久々に訪れた六本木ヒルズから星条旗通りを辿って、外苑西通り方向へ。
今なお往時のまま頑張っている「エントツ屋」を通りの向こうに眺めて、これもまた霞町界隈のランドマークだなぁと思う。
信号を渡り、その「エントツ屋」の前を通り過ぎたところで目の前の脇道を覗く。
道の先は暗く、右手には青山墓地の暗がりがずっと奥へと広がっていて、この先に飲食店がありそうな気配はない。
確かここの筈なんだけどと足を進めると、灯りの点る看板と暖簾とが目に入る。
鹿のモチーフと一緒に看板にある店の名は、「鹿角」だ。
真逆の時季なので、さっと鮮やかな色合いの、という訳にはさすがにいかないけれど、にゅるとした周囲のゼラチン質越しに箸の先でどう掴むか挑むのもまた愉しい。
瓶詰かな、こんな風に保存がきくのだね。
秋田で鶏と云えば、比内地鶏。
「とりわさ」でいただいてみるとそれは、たっぷりの芹とざっくり和えた器。
軽く湯引きした周囲に溶いた山葵のたれがすっと沁みて、
鶏の滋味を甘く引き立てる。
うん、いいね。
お酒は、店に名にも同じ「鹿角」をいただきましょう。
「とんぶり」もあるよと「とんぶり長芋」。
ホウキ草というくらいだから、竹箒のような草なのだろうね。
その実を煮たりなんだりと加工して、
こうして畑のキャビアとも呼ばれるぷちぷちの小さな宝石になる。
じゅんさいもそうだけど、こうして口に入れるように仕立てた初めてのヒトの着眼と工夫に感心するよね。
背にしたご飯と一緒にハタハタの身や子供を口に含むと、いわゆる発酵系の風味は穏やかで、澄んだ旨みのする優しい仕立て。
子のぷちぷちはやっぱりちょっと硬めかな。
白舞茸はバター炒めにしてもらいました。
すっきした旨みを湛えたあっさりめの汁にきりたんぽを解していただけば、お餅でも焼おにぎりでもない香ばしい食感に広がる滋味。
ぺろっと平らげては、でもさすがにこの鍋だけは、鍋の後に雑炊って訳にはいかないねと笑う(笑)。
挨拶に出てきてくれた大女将に訊けば、やはり秋田は鹿角のご出身。
もう15年にも亘って、秋田料理を提供してきているそうです。
「鹿角」 港区西麻布1-15-16 中沢ビル1F[Map] 03-3402-8212
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