酒「大甚本店」で煮穴子鶏旨煮百合根雪花菜賀茂鶴樽酒老舗居酒屋の気風と厨房の凄さ

名古屋へ行く度に、何処で一杯吞ろうかと思いを巡らす。
一番に脳裏に浮かぶのはやっぱり、広小路伏見交叉点近くにある老舗居酒屋「大甚本店」なのだけれど、偶には他の店に浮気したいという気もしてくる。
本店の極近くにある、二号店であるところの酒房「大甚中店」なら、二号さんなので浮気にならんかとか、いやなるか、とか(^^)。
大甚錦店にはお邪魔したことがないけれど、
どうせだったら本店へ伺いたいと思ったり。

そうは云っても、大都会名古屋。
他にも粋な居酒屋があるに違いないと、
ネットの中を家探ししてみたり、
ものの本をあれこれ買い込んで、
片っ端から検討してみるも、
太田和彦師匠的な目線に適う居酒屋で、
「大甚本店」の右に出るものはない、
というのがここまでの結論なのであります。

という訳で、
一年以上振りに広小路伏見交叉点へ。 太目の縦格子に階段の手摺のシルエット。
硝子越しに縦の扁額を収めた木箱を守る三角屋根。
建物前面の壁面をシブく飾っているのは、
看板建築の銅板ならぬ、縦材を寄せた栗皮茶色。
黒紅色の暖簾の真ん中に染め抜くは、酒のひと文字。
右手の柱型には、新調したらしき木札の表札がある。

予約の名を告げるも、
ちょっとお待ちをと促されるまま、
二階への階段の登り口で待機する。 「大甚本店」は基本的に入れ込みのスタイルで、
我々のような少人数の客は大概、
一階フロアのテーブルで相席になることが多い。
偶々なのか、二階に案内されたことは一度だけ。
一階奥のエリアには止まり木したことがない。

店の奥に向かって左手には、
大甚名物のひとつであるところの、
平置きのお惣菜ケース。
大皿から小分けした小鉢たちがずらっと並ぶ。
その隣の、棚になった硝子ケースにも、
目移り必至の酒肴のお皿たちが待ち構えている。
その並びにも硝子ケースがあって、
そこには主に、刺身の類のお皿が整然と並ぶ。
その脇に揚げ物や焼き物あたりの品書きがあり、
硝子ケース越しに声を掛けて註文すればよい。
最初はどうしたらよいか戸惑ったものです(^^)。

そうそう、予約しないで足を向けるひとも、
割りと少なくない様子にも見えますが、
「大甚本店」は電話予約が可能です。
もっとも、ひとりふたりでふらっと立ち寄りたい、
という気持ちもよく判るけど、ね(^^)。

相席のテーブルの一辺に居場所を得て、
まずはやっぱり、生中のジョッキ。 幾多の小さな打撃や接触に晒されつつ、
それらを受けとめてきた様子の、
Rを描くテーブルの角が、好き(^^)。

視線をその先へと降ろすと、
大判の自然石を張り込んだ床が広がる。 1954年(昭和29年)に建て替えて今に至る、
昭和な味わいがこんなところにもあるね。

腰高硝子張りの件のお惣菜台に早速近寄って、
今宵のお供を物色する。
伸ばす手がやっぱり迷って、
ハシタナイ感じになる(^^)。

煮アナゴは、冷めて味がしみしみになっていて、
しっとり柔らかくてほの甘く、しみじみ旨い。 鶏のうま煮もまた、あっさりめの出汁が、
咀嚼するほどに旨味を伝えてきて、唸る。

何故か大甚本店に来る度に、
必ず手にしてしまうのが、百合根の小皿。 その点では、大甚のおからもまた、
気が付けば食べているお惣菜のひとつだ。
どちらも素材の素朴な魅力と素朴な味付けに、
惹かれるんだな、きっと(^^)。

暖簾を潜ってすぐの左手の壁沿いには、
いつも通り、
賀茂鶴の樽がデデンと鎮座している。 果たして何斗入る樽なのだろうかと、
しばしそのお姿を拝み見て思わず、
大徳利をとお姐さんに声を掛ける。
素早く届いたのはそう、
大甚本店限定の超特撰特等酒 特別本醸造、
賀茂鶴樽酒であります。

お造りの並ぶ棚から選んだのは、
トリガイの刺身。 貝殻から外したばかりかのような瑞々しさ。
そこに垂らした酢味噌の合うこと合うこと。

黒板メニューからまずは、赤ウインナー。 タコさんかと思ったら違ったね(^^)。

もうひとつの黒板では既に、
アジフライやアジ南蛮が売り切れ仕舞い。 あ、鯵フライ、
そうだ前回来た時に美味しかったンだ。
思い出しても今回はもう間に合わないw
真っ先に註文する常連の皆さんは、
先刻ご承知なのでありますね。

然らばと例えば、サーモンのバター焼き。 バターで揚げ焼いた感じの芳ばしさが、
サーモンの身の外側を薄く包んでいて、
齧れば迸るは、
バターのコク味とサーモンの旨味の合わせ技。
お酒もいいけどご飯のお供にもきっと最高だ。

黒板からもういっちょと、手羽中の南蛮。 檸檬をぎゅっと搾り振って酸味を添えて、
小鉢の底のタレを掬うようにしつつ、
玉葱のスライスやゴーヤーと合わせ食べる。
揚げ物をさっぱりといただく工夫がここにもね。

そして、大甚名物とも呼ばれるのが、
卵入り味噌土手。
和牛ホルモンか、豚かの選択肢から豚を選ぶ。 大胆な厚切りの豚肉がわらわらっと、
土鍋に入っていて、その真ん中に落とし卵。
名古屋ですもの、
味噌土手となればそれは八丁味噌。
お品書き全体に、”如何にも名古屋感”は、
ほぼないのだけれど、ここにあった(^^)。
濃過ぎることはないものの、
濃い目の味噌味に、これも必要でしょと、
お姐さんが届けてくれた、
丸いパンに飛び付くのでありました。

大甚本店では、
お会計の際のこの所作も名物のひとつ。 御愛想をお願いすると、
はいはいとばかりに大きな算盤でぱちぱちと、
素早いお勘定がなされるのであります。

伏見通りと広小路通りが交わる、
名古屋伏見の広小路伏見交叉点近くに、
酒「大甚本店」は、ある。 Webサイトには、居酒屋「大甚」の創業は、
明治40年頃のこととある。
広く持っていた周辺の土地も区画整理で収用され、
戦争や酒の統制により、
居酒屋営業休止を余儀なくされる難局を乗り越え、
店舗の建て替えやセルフ式の惣菜の導入を経て、
創業百周年を優に越え、
四代目を数える今も盛業を続けるなんて、
誰がどう考えても容易なことではない。
それが実現できているのはきっと、
居酒屋とはこうあれ、という一貫した考えや、
文化的な知見と志向、気概が着実に、
引き継がれてきているからに違いない。
フロアのおっちゃんや姐さんたちの気風も、
勿論いい感じなのだけれど、
多種多様な酒肴・惣菜たちを繰り出してくれる、
厨房の陣容もまた凄いと思うんだ。

「大甚本店」
愛知県名古屋市中区栄1-5-6 [Map]
052-231-1909
https://www.daijin1907.com/

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