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手打そばうどん「利静庵 甚五郎」で瑞々しき細打ちおらがじるうどん閉店の間際に

“立川飛行場”と聞いても云っても、特段違和感がないのはきっと、自分がもうすっかりオジサンだからなのでしょう(^^)。
それは、1977年(昭和52年)まで在日米軍の空軍基地でもあった頃の立川飛行場をフェンス越しに眺めたイメージがなんとなく残っているからなのかもしれません。
現在の立川飛行場は、
陸上自衛隊立川駐屯地に含まれる恰好らしく、
主に各官公庁のヘリコプターが運用されているという。

その立川駐屯地を半ば囲むようにしてあるのが、
ご存じ、国営昭和記念公園。
公園の紅葉の様子を確かめようと訪れて、
広い駐車場に車を停めれば成る程、
頭上をヘリが真一文字に飛んでいく。

公園なのに何故ゲートらしきものがあるのだろうと、
そう思いつつ近づくとなんと、
この公園は入場料を徴収するという。
国で運営しているくせにしっかりしとるわと、
苦笑いしつつ立川口ゲートから公園内へ。 するとすぐ目の前に、
「カナールのイチョウ並木」が広がっていました。
イチョウの紅葉、絶好調というところでしょうか。

一本の銀杏の木に近づいてみる。
あ、銀杏の実が枝の先についている。
銀杏がこうして枝についている、
その状態を間近に目にするのは、
生まれてこの方初めてであります。 カナールと呼ぶ水路にはところどころに、
噴水が吹き上がっていて、
両側がイチョウ並木になっています。

昭和記念公園のイチョウ並木の、
特徴といえばなんといっても、
カナール両サイドのイチョウ並木が、
“角刈り”であることでしょう。 なにせ、天まで高くと尖るように伸びた姿が、
通常の銀杏の木のイメージなものだから、
何故にこんな風に角刈りにしているのだろうと、
どうしても訝ってみてしまう。
それにはどうやら理由があって、
カナールのちょうど北側に滑走路があり、
航空機が安全に発着するための航空制限が、
このエリアにかかっているために、
イチョウの樹高を7mに抑えて剪定していて、
その際にただ高さのみの切りっ放しとせずに、
左右も刈り込んだ結果、角刈りになっている模様。
カナールを挟んでシンメトリーな、
ちょっと不思議な景観はそうして生まれたのだ。
確かにヘリが続々と頭上を通過していたものなぁ。

少し歩いて涸れた残堀川を渡った先には、
ボートが何艘も浮かぶ水鳥の池がある。 赤黄橙緑と紅葉がグラデーションを魅せていた、
その先の湖面でボートをわっせと漕いでいる。
太陽の光に翳してみるのも綺麗なものですね。

大きな大きな欅の木が屹立している、
みんなの原っぱの様子を眺めてから、
バーベキューガーデンに面した、
かたらいのイチョウ並木へ。 如何にも銀杏並木らしい銀杏並木だなぁと、
当たり前のような感想を口走る(^^)。
平日でこの人出だとすると、
週末はなかなかのことになるに違いない。

それ相応の距離を歩いて、
大満足の紅葉狩りを終えたら今度は、
減ってきたお腹を満たそうと、
やってきたのは、立川市幸町。
多摩モノレールが頭上を走る芋窪街道から、
砂川七番駅の下を抜けて、
平成新道へと右折すると左手に、
手打うどんそば利静庵「甚五郎」と示す、
自立看板が見えてきた。

低い竹の透かし垣に囲まれて、
農家風の平屋の家屋が建っている。 瓦屋根の中央には、越屋根が載っている。
まるで蚕でも飼っていたかのような設えだ。

玄関先を覆う庇の下の窓枠の上には、
筆文字をあしらった大徳利が並んでいる。 足許を見れば、涸れた蹲踞が、
少し寂し気に佇んでいました。

絣の反物を使ったような暖簾の左手で、
おふたりさまと記帳してから振り返り見た、
麺打ち場の硝子に貼られた貼紙に驚いた。 現在の在庫がなくなり次第営業を終了し、
閉店するというお知らせ、なのです。
ずっと宿題に思っていた、
甚五郎系統のお店にようやく初めて来れたのに、
それがどうやら最後の訪問となると知る。
えーーと思いつつも仕方のないこと。
陽射しに温もりつつ、順番を待ちます。

程なくして名を呼ばれ、店内へ。
入ってすぐ思った印象は、
所沢の「松郷庵 甚五郎」の佇まいに、
よく似ているなぁ、ということ。 見上げた骨太な梁の先には、
外から見上げていた越屋根からの明かりがある。

梁上棚には、獅子頭や古時計が見える。 厨房側の壁には、アンティークな水屋箪笥。
座敷と座敷の境の土壁には下地窓と、
随所に渋くて落ち着いた風情な見映えがある。

帳場の脇の柱には、
古時計を改造したかのような飾り棚。 硝子越しに六つの蕎麦猪口が窺えます。

冷たい「ごったのらうどん」や、
温かい「極楽うどん」「地獄うどん」と、
お品書きには既に、二重線で消された品もある。
「鴨汁うどん」も気掛かりなるも、
ここはひとつ、一番人気!とされた、
「おらがじるうどん」をいただきましょう。

漆塗り風の角盆に載って、
「おらがじるうどん」がやってきた。 お初にお目に掛かる利静庵のうどんは意外や、
思いもしなかった細打ちで、まずはちょと驚いた。

まるで例えば、稲庭うどんを連想するような、
細打ちのうどんが瑞々しい煌めきを放っている。 乾麺であったかのようでもあるけれど、
きっとそんなことはないに違いない。
打ってそう間もなく、手切りの気配もあり、
茹で上げて冷水で〆たばかりの鮮度がある。

おらがじるのつけ汁には、
およそ同じサイズに切り揃えたように、
バラ肉に焼き葱、揚げた茄子が浮かぶ。 鰹、昆布に加えて、
野菜出汁のような柔らかい旨味もあるような、
そんな気もするつけ汁は、
醤油の角もなくバランスのいい、いい汁だ。

艶やかなうどんを箸の先に載せて、
そのつけ汁にとぷりと漬けて引き上げる。 啜ればつるるんと口許を滑り、
噛めば自然と粉の風味がする。
それと同時に加減のいい汁の旨味が包み、
束の間ハッとしてすぐに喉を抜けていく。
どこか愛想のない細打ちうどんも見られる中で、
これはこれは、美味しく粉香る細打ちうどんだ。

武蔵野うどんらしさもある「国分寺甚五郎」や、
「東小金井 甚五郎」あたりのうどんの感じとは、
明らかに違うのがまた面白いぞ。

蕎麦も饂飩も同じ釜で茹でているという、
その茹で釜からの湯桶が届いた。 おそらく註文の九割がうどんと思われる茹で湯は、
およそ濁りなく綺麗なもの。
なのに、つけ汁に注いでみれば、
汁の旨味を倍加させるような粉の風味がしていい。
茹で釜の湯が美味しいのが良店の証というのは、
なにも蕎麦屋に限った話でないのですね。

多摩モノレールが頭上を走る芋窪街道と、
砂川七番駅近くで交叉する平成新道沿いに、
手打そばうどん「利静庵 甚五郎」は、ある。 1994年(平成6年)の11月の開店から32年。
ずっと宿題にしていてやっと来れたと思ったら、
閉店の間際にお邪魔することになってしまった。
帰り際にお訊きすると、
こちらの本家は、入間市宮寺のお店だと仰る。
何故かすっかり都下のいずれかの「甚五郎」かと、
なんの根拠もなく推し量っていたけれど、
入間の「神明庵 甚五郎」だったと知った。
本家でしっかり修行した後に、
独立して店を創り上げ、
そこから32年間支持されてきたとすれば、
きっともうご主人は還暦を過ぎている。
もっと早く来ればよかったと後悔しても、
それは、ただただ詮ないこと。
願わくば、この情緒たっぷりの建物を誰かが、
粋な蕎麦店、饂飩店として引き継いでくれたら。
そうなったらいいのにね。

「利静庵 甚五郎」
東京都立川市幸町5-53-1 [Map]
042-537-0956

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