めん類れすとらん「まめや」で月見伊勢うどん麺と汁の不思議な魅力英虞湾からの帰路

酷暑の中をひーひー云い乍ら汗を掻き掻き、森の中の狭き遊歩道を往き、海辺に建つ一の鳥居から苦行のような石積みの階段登りの果てに辿り着いた伊射波(いざわ)神社。
やっとの思いで駐車場に戻り、その足で向かった近鉄志摩線の無人駅上之郷駅近くの伊雜宮(いざわのみや)。
志摩の国のふたつの一の宮に参拝し、伊雜宮鳥居前にある、う御料理「中六」でうなぎ丼を平らげた。

「磯部の御神田(おみた)」の名で知られる、
伊雑宮に古くから続く神事、御田植式の、
準備が進むよな、そんな様子の田んぼの景色を、
ただただ静かに、しばし眺めた。

そこから志摩の方向へと南下しつつ、
幾つかある展望台の中から選んだのは、
いつぞや一度訪れたことのある横山展望台だ。 灼熱の駐車場からこれまた汗を拭いつつ、
つづら折りのスロープを上がっていくと、
広く視界が開けると同時に、風に吹かれた。
眼下には、美しさと雄大さに目を瞠らす、
英虞湾(あごわん)のパノラマビュー。
これぞ、リアス海岸の魅力。
カフェの椅子に腰掛けて、風に吹かれ乍ら、
目の前の稀なる景色を眺めつつ舐めた、
ソフトクリームの美味しいことったら(^^)。

展望台から入り江の入り組む湾を眺め遣り、
あの辺りかな、いやあの島の手前かなと探した、
この日のお宿は「汀渚 ばさら邸」。
英虞湾を周遊するクルージングが出来るというので、
小さな缶ビールをいただきつつ、
ポンツーンの前でゆるゆると船を待つ。 陰ったとはいえ、陽射しはまだ強かったけれど、
久し振りにクルーザーに乗れて、
うんうん、心地いいひと時でありました。

しかし乍ら期待していた「ばさら邸」の食事は、
ツッコミどころ満載で肩透かしの残念なことに…。 朝食に登場した「山村フルーツミックス」に、
不思議な郷愁を憶えて、牛乳瓶の蓋を見ると、
山村乳業が伊勢市のメーカーだと知る。
ゆっくり身支度を整えて、伊勢へと戻りましょう。

小一時間のドライブを愉しみつつ、
伊勢市駅周辺へと戻ってきた。
目的地はそう、二日前の黄昏時にお邪魔した、
酒さかな「向井酒の店」の斜向かい。 ポール建てで屋根を載せた袖看板に、
“伊勢うどん”と掲げた「まめや」さんで、
伊勢うどんをという魂胆なのであります。

うどん屋さんのファサードとして、
完璧なのではあるまいか。 そう思いつつふと、
正面の縦格子上部に取り付けられた、
アクリルの文字をよく見ると、
それは、”うどんそば”。
駐車場には”伊勢うどん”とあるものの、
店舗右脇の看板には、
“めんぞうすい煮込みうどん”。
伊勢うどんの専門店、
という訳ではなさそうです。

店内は、右手に4人掛けのテーブル席、
中央にふたり掛けのテーブルがあり、
左手は畳敷きの小上がりに座卓が並んでいる。 卓上のお品書きを開くと、
まずはやっぱり「伊勢うどん」のあれこれ。
シンプルなものから、「伊勢きつねうどん」や、
「伊勢めひびうどん」「デラックス伊勢うどん」、
そして、時価という「伊勢海老うどん」までが並ぶ。
“めひび”には、若布の根の部分を細長く刻んだもの、
との補足説明が添えてある。
根昆布ならぬ、根若布ってことか。
不漁と聞く「伊勢海老うどん」がこの日おいくらか、
についてはお訊きできませんでした(^^)。

伊勢うどんの定食には、
ハーフ伊勢うどんのついた「エビフライ定食」とか、
名古屋チックに「みそかつ定食」なんてのもある。
「うすだしうどん」というページもあって、
それは多分きっと、伊勢うどんとは異なる、
“うす出汁”=甘汁のうどんたちなのでしょう。
「カレー中華」を含む中華そばもあると思いつつ、
次の頁を捲れば、うどんならぬ「伊勢そば定食」に、
「牛鍋定食」「牛丼」といったメニューが並ぶ。
お次の頁には、これまた名古屋チックに、
「味噌煮込みうどん」「鍋焼うどん」などなど。
そうかと思えば、「讃岐うどん」「コロうどん」、
といった文字も見え隠れする。
かと思えばその一方で、
冷たい伊勢うどんの麺に伊勢うどんのタレと、
ざるつゆを合わせた「冷やしうどん」や、
最早よく判らない「土佐おろしそば」まで。
透明アクリルのスタンドメニューには、
さらなる冷やし系のうどん・そばに、
酒肴にもなりそうな一品料理たち。
実にバラエティ豊かで、目移りしてしまう(^^)。

ひと通り目移りしてからひと呼吸。
ここは初志貫徹と気持ちを整えて、
註文したのは「月見伊勢うどん」。 太目で柔らかそうなうどんが、
微妙に絡まるようにして、
濃いぃ色のツユに浸っていて、
その真ん中に割り入れた玉子。
想定通りの景観を魅せてくれるどんぶりだ。

そのふんわりとした柔らかさを、
知らない訳ではないが故に、
眺めるだけでそのヤワ加減が伝わってくる。 それなりに伊勢うどんを食べてきていることで、
そんな小さな知見が身についていることを想う。

箸に載せて量感を愉しむ際には、
ぷにんと千切れないような配慮も、
自ずと生まれてくる。 嗚呼、お久し振りに美味しい、旨い。
シンプルに「伊勢うどん」を註文していた相棒は、
衝撃的に柔らかい!という顔をする。
この食感、面白ーい、と。
え、具合の悪い時のおかゆの代わりになるかもって?
いやー、それはどうかな(^^)。
でも、大阪うどんとも、博多うどんとも、
次元の異なる柔らかさだよね。

おかげ横丁の「ふくすけ」で初めて、
伊勢うどんを食べた時の衝撃を共有できたようで、
なんだか妙に嬉しい。

後半戦は、揚げ玉と刻み葱を入れて馴染ませる。 揚げ玉の油にコクが出て、またひと味違う。
でも、ベースとなる甘めのたまり醤油のツユの中に、
しっかりと旨味があるからこそ、
麺の不思議な魅力が活きている気がする。
塩辛くないのも好ましい。

ふと、お品書きの「伊勢うどん」のところを、
改めて眺めてみると、サイズが三段階あった。
1玉相当と思われるデフォルトの「伊勢うどん」に、
2玉分相当の「大盛伊勢うどん」。
そしてもうひとつが、「伊勢うどんハーフ」。
“1人前の半分より少し多め”と補記がある。
一瞬、ん?と考えてしまった。
0.7玉相当とか、そふいふことでしょうか。
日本語って、難しい(^^)。

伊勢市駅前のロータリーから伸びる、
月の宮通りが踏切を渡った先の、
酒さかな「向井酒の店」の斜向かいに、
めん類れすとらん「まめや」は、ある。 初代 豆谷卯之助さんが「まめや」を創業したのは、
1923年(大正12年)のことだという。
つまりは、つい数年前に創業100周年を迎えていた、
ということになる。
いつからそう謳うようになったのか、
箸袋に”めん類れすとらん”とあるのに膝を打つ。
もしかしたら創業時は、
伊勢うどん一本槍だったけれど、
100年の歴史を経て、代が変わっていく裡に、
深まる麺への探求心と時代と地域の要請によって、
バラエティ豊かなお品書きが、
出来上がっていったのではないか、
なーんて勝手な邪推をしています。

「まめや」
三重県伊勢市宮後2-19-11 [Map]
0596-23-2425
http://mameya.info/

column/02927

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