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やき鳥「さくら家」で冷やし鳥青タタキ白レバなんばん手羽元パテ老舗の柔らかな風格

八丁堀界隈で、焼鳥の店と云えばまず、茅場町の名店、やき鳥「宮川」を思い浮かべる。
随分とご無沙汰だけれど、「とり健」本店とか、焼鳥「きや」の印象も悪くない。
二八通りの焼鳥「うちやま」にはおひる時に何度もお邪魔したものの、今のところ夜の部には参画していない。
そんな意味では、手打ちらーめん「燎」斜向かいの焼き鳥「ドリフ」もランチしか知らない。
斜向かいと云えば、鮨「はしもと」お向かいの「鳥好」は、
大振りな具の串をおきまりで出してくれて、
実直な感じは案外面白い。
大箱の店とかチェーン店には食指が動かないので、
思い出すのはそんなところでしょうか。

おっと、大事な一軒が漏れていた。
入船のあの店を忘れてはいけません(^^)。

新大橋通りは入船一丁目交叉点。
「2F COFFEE」のあるビルの斜向かいから、
鉄砲洲通り方向へと通りの右手を往くと、
すぐに頭上に三角屋根を戴いた提灯が見えてくる。 風雨からの傷みを防ぐためでしょう、
厚手のビニールに包まれてはいるものの、
火袋の貼りものが割けて文字が滲んでいる。
下から見上げると、最初の文字は見えず、
他の文字も平体がかかったように読み難い。
けれど、紅く大きな提灯に書き込まれた文字は、
間違いなく「さくら家」。
以前のお店に掲げていた提灯をそのまま、
二本先の横丁から移転・新装した際に、
改めて据え付けたに違いない。

横断歩道を渡り、反対側からその提灯と、
暖簾のあるファサードの表情を眺め見る。 暖かい~暑い時季の白い暖簾が清々しい。
入船 鳥やの焼き鳥 さくら家、と、
まるで一句捻ったかのような文字が、オツだ。

格子戸を引き、予約の名を告げると、
正面から右手に向かって造り付けた、
カウンターの何れかの席へとご案内。
カウンターの右手奥は、
L字に回り込んでいるので、
例えば5人様の客が好んで、
予約時に指定する場合もありそう。

野田何某から贈られたらしき暖簾が、
奥の厨房との間を仕切る。 その脇には、紀州備長炭使用店の木札が、
少し古色を帯びてきている。
その横には通じ口のような小窓がある。
あ、そこからおかあさんの笑顔が覗く。
御年、91歳と聞くも、今も店に出て、
愛想を振る舞ってくれるなんて、
なんて有難いことでしょう。

ふと道路側の板壁の上を見上げるとそこには、
招木が並ぶ千社額が磨き上げられて、ある。 その真ん中には勿論「さくら家」。
築地「鳥籐」の名も見られるね。

左手のテーブル席エリアとの間を仕切る板壁には、
旧い店から持ってきたであろう、
少しくすんだ黒の品札が並ぶ。 手書きの文字が、実に味のある書き振りでいい。
ここに書き示されている酒肴・料理たちが、
「さくら家」で永く供されてきた、
グランドメニューの一部とも云えましょう。

そんな懐かしさも滲む品札の並びの下に、
これまた旧い店から一緒に持ち込んだであろう、
周囲にも傷みのみられる鏡が貼られている。 その上部中央に、
見知ったロゴマークがあるのに気が付いた。
それは、今はなき三和銀行のもの。
八丁堀支店が取引先だったみたいだ。

まずは麦酒をいただいて、
恒例なる、おまかせ9本の焼鳥をお願いする。 お姐さんのおススメが上手くて、
枝豆これから茹でますけど、と云われれば、
はいはい勿論と応えてしまいます(^^)。

お通しは、定番の中のひとつ、
「背肝のソース煮」。 レバーのようでレバーでない希少部位が、
ほろほろに煮付けてあるのだけれど、
それが、ソース味というのがキモ、ですな(^^)。

これもお姐さんにおススメされて飛び付いた、
夏限定の「冷やし鳥」。
鶏一羽をぶつ切にしたものを水から炊いて、
滲み出たスープと一緒に冷やし固めたもので、
ちょっと緩い煮凝りみたいな感じと仰る。
おふたりに小分けしましょうか、とも。
そう云われちゃうと註文んじゃうよねー(^^)。 夏らしい硝子の器の底には、ポン酢。
なるほど、煮凝りらしきぷるぷるが載っていて、
その下の身と一緒に口に含むと、嗚呼、
スープの旨味が解けて、イケるイケる。

来る度に註文んでいるもののひとつが、
こちら「鶏の青タタキ」。 鶏の周りの表層を加減よく湯引きして、
薄くスライスした様子がよく判る。
多めの小葱に紅葉おろし。
ちょい辛めのタレにして、
ちょんとつけていただけば、
うんうん、やっぱりこれは定番でいただくべし。

まずは卓上のお品書き筆頭のご存じ「つくね」。 そして、「ハツ(心臓)」。
ハツのハツらしい歯触りに頷く。
塩もいいけどタレもよく似合うのであります。

寡黙に焼き台に専念して、
およそ積極的に会話されることのない大将が、
「白レバ!」と比較的大き目な声を発した。 希少品ゆえお品書きには載っていないそうで、
ちょっと脂がのっていて、白っぽいレバー。
仕入れによって、白っぽさに凸凹はあるという。
レバー特有の嫌な感じは、まったくなし。
ふわふわの歯触りもまた独特で、面白い。

日本酒リストの手書き追加エリアから、
秋田の吟醸原酒「まんさくの花」を選んでみた。 “かち割り氷で美味しい”との、
ラベルが貼られた一升瓶から、
氷を抱いたガラスの徳利に小分けしてくれる。
うん、すっきりとしつつ旨口で、
夏向き仕立てのお酒だ。
グラスには何故か、SUNTORY(^^)。

続いて届いた串は、「鳥なんばん(ねぎま)」。 そうかそうだ、葱=南蛮だものね。
ねぎまを鳥なんばんと呼ぶなんて、
ちょっと粋、かもなんて思ったりする。

板張りの壁に貼られた品札のひとつにあるのが、
準レギュラーと肩書された「シソ巻き」。 うねうねっとしながら、
串に通されている様子をじっと見る。
これは、大葉を巻いてからボイルして、
それを備長炭でちょいと炙ったものなのでしょう。
ちょちょんとつけた、味噌ダレもいい。

中、半熟なので気を付けて、
とやってきたのは、「キンカン」。 ああ、なるほど、とろっとろ。
すっかり火がはいっちゃったキンカンしか、
他に思い出さないので、これは口福口福(^^)。

そして、ご存じ「手羽先」。 芳ばしさが魅力的、という印象が残る。
骨のそばの身、ってやっぱり美味しいのね。

単品300円の分類から「合鴨」。 噛む程にじわんと旨味が迫る。
「合鴨なんばん」に「合鴨ロース」「合鴨上ロース」、
なんて串もあるようで、
特に合鴨ロースとの3串食べ比べ、
なんてのもいいかもね。

ここまででひとまず、ひと通りですと、
届いたのは「ジャンボなめこ」。 おおお、なるほど、滑子としたらジャンボやー。
滑子と聞いたから滑子だと思うけれど、
聞かされなかったらなめこだときっと思わない。
熱々の裡に嚙り付けば、ハーハフハフ。
うんうん、キノコの風味が美味しい旨い。

焼き台に立つねじり鉢巻きの大将越しに、
板張りの壁に貼った季節メニューを散策する。 掻き揚げがあったら必ず註文んでしまう玉蜀黍。
火傷しないようにそーっと齧れば、アチチチ(^^)。
串焼きの「トウモロコシ」もやっぱり、いい。
芳ばしき炙り目の下から、甘さが迸る。

そして、新メニュー「テバモト」。 手羽先ならぬ手羽中ならぬ、手羽元。
檸檬を軽く搾り振って、どれどれと齧る。
繊維質を感じつつサクっとした歯応えで、
脂ののりもちょうどよく、いいね、テバモト。
憶えておきましょう(^^)。

お茶漬けで〆ちゃう?と一瞬思うも、
お年頃から自重して「特製スープ」。 茅場町「宮川」のスープも絶品だけれど、
焼鳥三昧の〆に啜る「さくら家」のスープも、
ホッと和むような魅力があるのです。

おかあさんにもお見送りいただいて、
ゆっくりと八丁堀駅へと向かいます。

いつからのことでしょう、
季節が冬に向かうと暖簾が藍色のものに変わる。 そんな頃のあれこれをここから少々、
書き記しておきましょう。

「青タタキ」と並んで定番でお願いするのが、
「レバーパテ パン付き」。 勿論臭みなんかない、澄んだ滋味がするパテに、
続いて2枚3枚と、
続けて食べてしまいそうになるんだ。

バゲットのスライスを添えてくれる、
というところで、思い出すのがまず、
今はなき「浅草 鳥多古」。
予約を入れると返す刀で、
フランスパンを持って来てね、と云われ、
「鶏の酒蒸し」をそのパンの上に載せたっけ。
森下の「山利喜」本館では、
名物の「煮込み」にガーリックトーストを添える、
ってのが習わしだったなぁ。

「イカダ」って何だろうと註文入れれば、
それは長葱による筏。 備長炭に炙られちょっと焦げた部分と一緒に、
葱の香気や心地いい辛味を愉しむのだ。

黒の品札にもあるは、「なす焼き」。 なす焼きには、しょうが醤油味と味噌味とがあって、
茄子とおろし生姜の組み合わせは当然の盤石。
それじゃぁ、もろみ味噌は合わないかと云えば、
そんなことはなく、これはこれでオツなのです。

「裏日本酒メニュー」と表題した紙が、
最近見掛けなくなった硬質塩ビのカードケースに、
無造作に収められている。 ボールペンでくしゃくしゃっと書いた感じが、
如何にも”裏”っぽくていい。
裏日本酒はまた如何にも秘蔵の酒らしく、
二度見してしまうお値段…。
偶にはねと三重は名張の木屋正酒造の、
「而今」純米大吟醸 白鶴錦。
「白鶴錦」は、白鶴酒造が独自に開発した、
酒造好適米であるのですか、ほー。
思わず、蘊蓄で吞む感じになってしまいます(^^)。

例によって、壁に貼られたお品書きを物色して、
見付けたのが「ペコロス」。 知ってるひとは知っているペコロス。
つまりは、小タマネギ、プチオニオン。
丸ごと齧れる玉葱とも云えまいか。
齧れば、火入れで促されたであろう甘味と、
本来持つであろう辛味が交錯し、
そこに醤油タレの風味が相俟って、
なかなかに佳いんだ。

カウンターの右手奥に居場所を得れば、
大将が守る焼き台やその手許が観察できる。 忙しくなく、でも頃合いを観乍らの所作。
時折がつがつと備長炭を適宜叩き割って、
火の塩梅を整えるのも大事なお仕事のようです。

お腹に隙間があるなと感じた日には、
「とり茶漬け」のお世話になることもある。 注ぎ込んだ出汁によりそぎ切りの鶏の身に、
少しづつ熱が入っていく。
ほんの少し濃いめの出汁に促されるように、
一気呵成に啜り込んでしまいます(^^)。
ふー、ご馳走さまでした。

新大橋通りは入船一丁目交叉点から、
鉄砲洲通り方向へと東に少し入ったところに、
やき鳥「さくら家」は、ある。 「さくら家」の創業は、1917年(大正6年)と聞く。
そうすると今年、創業108年。
老舗と呼んで誰に憚ることがありましょう。
現在地に移転し、新装してもなお、
老舗の風格が、肩肘張らない柔らかさで、
厳然とあることに安らぎを憶えている。
それにふと気づいて、ニンマリしてしまう。
暖簾に、”入船 鳥やのやき鳥”とあるのは、
創業当初は、養鶏業や鶏肉の卸売業を営む、
“鳥や”であったことから。
卸売業の知見を活かして焼鳥店をはじめたのは、
1939年(昭和14年)のことであるらしい。
二代目女将のおかあさんが、
五つの頃に開店したということになるね。
また、伺います(^^)。

「さくら家」
東京都中央区入船1-3-4 [Map]
03-3551-4878

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