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味噌にこみ「たから」で玉子入味噌煮込うどん美味なりまるや八丁味噌大須観音お膝元

お久し振りのお伊勢参りから、伊射波神社(いさわじんじゃ)、伊雜宮(いざわのみや)とふたつの志摩の国の一の宮に参拝して、英虞湾の畔に泊まった。
そこからふたたび伊勢に戻って伊勢うどんをいただいて、名古屋へと向かう近鉄の特急へと乗り込んだ。
その夕刻にはいつもの、老舗名居酒屋「大甚本店」の入れ込みのテーブルにいた。

天王崎橋近くのホテルにお世話になった、
その翌日のこと。
近くのシェアサイクルのポートで機動力を得て、
暑さの中朝ごはんにと向かったのは、
ご存じ、柳橋中央市場内にある中華そば「大河」。

朝からイケる中華そばを立ち喰いして、
その足で、四間道 町並み保存地区へと向かう。 およそ狭い横丁を漫ろに歩けば、
名古屋にもこんな風に歴史を感じさせる、
古びた町並みが残っているのだなぁと感心する。
屋根の上に祠を祀るというのも家々の風習らしく、
大黒天らしき置物が、
軒下の小さな縁側に祀られていたりした。

そのまま横丁を気の向くまま、
左に折れ入ったり、右に折れたりして、
円頓寺商店街とされるアーケード方向へ散策する。 すると、横丁の入口を覆うようにして、
円頓寺銀座街と示す看板の列が目に留まる。
ロックバー、スナック、お食事処、居酒屋に割烹、
そしてイタリアンにベトナム料理の食堂と、
なんともバランスのとれた顔ぶれだ。
いつか此処の何れかにお邪魔してみたいと、
そう思いつつ、L字の横丁を通り過ぎる。

円頓寺商店街から南下するように、
チャリンコをわっせわっせと駆って、
辿り着いたのは、これまたご存じ、
大須観音の仁王門の前。 左右の仁王像を拝みつつ、その先の本堂へ。
大須観音ってそもそも何だっけと思えば、
それは能信上人が開山した寺で、
今の岐阜県羽島市大須であるところの、
元尾張国長岡庄大須郷にあったという。

能信上人は寺の開創にあたって、
伊勢大神宮に百ヶ日間籠り、
お告げをえて、観世音の姿を拝された。
その姿は、摂州四天王寺の大慈大悲の、
観世音菩薩に寸分たがわぬものであったため、
観世音菩薩がこの寺の本尊として移された。
霊験あらたかと知られ、寺領を大きくした後、
家康が名古屋を建設経営する手始めとして、
寺を当地に移したと、Webページにある。
真言宗智山派別格本山は、
大須観音と俗称され、
市の一大中心として繁栄している、と。
“大須観音”って、俗称だったんだね(^^)。

そんな大須観音の略縁起も知らぬまま、
以前も一度、徘徊したことのある、
仁王門通りのアーケードを往く。 外郎の大店を横目に進むと、その先に、
巨大な金の玉が宙に浮かんでいる。

あれって一体全体何なのだろうと訝しみつつ、
交叉する本町通りのアーケードに曲がり入る。 そこで見付けたのが、
味噌煮込み、煮込みうどんという2行を冠した、
“大須名物”という朱い文字。

改めて店の正面に廻り込めば、
飾らず構えず、でもどこか毅然として、
細部まで注意を払った様子の店構え。 凛とした純白の暖簾には、
“名代”と控えめに示しつつ、中央に「にこみ」。
いい顔している味噌煮込みの名代「たから」で、
味噌煮込みうどんをいただきましょう。
猛暑下であることを一旦忘れて、ね(^^)。

きちんとしたお店はきっと、
ショーケースのお手入れにも抜かりはない。 埃を被っていたり、焼けて黒ずんだりしている、
サンプルをよく目にするけれど、
毎日掃除しているんじゃないかぐらい、
整然としていて清々しい。

ショーケースの貼紙には、
従来通りの風味を出すために、
打ち粉としてそば粉が含まれている、とある。
アレルギーのある方々向けの案内なのだけれど、
片栗粉やコーンスターチではなくて、
打ち粉に蕎麦粉を使うって、面白いね。

先客さんと入れ替わるように店内へ入ると、
それでまた満席となったご様子で、
一番入口寄りのテーブル席へご案内。 見上げた壁には、
きちんと額装した木札のお品書き。
当然ながらの「みそにこみ」を筆頭に、
具材あれこれの味噌煮込みうどんに、
「にこみ定食」までが前半に並ぶ。
後半は、煮込み以外の定食や丼物だ。

卓上のお品書きを一応ひと通り眺める。
隅に小さい文字で、煮込みうどんは醤油味もある、
と書いてあって、へー、と思う。
当然断然間違いなく、誰がなんと言っても、
味噌の煮込みうどん推しなのだけど、
もしもの時のための準備も抜かりなく、
なのだとしたらなんと素晴らしいことでしょう。
おとし玉子くらいは欲しいねと、
「玉子にこみ」をお願いしよう。
もちろん、味噌煮込みでね(^^)。

額や首筋の汗を改めて拭いつつ、
しばらく待っていると、
お待ちどおさま、と土鍋がやってきた。 すこしずらした蓋の脇から、
満杯に注がれた八丁味噌色の汁が湧く。
しばしそれを鑑賞するのもまた、
味噌煮込みうどんをいただく、
醍醐味のひとつなのでありましょう。

少しは熱いかなとそっと持ち手を摘んで、
ゆっくりと蓋を翻す。 湯気ととともに味噌の香りがよりふんだんに、
ぶわわんと鼻腔を擽ってくる。

赤茶色い汁に浮かぶ具材たちは、
斜め切りした長葱に、縁取りの面白い蒲鉾、
お麩に勿論のおとし玉子。 どれどれと手許の蓮華で汁を掬って、
念のためふーふーしてから、啜る。
うんうん、初見は、すっきりとして美味しい。
そして、じわんと味噌のコク味と、
柔らかい酸味を含む風味が、
出汁の旨味と一緒に味蕾を満たしてくれる。
八丁味噌の色にイメージするしつこさなんか、ない。
相棒は、あれ?美味しいじゃんとでもいうような、
少し不思議そうな顔をしている(^^)。

汁の美味しさを確かめてすぐさま、
そんな汁に沈んで隠れていたうどんを引き揚げる。 ふたたび立ち上がる、湯気にわくわくする。
うどんの形状はやや、平打ちの様相のする。
これまたふーふーしてから、
撥ねないようそーっと啜る。
うんうん、ゴワゴワなんかしないしなやかな麺。
するんとしつつ、噛めば粉の風味がする感じ。
いいね、いいね。
下茹ででもしているのかなぁと思うも、
恐怖のゴワゴワ麺の代名詞、山本屋系両店同様、
生の麺を直接土鍋で煮込んでいるよう。
塩や加水、粉の性質もあるかもしれないけれど、
この断面形状や太さもまた、
美味しい味噌煮込みうどんにしている、
秘訣のひとつ、なのかもしれないな。

落し玉子が汁の熱にやや固まって、
そのコク味がさらに八丁味噌の汁を旨くする。 ご飯をもらって、汁をぶっかけて喰らう、
なんて手もありそうだけど、
それはまた次回にね(^^)。

お会計にとレジ前に立ったところに、
さりげなく置かれていたのが、
「まるや」の八丁味噌。
それは、三河産大豆を100%使った、
無添加・天然醸造。
思わず手に取り、一緒に会計をとしたのは、
よっぽど今しがた食べたうどんが、
美味しかったことの証左かもしれません。
「まるや八丁味噌」は、延元二年(1337年)創業。
八丁味噌の本場の本場、
岡崎城から西へ八丁の距離の八丁町の、
東海道街道筋に佇む味噌蔵2社のうちの一軒だ。

大須観音のお膝元、
仁王門通りのアーケードと交叉する本町通り沿いに、
味噌煮込みうどん専門店「たから」は、ある。 「たから」の創業は、1954年(昭和29年)。
ちょうど70周年を過ぎたところでしょうか。
高岳駅最寄りの「角丸うどん」に加えて此処も、
お気に入りの味噌煮込みうどんの店になった。
いずれも、ゴワゴワではないやや細めの麺がいい。
山本屋系両店を初めて食べてそのまま、
名古屋の味噌煮込みうどんを嫌いになるのは、
食べ手にとっても、両店以外のお店にとっても、
決してハッピーなことじゃないことに、
改めて気が付いた酷暑の日でありました。

「たから」
愛知県名古屋市中区大須2-16-17 [Map]
052-231-5523

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