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台湾料理「麗郷」で煙腸菜脯蛋炸丸子蠔油鰻魚蟹肉冬瓜肉員変化と圧の渋谷のオアシス

年嵩が増してくるとどうしても、ぐちゃぐちゃと人が多く、如何にも若い連中の圧が強いエリアにはあまり近づくのは潔しとしない気分になってくる。
その対象となるエリアの筆頭はやはり、渋谷駅周辺でありましょう。
そうは思いつつも、何だかんだで足を運ぶ理由は例えば、安部恭弘のライブ参戦のため。
安部恭弘の都内でのライブ会場はどういう訳か、
SHIBUYA109のすぐ裏手の渋谷プライム6Fにある、
「SHIBUYA PLEASURE PLEASURE」が定番なンだ。
そろそろ御年70歳になろうとしているのだから、
何も渋谷のど真ん中の会場でなく、
もう少し渋めの会場でもよいのになぁと、
毎回思ってしまうのが正直なところ(^^)。
318席の席数があり乍ら、ハイボール片手に、
ライブを聴けるハコはそうはないかとも思いつつね。

ここ最近では、腹拵えをしてから、
ライブに臨もうとする習慣になって、
そこで思い付いたのが、
渋谷プライムの目と鼻の先にある道玄坂小路。 道玄坂から小路へと右に折れれば、
渋谷を代表する景観のひとつだと、
勝手に決めている場所に出る。
右手の小路に視線を送れば、
ピンクと黄色の「平成女学園」のサイン。
左手の急坂を登り行けば、
ラブホ街へと辿り着く。
その真ん中の三角地帯にあるのが、
ご存じ、台湾料理「麗郷」渋谷店。
左右へ分けるY字の敷地に沿わせて台形の、
赤煉瓦仕立ての建物の角をラウンドさせて、
そこに灯を点すネオンサインが印象的だ。

土日祝は、奇特なる通し営業も、
平日の夕刻は、17時からの営業開始。
ゆえに、開店前に行列が出来ることもある。 並んでいると何故か、
妙に逸る気持ちになってくるから不思議だ(^^)。

おふたり様は大概、
一階中央の円卓辺りに案内されることが多い。 おひとり様エリアの厨房に向かうカウンター方向を、
何気なく見遣れば、その頭上には、
ずらずらっと腸詰が吊るされています。

まずはやっぱり生麦酒をと註文めば、
赤星ならぬ、黄星マークのジョッキがやってくる。 サッポロのコーポレートマークであるところの、
この星には「サッポロシャイニングスター」という、
そんな名前もあるようだ。
浸透しているとは云えなさそうだけどね(^^)。

ぐいぐいっとジョッキを傾けたところへ、
今しがたそのぶら下がり具合を眺めた、
「煙腸」つまりはチョウヅメが届く。 脂の具合が絶妙で、香り付けも程よくて、
何気にどんどん口に運んでしまう。
幾多の品が並ぶ「麗郷」の菜単の中にあって、
選び出すべき基本の品のひとつと云えましょう。

さらっとジョッキの麦酒を空けてしまったので、
メニューの「中国輸入酒」の項を物色すると、
そこには8種類の酒の名が並んでいる。

浙江紹興産「紹興酒」以外およそ馴染みがないので、
ちょいと調べてみると、
浙江紹興産「高梁酒(カオリャンチュウ)」の高梁とは、
玉蜀黍の一種で、白酒の一種になるよう。
「玖瑰露酒(メイクイルー)」の玖瑰とは、
浜茄子の花のことで、
高梁酒に玖瑰を混ぜ合わせたもの。
世界の銘酒と補記のある「茅台酒(マオタイしゅ)」は、
これまた高梁を主な原料とする白酒の一種で、
産地の貴州省北西部仁懐市茅台鎮の茅台に由来する。
山西産「汾酒(フェンチュウ)」もまたまた、
高粱を原料とする、白酒の一種である模様。
その汾酒を基酒として、
竹の葉や陳皮などの生薬を漬け込んで作られるのが、
黄緑色の薬酒「竹葉青酒(チューイエチンチュウ)」。
天津著名特産とされる「五加皮(ゴカヒ・ゴカキ)」は、
白酒に漢方の根皮、五加皮を漬けてつくるらしい。
桂花ラーメンで馴染みのある桂花とは、
モクセイ(木犀)の中国名で、
「桂花陳酒(けいかちんしゅ)」はつまりは、
キンモクセイ酒だ。

うむ、多少は勉強になったけれど、
結局註文んだのは、ご存じ「紹興酒」(^^)。
卓上のスタンドメニューにあった、
「塔牌紹興酒 福到(フータオ)をロックでね。 500mlの白い壺には、
2013年製造との表示があるので、
10年物ということなのかしらん。
うんうん。
吞み易くメローな印象の美味しい紹興酒だ。
最近では、トゲトゲした紹興酒に、
出くわさなくなったような気がするな。

菜単を開いてすぐのところのピンク色の用紙に、
「おすすめ品」9品が示されている。 その中に、5月よりと但し書きされた、
「清涼緑筍」つまりは台湾タケノコあります?と、
フロアの小母様小父様に訊ねるも、
毎回、ないない、とのお答えが続いている。
蒲田の線路際の「喜来楽」でいただいた、
「緑竹筍」をイメージしてのことなのだけれど、
採れなくなってしまっているのかなぁ。
それとも輸入そのものが難しくなっているのか。

ならばと、同じく「喜来楽」でもいただいた、
「菜脯蛋」つまりは台湾干し大根玉子焼きを、ね。 「喜来楽」では、薄焼きという様子だったけれど、
此処では、ピザのコルニチョーネよろしく、
周囲の縁が盛り上がっていてフォルムは随分と違う。

雷紋を施したステンレスの器に盛られてきたのは、
「炸丸子」つまりは肉だんご。 甘酢あんに絡めるでもなく、
カラッとした外皮のようなテクスチャの、
如何にも手で丸めたような、
大きさのやや異なる、少し歪んだ球状が7つ。
火傷に気を付けつつそっと齧れば、
妙な脂が滴るようなこともなく、
中もカラッとしてる。
素朴にして、美味しい、うん、いい。
卓上の辛味噌をちょんと漬けていただくのが、
よく似合ってオツであります。

順番が前後したような気もするのもの、
そこへ「金針湯」つまりは百合花スープ。 荏原中延の焼鳥屋で初めて、
金針菜の串を食べた時のことをふと思い出す。
ユリ科の花の蕾ってエディブルなんだ!って。
どこかちょっと薬膳ぽくなるのは何故でしょう(^^)。

菜単の魚貝類の項にウナギという文字を見付けて、
面白いかもと「蠔油鰻魚」。 ウナギのカキ油炒めとは正にその通り。
一度天婦羅にしてから醤油ベースの牡蠣油あんで、
炒めた竹の子や木耳、そして胡瓜と絡めて、
そこに鰻を投入してさっと数度北京鍋を振る感じ。
蒲焼もいいけれど、偶には牡蠣油炒めもね(^^)。

ふたたび「おすすめ品」に戻って、
「蟹肉冬瓜」つまりはカニ入り冬瓜。 大根と違って、火を入れても煮崩れない感じの、
何にでも馴染むようで、瓜っぽさを失わない感じの、
冬瓜の魅力が発揮されているひと皿、だと思う(^^)。
塩味の塩梅も素晴らしいのであります。

ではでは、最後は軽く〆る感じでと、
「麺線湯」つまりは台湾ソーメン。 菜単の飯類の項には、「肉ちまき」に続いて、
「汁ビーフン」「焼ビーフン」とあって、
その次に並んで「麺線湯」がある。
ビーフンは勿論、米粉が主原料の麺であるのに対し、
台湾ソーメンの麺は小麦粉の麺ということになる。
白濁したスープは、豚骨のようでもあり鰹も感じる。
中華風台湾的にゅうめん、といったところでしょうか。

毎度恒例、安部恭弘のライブ前にふたたび訪れれば、
この日は一階がほぼ満席で、お二階へご案内。 階段を上がってすぐのテーブル席に腰掛けると、
フロアの奥に台形に抜かれた窓が見える。
今しがた見上げた「麗郷」の壁面文字の下、
Rを描いた建物の角の開口部に違いない。
ちょっと、そこから外を覗いてみたい気もする(^^)。

そこから振り返れば、
一階からの階段の途中の壁に掲げられた、
3点の額装が見付かる。 註文をとりに来てくれた姐さんに、
あの真ん中の額のお方はどなた?と訊ねると、
急にしまったという表情になって口籠る。
おっと、知らないんかーい(^^)。
書かれている中国語は勿論読めないので、
素直に単純に想像すれば、
お店創業の尊い方ということになるけれど、
どうなのでしょう。

「麗郷」の富ヶ谷店で、
壺ではない紹興酒もあると知って、
ならば渋谷店にもあるはずと思えば、
ただ、「紹興酒を」と註文めばよいだけだった(^^)。 この、硝子の徳利、なんか美しくも可愛らしい。
実は、吞み切れなかった紹興酒の壺は、
お持ち帰りしていたのだけれど、
それも不要になるもんね。

さてさて、お二階のテーブルでもやっぱり、
「肉員」、ご存じ「バーワン」をいただきましょう。 云わずと知れたジブリの「千と千尋の神隠し」で、
千尋の父さんがかっ喰らうのがこれだ、とか、
いやいやそうではない別のものだ、
などと話題になった。
ぱっと見はもしかしたらクラゲ?とも思うような、
低く伏せたお椀型のようなフォルムに、
半透明の如何にもプルプル感のありそなテクスチャ。
どうやら、米粉とタピオカ粉でつくる生地らしく、
豚肉や刻んだ椎茸、竹の子なんかを具とした、
下味をつけた肉あんをその生地で包んで、
蒸し上げたものらしい。
なんかちょっと不思議な食べ物だけれど、
「麗郷」に来る度に註文しているのもまた不思議(^^)。

ライブの開場時間を横睨みしつつ、もうひと皿。
「炒米粉」つまりは焼きビーフン。 うんうん、実にシンプルな炒め麺料理なのに、
深みを思わせるような美味しさがある。
ちょっと足すであろうスープがいいのかな。
繊細にも映る極細の麺が、
オイリーにならずに炒められている。
「焼ビーフン」「汁ビーフン」と云えば、
真っ先に思い出すのは新橋の「ビーフン東」。
今度来る「麗郷」では、ビーフン東よろしく、
「肉粽」肉ちまきと「湯米粉」汁ビーフンとの、
黄金コンビを愉しもうかしらん。

道玄坂は渋谷プライムのすぐ先を、
右に折れ入る道玄坂小路に、
台湾料理「麗郷」渋谷店は、ある。 駅の構造そのものを大きく弄り倒すという、
大規模な再開発によって、
ダンジョン状態を提示し続けている渋谷駅。
周辺街区にはにょきにょきと新しいビルが建ち、
きっと新たな人の流入もあるに違いない。
目紛しい変化や人の多さのその圧に、
幾ら虚勢を張っても、どんどん苦手になっている。
そんな渋谷にあって安らぎのオアシスのひとつが、
1955年(昭和30年)創業という、ここ「麗郷」。
赤煉瓦造りの外観も実に味わい深い。
未だ果たせない台湾旅行もイメージしつつ、
渋谷でのライブの機会にでもまた伺います。

「麗郷」渋谷店
東京都渋谷区道玄坂2-25-18 [Map]
03-3461-4220
https://www.instagram.com/reikyo_dougenzaka

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