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三重の季節料理「つむぐ」で長芋豆腐玉蜀黍摺流し鱧の椀炙り金目鯛帆立揚出し土鍋飯

振り返れば、2012年、2014年、2018年と参拝したお伊勢さん。
気が付けば、7年振りになってしまったけれど、久々にお伊勢参りへいざ参らん、と近鉄名古屋から特急に乗り込みます。
近鉄名古屋から近鉄伊勢市駅までは、特急に乗っても1時間15分と、ちょうど西武池袋駅から特急ラビュー号で西武秩父まで要する時間とほぼ同じ。
案外と遠いぃ感じのしていた伊勢・志摩方面も、
回数を重ねて勝手を知れば、
より身近になってくるというものです。

すっと駅前のホテルに荷を預けて早速、
伊勢神宮 外宮にご挨拶。 ご多分に漏れずこの日もめちゃ暑い日で、
神楽殿前の手水舎の竹の筧から零れ落ちる、
水のきらめきが妙に爽やかに映っていました。

外宮の鳥居を潜って一礼してから向かったのは、
伊勢市駅からすぐのお隣、宇治山田駅の裏手。
粋な佇まいの郷土料理店「大喜」の前を通り過ぎ、
近鉄の高架を潜ってすぐを右に折れる。 するとその右手に、壁を鏝のモルタルで押さえ、
波打つように板木を縦に貼り込んだ、
味なファサードが目に飛び込んできました。

上階へ向かう壁は色味を変えてコントラストをつけ、
一階廻りの表情が引き立つような意匠にも思う。 建物の左手からは、
宇治山田駅のホームの気配がします。

予約の名を告げ、靴を脱ぎ、板の間に上がれば、
厨房に正対するカウンターが迎えてくれる。 横一列に10名が並べるという程に長く、
ゆったりとした炬燵式カウンターが、いい。
カウンター越しに若々しき好男子ふたりが、
いらっしゃいませ(^^)。

並びのオバさまたちが註文して、
眺めていたのが硝子の密封瓶。 梅酒ならぬ「梅ジュース」とのことで、
ではでは同じくそちらをと炭酸割で。
青梅の香りと仄かな甘味が実に爽やかで、いい。

この日のお昼のコースの手始めは、
長芋豆腐。 涼やかな切子調の硝子器の底に控えるは、
出汁つゆに浮かんだ白き正方体。
長芋と豆腐を合わせて少し練って整形して、
片栗叩いて軽く揚げたもののように映るも、
寒天で固めたものかもしれない。
その上に、少しのとろろと叩いたオクラ、雲丹。
花穂紫蘇のあしらいが利いて、美しい。
夏だねーと話しつつ、匙を動かす。
底のお出汁がしみじみ旨い。

お次は、八寸的和皿に、
青もみじと笹の葉のあしらい。
そのセンターに置いたお猪口の中には、
最近よく耳にするようになった、
ゴールドラッシュという名の玉蜀黍の摺り流し。 実に滑らかな摺り流しは、
やっぱりそーかーと唸るよな美味しさ。
小さな稚鮎の南蛮漬けは、
小さくてもちゃんと苦みもあって、イケる。
小さなフルーツトマトは、期待通りの甘さ。
湯剥きしてから南蛮酢に漬けたものだという。
枝豆の陰には翡翠茄子。
その脇に素揚げした小振りのじゃが芋。
農家さんに教えてもらって、
敢えて小さいじゃが芋を使っているんだそうで、
ホクホクのホクホクだ。

次に付け台に載せられたのは、鱧のお椀。 そーっと蓋を外せば、ふわんと出汁のいい香り。
玉葱を台座にして、骨切りした鱧が鎮座。
茗荷と白葱の千切りに青柚子の香り。
上品なお出汁に誘われるように、鱧の身が解ける。
スルンとしてフワンとして、美味なる哉。
やっぱり伊勢って、関西圏だと思う瞬間だ(^^)。

お次は、お造り。
中央手前には、金目鯛の炙り。 その背後には、甘海老と障泥烏賊。
お醤油が二種類添えてあって、
ひとつは、玉子の卵黄で作った黄身醤油で、
もうひとつは土佐醤油。
うーむ、どっちの醤油も金目鯛の甘さを引き立てる。
煮付けも旨けりゃ、刺身も旨いぞ金目鯛。

お次のお皿は、帆立と夏野菜の揚げ出し。 片栗あんは、揚げ物の下に敷いてある。
揚げ出しと云えば、
豆腐しか思い浮かばない身としては、
帆立と夏野菜を具としている、
それだけでも小さなサプライズ(^^)。
こうしてまた、帆立の身の甘さ、
トマトの実の甘さが存分に愉しめる。

円筒形の金物に取っ手を付けた不思議なものが、
コンロの上に置かれていて、思わず訊いてみる。 備長炭は火がつき難いので、これで熾すのです、
とそう聞いてその筒を改めてよくよく見れば、
円い穴には炎の揺らぎの気配がある。
ふむふむ、成る程だ(^^)。

そうして熾された備長炭は、
その並びの焼き台に収容されて秘かに活躍中。 そしてその焼き台が陶器のようにも見える。
備長炭の温度にも耐えるものなんだね。

そんな風に炭火で焼かれたこの日の焼き物は、
鱸の木の芽焼き。 隠元豆の黒胡麻仕立てに茗荷を添えている。
強火の遠火でじっくり焼かれたであろう鱸から、
木の芽の香りはもとより、
バター醤油に似た風味がして、思わず唸る。
インゲンに添えた黒胡麻がめちゃめちゃ旨い。

そして、土鍋ご飯。
炊き上がったところで見せてくれた、
土鍋を覗き込んで、小さく歓声を上げる。
玉蜀黍と枝豆がびっしりと覆っていて、
いやはや美味しそうだ。

茶碗へとよそってくれたご飯から上がる湯気。 ちょっと急くように箸先を動かしつつ、
鼻から玉蜀黍の甘さなどなどを吸い込んで、
お出汁の旨さともどもを掻き込むように喰らう。
補ったであろう油分がコク味を呼んで、
いやはや、やっぱり美味しいやん(^^)。

これまた涼し気なカクテルグラスで、
デザートがやってきた。 球状に刳り貫いたメロンに西瓜、
キューブ状の宮崎産マンゴー。
ブルーベリーは凍らせている。
うん、涼やか涼やか。

伊勢やこの辺りって、
東京から名古屋を経由してやってくると、
名古屋圏というか中京圏だと、
当然のように思っちゃうけれど、
主要鉄道の近畿日本鉄道は大阪発祥であって、
特急運転系統図では、
難波への路線が主軸のようにも映り、
意外やどちらかというと関西圏のようでもある。
厨房のおふたりに訊けばどうやら、
両方の要素が入り混じっているというのが、
実態、実感のようで、
関西圏?と思えば、味噌は八丁味噌が大勢で、
地元では鱧を食べる習慣はない、と云う。
そうか、割烹の気風を持つ店だからこそ、
今日、鱧を食べられたのだね(^^)。

伊勢神宮 外宮も至近の宇治山田駅すぐ裏手に、
三重の季節料理「つむぐ」は、ある。 カウンター越しの厨房に並ぶおふたりは、
訊けば、三重県立相可高校の同級生だそう。
相可高校には、食物調理科という、
調理学校的セクションがあり、
在学中に調理師免許が取れるようで、
部活動の実践教育施設として、
レストランの店舗運営をしており、
元TOKIO松岡昌宏主演のNTV系ドラマ、
「高校生レストラン」のモデルとなった。
そう云えば、そんな高校があるって、
見聞きした覚えがあったことを思い出す。
この店が出来るまでに色々な方々に、
様々に助けていただき、
人との繋がりを感じていて、
カウンターのみのお店の、
そのカウンターで向き合う、
お客様とのやり取りを通じて、
互いの関係性を紡いでいけたらな、との想いから、
店名を「つむぐ」としたと云う。
伊勢でまた佳きお店に出逢ってしまった(^^)。
今度はぜひ、夜の部の一献にお邪魔したく思います。

「つむぐ」
三重県伊勢市岩渕2-413-2 [Map]
090-6798-6206
https://ise-tsumugu.com/

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