発酵と薪火の日本料理「SHIZEN」で薪焼き矢柄の椀眠り〆鹿肉目近鮪土壁に囲まれて

毎年恒例の志の輔師匠による正月のひと月公演「志の輔らくご in PARCO」。
チケットを取り損ねることもあるけれど、努めて毎年続けて通いたいと思っている年明けのイベントだ。
師匠の独演会がはねた後のお食事処へと足が向くのは、なるべくひっそりした裏通り方面へということになるのは、渋谷の人混みが歳を重ねる毎に苦手になってくるからに他なりません(笑)。

この日の夜は、パルコを出て公園通りを下り、
宮下公園からのんべい横丁の裏手を抜け、渋谷駅の東口へ。
そのまま246を歩道橋で渡り、
渋谷警察署の裏手エリアに忍び入る。 目的地は、数度お邪魔したことのある、
「酒井商会」が入居する雑居ビルの、
そのひとつ上の階でありました。

鉛色に仕上げたL字のコンクリート製のカウンターが、
料理人の舞台たるアイランドキッチンを囲み、
特異な色味と表情の壁の設えなどしっかりデザインされている。 口開きには、「箕面ビール おさるIPA」をいただきましょう。

先付けは、宝箱蟹 エルダーフラワーと発酵トマトジュレ。 発酵トマトジュレの穏やかな酸味と旨味で、
蟹の身の甘味が一層に豊かになって迫ります。

続いて目の前に差し出されたのは、
干物のようになった細長いお魚。
ダイビング中に何度も出会ったことのあるので、
それが矢柄だとすぐに判る。
そんな矢柄が薪の火に炙られ今度は、
海老芋のすりながしの海に浮かんでる。
そんなお椀であります。

矢柄を炙った薪があるのは、
カウンターに向かって右手にある石組みの炉。 店内には他に調理台中央のIH調理器1口しかないので、
薪が主たる熱源といってもいいかもしれません。

そんな炉から取り出した薪を今度は、
焼き網の上に並べたメジマグロの身に押し当てる。 タタキ的風情となったお造りには、
黄身醤油で和えた発酵行者大蒜という、
手の込んだソースが絶妙にマッチしています。

焼酎かなぁと思いつつお酒メニューを眺めては、
面白がって「さん」という名の焼酎をチョイスする。 静岡の小さな蒸留所で蒸溜したという”山椒酒”だという。
ソーダ割ではなく、トゥワイスアップぐらいにしていたら、
より風味が判ったのかもしれません。

お魚は、甘鯛の松笠焼き 胡桃と鮎のもろみ。 京都・八坂神社近くの料理屋で初めて、
甘鯛松笠焼きを口にした時のこと、
その歯触りを思い出します。

炙った帆立や牡蠣などなどの八寸には、
久し振りのグレーンウイスキー「知多」を合わせてみましょう。

灰焼き菊芋 猪の角煮 高菜の餡、と題するお皿。 菊芋に火を入れるために包んでいるのは白菜で、
当然のように所々に焦げた個所もある。
そこにジビエたる猪の角煮が添えられ、
古漬け的高菜を添えた餡が全体の味わいをひとつにする。
白菜が勿体ないと、包丁を入れて貰い、
全部平らげてしまいました(笑)。

肉のお皿には、薪焼き鹿肉 柿酢 栗の蜂蜜。 眠り〆という技法を施したものとのことで、
臭みなく旨味を蓄えた鹿肉。
その鹿肉に綺麗に火が入っている。
自らの酢酸発酵により抽出した柿酢を熟成させ、
バルサミコ酢のようなテイストが出てきたものに、
国産の栗の蜂蜜を合わせてソースにしているという。

大振りの丸プレートに配された漬物に椀の白米がきた。
薪火で炊き上げたというご飯そのものが美味い。
緑大根の糠漬け、会津伝統の「三五八」で漬けた人参。
昆布と蓬の花とで漬けた胡瓜や辛味を添えた根セロリ、
鹿肉で作ったへしこなどなどがそのご飯のお供。 そして、黄身だけを戴いた玉子かけご飯が、
美味しくない訳がありません(笑)。

デザートは、薪焼き洋梨 甘酒の青カビチーズのアイス。 焼き炙ることで甘味の増した洋梨の風味。
カケることの甘酒の発酵の甘さ風味。
ワルことのブルーチーズ独特の仄かな風味。

渋谷警察署裏手の雑居ビル、酒井商会の上階に、
発酵と薪火の日本料理「SHIZEN」はある。 店名の「SHIZEN」は、つまりは”自然”。
店舗の内装、空間が出来上がってから漸く決めた店名だという。
元々薪を使った火入れと発酵を活かした料理を主眼としていて、
それを土壁で囲まれた空間で供することを考える裡に、
浮かび上がってきた店名なのだそうだ。
ちなみに、店名「SHIZEN」のロゴタイプの”H”は、
“土”だったり”火”だったり”水”だったりしているみたい。
若きシェフのナチュラルに真摯な姿勢にも好感を抱く。
また別の季節にも伺いたいね。

「SHIZEN」
東京都渋谷区渋谷3-6-18 荻津ビル3階 [Map]
https://sakai-shokai.jp/shizen/

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