冷静に振り返ると、うん十年もおよそランチのお品書きが変わっていないというのは凄いことだなぁと感心する「以と宇」で、久々のお昼です。
以前よりさらに痩せてしまったような気のする大将の横顔を拝みながらカウンターの隅にそっと収まる。
時折若い女性もフォローしてるものの、姐さん陣もお元気のようです。
「以と宇」で3回に2回は注文んでしまうのが「豚生姜焼定食」。
和食系の生姜焼きでまずイメージするのが、
ココの生姜焼きになってしまっています。
空煎りしたかのように、
汁っけをほとんど飛ばしたような仕立てが特筆するところ。しつこくなく、そして疑いようもない生姜の香りが、
ふふんとして、
脂を落としたどこかソリッドな豚の旨味が否応なく主張する。
細かく刻んだキャベツの山の一部ごとむんずと一緒に箸で掴んで口へ運べば、キャベツの甘みも豚肉の甘みも相乗して魅力を増すのです。
それをおかずにペロンと、上品に持った茶碗のご飯を平らげて、
小皿の納豆の配分を考慮しつつ、
お代わりのご飯をいただくのがルーティンな流れ。
納豆ご飯でひと呼吸置いて再び、残りの肉片で満足へと至るのは、
繰り返し履行してきた自然な所作でございます。
「以と宇」のお昼は他にといえば、
例えばすずきのお刺身やさわらの照焼といった「和定食」に「とんかつ定食」「とろろ定食」「鰺叩き定食」。
その都度目の前の真名板でトントンと叩く鰺も乙なもの。
和食店にして辛みの利いた本格自家製「ビーフカレー」、
そして「カツカレー」も今やすっかり定番になっている。
炒めた玉葱のふるふるを思わせながら、ヒリヒタっと辛さが襲うカレーは、
なかなか侮れないお味とオトナな辛さ。
おこちゃまな頃は、ひ~っと云ってたもの(笑)。
案外知られていないのが、夜の「以と宇」。
お昼時の店内をぐるぐる見回しても、
夜についての表記は相変わらずないので、改めて訊いてみた。
「夜って、前のまんまです?」。
すると「え、ええ、おまかせになってます」。
「一万円の?」「はい」。
そう、夜の「以と宇」は、呑み物込みのポッキリ1万円なのだ。
昼のお品書きも変わっていなければ、
夜のシステムも変わっていないのだなぁと感心していたら、
そうとは知らずに訪れたヒトが身近にいた。
「注文してないのにどんどん出てくるし、
訳わからんままお会計したらイチマンエンと云われてビックリした」と、
目を剥いていらっしゃる。
かつて自分が味わった戸惑いを共有できたようで、
ちょっと愉しくもある。
でも、勝手知ったる常連かどうかはある程度見極められるはずだと考えると、
明らかに夜新規の客には冒頭でひとこと、
最低限の告知はするべきだと思うのだけれど、どうだろう。
繰り出される酒肴は、大将の手練が発揮された、
なかなかのものだと思うからこそ。
でも、大将にしてみたら、
それは粋じゃないってことなのかもしれません(笑)。
八丁堀の、いまや数えるほどになった古株の和食処「以と宇」。余所にはない、何気ない小粋さが残っています。
口関連記事:和食「以と宇」で 昼は豚生姜焼き定食夜はおまかせ一万円(02年11月)
「以と宇」
中央区八丁堀1-11-6 [Map] 03-3553-7637