純手打うどん「山内うどん店」でひやあつ憧れ続けた森の中うどんの美味しさたるや

讃岐うどんには、強く印象的な想い出がある。
それは、高校の修学旅行でのことだった。
中学生でも行ったのに、ふたたび同じ京都・奈良という考えなしな行き先の修学旅行に何故か、金毘羅さんへ渡ってお参りするというオマケが付いていた。

大阪か神戸かにも泊ったのか、
そのあたりはまるで憶えていないのだけれど、
乗ったフェリーは確か、
今はなき宇高連絡船だったのだと思う。
その、高松へと渡るフェリーの上に、
飾り気のない立ち喰いうどんの店があり、
そこで何気なくかけうどんを注文んだ。
そうとはまったく知らずに受け取った、
どんぶりを見た時のその衝撃たるや!
関東圏のうどんしか知らない高校生にとって、
綺麗に澄んだ汁の色に「えーー!」とびっくり。
恐る恐るその汁を啜ればこれまた、
普段とは違う風味の香りがして、しかも旨い。
そして、うどんそのものを啜れば今度は、
不思議にムニっとしていて、不思議に旨い。
讃岐のうどんって、こんなんなんだ!
と心底驚いた。
その場面をよくよく憶えているのです。

その後、社会人となり、
ようやくふたたび訪れた高松への出張の折には、
当時有名だったセルフスタイルの「かな泉」をはじめ、
市街地にある店で讃岐うどんを啜ったこともある。
ただこう、いまひとつ美味しいと思えなかった、
というのが正直なところでありました。

さらにその後の2006年には、
讃岐うどんをテーマにした映画「UDON」が
ユースケ・サンタマリア主演で公開された。
見終えた感想を正直に云えば、
これがまたどうして、結構ワクワクした(^^)。
どうやら讃岐にはそんな個性的なうどん店が、
あちこちに散在しつつ、沢山あるらしい。
そのあたりから熱気を帯びてきていた、
「讃岐うどん巡り」の様子が羨ましく、
ふたたび高松出張ないかなぁーと思うも、
結局そんな機会もないまま、
月日が流れてしまっていたのでした。

果たして何年振りになるのでしょう。
いつか行ってやるぞと窺う機会を漸く得て、
高松空港に降り立った。
空港で借りたレンタカーですぐさま向かったのは、
空港からおよそ真西に位置する、まんのう町。
Googleセンセの案内を頼りに30分ほど走ると、
田畑と雑木林の中を往く県道が、
土讃線の線路と並走した。
うどん店らしき建物なんか見当たらないねと話すも、
その先の踏切へ左折せよとの指令が下る。 踏切を渡ったところでホッとしたのは、
錆て掠れて草臥れて味わい満点となった、
野立ての案内看板を発見したからであります。

折れ入った道から探るようにゆっくりと、
その先をさらに左折してとろとろと、
S字を描くような細い坂道を上がっていく。 すると、坂を上がり切ろうとするその奥に、
テレビ番組でも見る機会のあった、
素敵な店構えが見えてきた。

いつかきっと、必ず行きたいと思っていた、
手打うどん「やまうち」に暖簾がかかっている。 どこまで広がっているのかまったく判らない、
高く深くて厚い雑木林がその背後を守っている。
いやー、無事に着けた(^^)。
11時高松着のエアーだったものだから、
間に合うかなー、とも心配していたのです。

今はもう使われることのなくなった、
端部を曲げたスレートの屋根が面白い。 左手奥には、まるで車庫のような屋根があり、
その下には薪が堆く積み上げられている様子。
そして、その手前の煙突からは、
薄っすらと煙が立ち昇っています。

ずっとずっと気になっていた、
如何にも手書きの看板をじっと見る。 手書きの文字に味があるのは勿論のこと、
白で塗り潰したその下地に、
「Ghana」という文字が滲んでいる。
これって、ロッテのガーナミルクチョコレートの、
あの赤いパッケージでないでしょうか。
しかも、ロッテ初のチョコレートとして発売を始めた、
1964年当時からのデザインのようにも見える。
こんな森の中で菓子店を営んでいたりしたのか、
その経緯も気になります(^^)。

暖簾を払って、アルミの引き戸を引くと、
註文と清算とどんぶりの受け渡しを兼ねた、
カウンターの前に数人の方々が順番を待っていた。 正面に見える小梁の辺りに、
どこぞの銘木が掲げてあって、
墨の筆文字によるお品書きになっている。
右から「あつあつ」「ひやあつ」「ひやひや」と、
「かけうどん」の食べ方選択肢が並び、
「しょうゆうどん」「湯だめうどん」とのいずれも、
小、大、特大から量が選べる。
小、中、大とか並、中、大とかではないところにも、
もしかしたら拘りがあるのかもしれないな(^^)。

正対したカウンターの左奥に、
湯気を上げる羽釜とそこに置いたたも網が見える。 蛇口の水を流し溜めて溢れさせているシンクで、
てぼに入れてキュッと冷し〆たうどんの水を切る。

どんぶりに移したうどん目掛けて今度は、
アルミ鍋で温められている出汁を、
柄杓で掬い注ぎ込む。 あいよとばかりにそのどんぶりを受け取った手で、
薬味の葱を散らして、カウンターの上へ。
この日はもう閉店間際ということもあってか、
ご主人が羽釜でうどんを茹でている、
そんな場面は見られなかったけれど、
どこかのテレビ番組では、
窓越しに外を一瞥しては、訪れる客の動向を睨んで、
茹でるうどんの量を加減していると話していたっけ。
そして、その羽釜の湯を柔らかく炊いているのは、
建物横手に積み揚げた薪の火だということも。

受け取ったどんぶりには、
やっぱり「ひああつ」のうどん。 長年憧れ続けてきた、
と云ってしまっても言い過ぎではない、
そんなうどんが今目の前にある。
これがワクワクせずにおられましょうか(^^)。

ナチュラルに揃った麺線が美しい。 艶々としたうどんの側面がのっぺらでなく、
幾重にも重ねられた層が少し縒れたような、
そんな様子であることが判るね。

小さく深呼吸してから(^^)、
箸の先で引き上げたそのうどんを啜る。 ああああ、うんめぇぇぇ。
ただコシがある、なんて言い回しは陳腐に思う。
力強くもあり、繊細でもあり。
繊細でありながら、力強い。
足で踏み畳んでは、また踏んで折り整える。
その繰り返しの労力が、
うどんに織り込んだ沢山の層になり、
独特の歯触り、歯応え、噛み応え、喉越しになる。
清澄な山の水で捏ね、茹で、〆たことが、
美味しさに繋がっているのかもなどとふと思わせる。
その水はきっと、いりこの出汁の澄んで深い滋味にも、
大きく寄与しているのかもとも。
うんうん、いやはや、佳いもんいただいた。
あっさりと期待を越えてくるンだものなぁ(^^)。

高松空港からおよそ真西に位置する、まんのう町。
県道から土讃線の踏切を渡り、
うねるように進んだ坂の上の森の中に、
純手打うどん「山内うどん店」は、ある。 讃岐うどん店のレジェンドの中の一軒に、
間違いなく挙げられる「山内うどん店」。
長らく憧れにも似た感情を抱いていた、
「山内うどん店」のうどんを漸くいただけた。
たった一杯のかけうどん。
そのうどんが、こんなにも美味しいなんて、
なんて倖せなことでしょう。
ここは繰り返し云い、伝えたい。
うんうん、いやはや、佳いもんいただいた。
あっさりと期待を越えてくるンだものなぁ(^^)。

「山内うどん店」
香川県仲多度郡まんのう町十郷字大口1010 [Map]
0877-77-2916

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