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博多水炊き専門「橙」で炊いて炊いて白濁乳化鶏出汁の三段活用今日の水炊きとお濠端

およそ2年半振りに博多へ。
仕事で出掛けると観光チックな時間はなかなか作れず、行きたいお店にも訪ね難いのは止むなしなところ。
対して今回の博多は、例によって大橋トリオを聴きに行くというのが旅の動機のひとつ。
併せて博多界隈をそれなりにゆっくりと散策しようという魂胆なのであります。

福岡空港に着いたのは、おひる過ぎ。
ホテルに荷物を預けてから、
ずっと気になっている地下鉄賀茂駅最寄りの、
「ふくちゃんラーメン」へ行こうと考えていたものの、
妙に底冷えのする寒さに怖気づき路線変更(^^)。
ホテルの近くでおひるを済まそうと西中洲を出て、
霰の降る中を震えながら「かろのうろん」へ。

凍えた両手でどんぶりを包んで、
出汁の利いた博多うどんを、
湯気とともに一気に啜り込んで温まる。
ふー、ご馳走さま。

その足で近くの櫛田神社へご参拝。
「お櫛田さん」は、博多祇園山笠が奉納される神社。
ついでにその参道沿いにある博多町家ふるさと館へ。
例の、”博多”と”福岡”とのお話をはじめとして、
福岡・博多界隈を俯瞰してみれた気がした。

少しホテルでのんびりしてから出掛けたのは、
地下鉄の大濠公園駅の辺り。 明治通り沿いからは、
お濠越しに冬枯れの福岡城跡が望める。

大手門信号近く。
ちょうど福岡城の潮見櫓へと濠を渡る、
下之橋を背にした横丁へ進む。 その右手にあるのが今宵のお食事処だ。
二階の窓枠の上辺りの高さまで縦の格子を、
ずらっと並べてファサードに施している。
やや右寄りの開口部の脇にあるプレートで、
此処が博多水炊き専門「橙」と確かめる。

予約の18時には既に店内はみっしりと人で埋まり、
湯気交じりの熱気が漂っている。
ひる12時からの通し営業というのは、
水炊きのお店では珍しいのではなかろうか。

小さい生ビールをとお願いして、
早速点火されたガスコンロの炎を見つめる。 お通しは、棒棒鶏的鶏の胡麻和え。
届いたグラスがホントに小さくて、
そっかーと笑う(^^)。

インバウンド対応のためか、
英文基調のお品書きのMEALの項には、
水炊きと唐揚げのふたつと至ってシンプル。 オプションに雑炊と素麺。
水炊きのお供、柚子胡椒の用意は万全だ。

ふつふつと沸く厚手ステンレスの鍋。 そうか、水炊きの鍋は何故かなんとなーく、
土鍋のような気もしていたけれど、
こうしてステンレスの鍋が主流なのかなぁ。
確かに割れてしまうことはないし、
洗って乾かして回転させて使うには断然、
金物の鍋の方がよいかもしれないね。

そんなことを考えている裡のあっと云う間に、
最初の鶏肉が呑水に取り分けられ、
同時にお猪口状の小さな器にスープが注がれた。 まずは初期段階のスープを味わう。
うんうん、すっきり軽めで、悪くない。

呑水の底には少量のポン酢。 向かって右手が腿肉で、左が脛肉。
温かいうちなら骨が剥がれ易いとのご指南により、
骨貫通状態の脛肉からいただく。
そして、柚子胡椒を添えてのもも肉。
パサつきなく、しっとりした歯応え。
過ぎない旨味がじわっと美味い。

手羽先の一片をペロッといただいたところへ、
唐揚げがやってくる。 間違いなく大振りの唐揚げ。
それを半切するように、
でも火傷しないようそっと嚙り付く。
みっしりと身肉の繊維の詰まった鶏肉から、
じわじわっと澄んだ旨味が伝わってくる。
過度な下味のないのが好ましい。

幾つかの選択肢から選んだ焼酎は、
宇佐の四ッ谷酒造による麦「兼八」。
ここでも聞けてしまったのが、
「お下げしてよろしかったですか?」。
どうして過去形なのだろうね(^^)。

続いて、つくねがひとつひとつ投入される。 ふつふつ、ふつふつ。
美味しくなぁーれー。

つくねに火が入ったところでふたたび、
スープがお猪口に注がれた。 ふむふむふむ。
前段の鶏やつくねから出たのであろう出汁が、
間違いなくスープに旨味や脂のコクを加えてる。

呑水に取り分けてくれたつくねは、
鶏の身も葱も粗みじん。 焼鳥にするようなつくねや、
ふわふわを意図したつくねではなく、
食感を残す方向のつくね、であります。

そしてさらにエノキやキャベツなどの野菜の出番。 火力を整えて、ふつふつする湯気。
70席以上あるという幾つのもテーブルで、
一日に一体何本のガスカートリッジが、
消費されるのかと、ふと思う。

強い火で炊かれ、白濁し、乳化したスープ。 三度目のお猪口スープは、
成る程な濃度の美味しさ。
この三段活用もまたひとつの、
水炊きの醍醐味なのだと、
漸く知ることが出来たね。

野菜たちと腿肉をいただく。 近頃値段沸騰のキャベツが妙に甘い。
一般に冬場の鍋というと、
白菜をまず思い浮かべるけれど、
鶏のスープにはキャベツも実に好相性だ。
腿肉は鶏出汁の元にもなっていた訳だね。

より軽やかにとオプションから素麺を選ぶ。 炊いて炊いて出来上がったスープは盤石。
これ以上なにを足すでもない。
あ、白髪葱くらいはあってもいいかな。

福岡は大濠公園駅最寄り。
福岡城の塩見櫓へと渡る下之橋に通じる横丁に、
博多水炊き専門「橙」は、ある。 老舗に有り勝ちの敷居の高さは、ない。
専門店に有り勝ちの畏まり感も、ない。
郷土料理店の積年やその風情は、ない。
連鎖店のカジュアルさが少し漂うものの、
鶏を炊いて炊いて、
その身肉とスープを美味しくいただくだけの、
およそシンプルな食事なのだから、
きっとこれが正解なのだとそう思う。

「橙」
福岡県福岡市中央区大手門1-8-14 [Map]
092-726-0012
https://www.instagram.com/daidaifukuoka

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