ではなく、さらっとしつつ、
旨味たっぷりで甘くさえある。
うんうん、美味しい。

定番メニューからは、「豚肉しゅうまい」。 蒸篭から上がる湯気。
タレは黒酢ベースの醤油ダレ。
もう既に美味しいのが伝わるね(^^)。

追加オーダーもまた小サイズがいいなと、
ふた品をお願いしたら、
それは制限オーバーですと止められた。
あ、そうだそうだそうでした忘れてました(^^)。
以前は全部小サイズでもお受けしていたのだけれど、
さすがに手間がかかり過ぎて、
収集がつかなくなったこともあって、
やむなく制限させていただいているのですと、赤津さん。
いえいえ、ご事情よく判ります。
まだ慣れていないもので、すいません。

無事、小サイズで註文できたのは、
旬の定番「とうもろこしと枝豆のかき揚げ」。 これはやっぱりのズルいヤツ。
軽やかな揚げ口は期待以上のもの。
そして、この可愛らしい量がまた好ましい。

お料理のトリを飾るのが、
「鮎のコンフィ サルサソースとたでオイル」。 塩焼きではなくて、じっくりと低温の油で火を入れる。
それはきっと時間を掛けること。
それがしっとりとしつつ鮎の香る身にしている感じ。
頭まですっかり食べられる。
鮎といえば、何故かやっぱり青蓼のソースなのですなぁ。

荻窪駅西口から青梅街道沿いを四面道方面へ。
杉並公会堂向かいの路地へと折れ入ったところに、
酒・肴「赤津庄兵衛」は、ある。 店名「赤津庄兵衛」の庄兵衛さんとはどなた、
と訊ねればそれは、赤津さんの曽祖父、
つまりはひい爺さまが庄兵衛さんなのだという。
庄兵衛さんは現福島はいわき市の出身で、
昭和の大合併でいわき市になった際のなんと、
初代が決まるまでの間、市長に就いていたのだそう。
14自治体がひとつになるという状況はきっと、
さまざまな問題・課題があって、
ぐちゃぐちゃであったであろうことは、想像に難くない。
そんな難局の冒頭に直面した方なのだ。
赤津さんが生まれた頃には亡くなっていたものの、
子供の頃からその名前は聞いていて、
そんなひい爺さんの名前を店の名とすれば、
悪いことは出来ないんじゃないかと思って(^^)、
お店の名前に冠したんだそう。
当時のそんな赤津庄兵衛さんを知るひと中には、
同じ名前の料理店があることに気が付いて以来、
通ってくれている方もいるそうだ。
気の利いた肴たちで、いい酒を呑んで欲しい。
シンプルなそんな想いをしっかり体現してくれていて、
嬉しくも有難い。
今度はやっぱり、燗酒のよく似合う季節にね。

「赤津庄兵衛」
東京都杉並区天沼3-11-3 モアビル102 [Map]
050-5590-2987
https://www.instagram.com/showbei0612

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