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山家料理「湯の岳庵」で無花果天麩羅山女魚コンフィ部屋食想う亀の井別荘のお食事処

三年ほど前に初めて訪れた由布院、またの名を湯布院。
どっちが正解なのだろうと思うも、謂わばどちらも間違いではないと知る。
主に由布院盆地内を中心とした一帯にあった由布院町と久大本線の湯平駅周辺の大分川・花合野川の流域にあった湯平村とが、昭和の大合併で「湯布院町」が誕生した。
ご多分に漏れず、合併に際してよくある、
複数の行政の名の一部を採って合わせる、
湯平+由布院=湯布院という図式で、
この時に「湯布院」という表記が生まれたという。

どうやら混在して使われているのが実情で、
温泉地全体や歴史的なものを指す場合に、
「由布院」と表記する傾向があり、
行政区分や最近できたものを指す場合に、
「湯布院」と表記する傾向があり、
「ゆふいん」と平仮名表記することも、
割りと一般的である模様。
なんだかややこしいけれど(^^)、
背景的事情や傾向は分ったような気がする。

さて、その三年ほど前に訪れたのは、
秋の深まる11月のことでした。
由布院初日のお宿に選んだのは、
湯布院御三家のひとつに数えられる、
御宿「亀の井別荘」。
迎えてくれる枯れ味の茅葺きの門からして、
風情と歴史を感じさせてくれる印象的なものでした。

邸内をゆっくりと歩いてふと振り向けば、
紅葉真っ盛りの木々の間から由布岳がみえる。 ほーと立ち止まってしばし、眺めるよね(^^)。

建屋の妻側にある扁額を見上げれば、
その手前の茅葺きの庇にも、
紅葉が沢山積もっている。 離れへの通路の屋根に通りかかった猫が、
特段身じろぎもせずに、
じっとこちらを見てたっけ。

真っ赤に染まった紅葉の葉を愛でてから、
離れへの通路を往く。 門の外側はひとも多く賑やかだったけれど、
邸内は至って静かで、聞こえるのは、
木々が風に騒めく音と鳥の鳴き声くらいだ。

離れの部屋は、
露天付和洋室のひとつ17番館。
広々とした和室には、
庭先に向かう書院があったり。 その脇の引き戸から広いテラスに出られたり。
ここで湯上りの麦酒なんていいよねと思ったり(^^)。

高くした天井を持つ寝室は洋間になっていて、
これまたゆったりと落ち着いた空間となっていた。 さがり屋根なのか、屋根の垂木がそのまま、
室内の斜め壁の意匠になっていた。

階段でちょっと降りた先に内風呂と露天風呂。 露天風呂は、十和田石でしょうか。
やや青みを帯びた石で組んでいて、
それが露天の湯殿をより明るい印象にしている。
すのこに組んだ板で囲んだ周囲の設えも、
少々寒くなっても裸足ですたすた歩けそう。
ふーーーと湯に浸れば、
紅葉のすすむ木々を眺めながら、
すっかり癒されるという寸法だ(^^)。

湯上りの麦酒に続いて、
ゆっくりと部屋食をいただいた。 会席的和食でありながら畏まり過ぎず、
飾り過ぎることのない素朴さも携えつつ、
都度々々感じたしっかりした旨味が、
全体像としてもしっかりと美味しかったなぁという、
そんな印象が強く残っている。
少しづつという量感も好ましくて。

翌朝は少し早起きをして、
綿入れ半纏を羽織って、
近くの金鱗湖へ出てみた。 すると成る程、およそ朝にしか発生しないという、
朝靄が湖面からゆらゆらと湧き上がってた。
これもまたここに泊まってこその特典のひとつだね。

そして、今年の秋にふたたび由布院を訪れた。
それはまだ、紅葉には少し早い神無月の頃。 天祖神社の鳥居近くの紅葉は、
まだ青々としたまま。
お久し振りの金鱗湖は、
天高く水の澄んだ様子でありました。

金鱗湖の湖畔から離れて、
亀の井別荘の敷地内へ。 色づき始めた紅葉が見られたその一方で、
鳴き声に振り返った木の幹に蝉が留まってる。
ここでもやはり、季節が混乱しているようです。

亀の井別荘の西国土産ショップ「鍵屋」二階には、
日中は「茶房 天井桟敷」であり、
夕方からは「BAR 山猫」となるラウンジがあり、
三年前、バーとなったすぐの時間帯に伺った。 剥き出しの梁の刻み方から、
その梁と交叉する材のうねり。
階段を支える柱のノミの具合など、
味のある設えに天井方向をしばし、
じーっと眺めたりした。

そして、圧巻だったのは、
カウンターから臨む紅葉の景色。 そこで「ゆふいん麦酒」なる、
淡色のヴァイツェンをいただいたっけね。

そんな「BAR 山猫」を階上に掲げた「鍵屋」の前に、
そろそろと水を灌ぐ蹲踞(つくばい)がある。 その蹲踞越しにその先を見遣ると、
伸ばした庇の下に白い暖簾が見付かる。

暖簾の左下には「湯の岳庵」。 茅葺を端正に葺いた屋根の大振りな建物が、
亀の井別荘のお食事処なのであります。

広い店内をずずずいっと、
一番の奥のコーナー近くのテーブルへ。 金鱗湖へと向かうひと達の気配もありつつの、
庭先の木々の緑に囲まれた食卓と相成ります。
なんだかふと、初夏の軽井沢にいるような、
そんな気分にもなってきます。

お酒も少しいただこうと選んだのは、
ご当地の名を戴いた大分むぎ焼酎「湯布院」。 臼杵市の久家本店によるものである模様。
大人しく水割りにていただけば、
すっきりと吞み易く、香りも心地いい。

季節の一品から「無花果の天麩羅」。 もしかして、ちょー熱かったりしてと、
恐る恐る嚙り付くも、そうでもない(^^)。
過日体験した、熟れ熟れでとろとろだった、
その無花果の艶やかさに比べると、
一瞬少し若々しく思えてしまうけれど、
いやいやたっぷり甘くてそそる唆る、
そんな美味しい天婦羅、無花果だ。

季節の一品からもうひと品は、
「山女魚のコンフィー」。 体高がやや高くも見えるそのフォルム。
どちらの清流から揚がったものなのでしょう。
由布院の周辺、大分の山間部なら、
山女魚のいそうな渓流・清流は、
きっと多くあるに違いない。

炭火焼などではなく、
コンフィにしたお陰か、
皮目の表情も窺えるほど、
綺麗なまま加熱されている。 儚げな薄いその皮ごと箸の先で身を掴み、
口へ運べば、あー、ふわんふわんだ。
粉を叩いて揚げても美味しいかもと一瞬思うも、
この繊細な食べ口は、低温の油で調理する、
コンフィならではなんだなーと思い直す。
その御身に寄り添うは、
茄子ペーストのソース。
うん、小粋な山女魚料理として憶えておこう(^^)。

そして、「湯の岳庵」のひるのお食事は、
おおいた和牛の炭火焼「ビフテキ丼」か、
九州黒毛和牛の「ステーキ膳」か。
一尾か半身の「鰻重」か、はたまた、
店名を冠した秋の「湯の岳膳」か「冠地鶏焼膳」か。
由布院産の蕎麦粉による「そば御膳」か。
そりゃ、ご当地の蕎麦が気になるよねと思うも、
どうやら10食限定であるらしく、
遅い到着の我々には疾うに間に合わず。

遅いひるだし、夜もあるのでガッツリはしたくない。
ならばとお願いしたのが、「冠地鶏焼膳」でありました。 学食という会社のWebページによると、
「おおいた冠地どり」「冠地鶏」とは、
日本で初めて烏骨鶏を交配に用いた、
柔らかくてジューシーな地鶏、だという。
陶板に焼かれて湯気を上げる鶏の身の焼き目がいい。
どれどれと細かく葱の刻まれたぽん酢に、
ちょいとつけて口へと運ぶ。
おー、成る程、柔らかな柔らかな地鶏の身。
そして、十二分に内包している旨味が、
噛む度に小さく弾けるんだ。

湯布院御三家のひとつに数えられる、
御宿「亀の井別荘」の敷地内に、
山家料理「湯の岳庵」は、ある。 亀の井別荘に初めてお世話になった時も、
白い暖簾と茅葺き屋根の佇まいが気になっていた。
ただ、おひる時大層混み合っていて寄れなかった。
それが今年、三年越しでようやく伺えた。
店名の前に冠している山家料理の”山家”とは、
“我が家””山深い里”といった意味合いになるらしい。
選り選った旬の山のもの海のものを使った、
会席的和食でありつつも畏まり過ぎず、
熟練からくる揺るぎない確信と感性をもって、
気取らず飾らず実直に客人を持て成すために、
素朴に仕立てて供する我が家の料理。
以前、離れで部屋食をいただいた際に、
そんな風な感慨を抱いていたことが下地になって、
束の間のおひる時にも、
同じような景色の一端を垣間見れたような、
そんな気がしています。

「湯の岳庵」
大分県由布市湯布院町川上2633-1 亀の井別荘 [Map]
0977-84-2970
https://www.kamenoi-bessou.jp/

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