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割烹「いわしや」で 磯揚定食の黒いヤツもっと魚を食べなくちゃ
「鰯も高級魚になっちゃって」。
嘗て、カウンター越しの大将とそんな会話を交わしたのはどこのお店だったか。
なぜかふとその行を思い出して、
足を運んだのは数寄屋橋通りの七丁目。
”世界で唯一軒の店”と肩書きした「いわしや」は、その店名が示す通りの鰯料理専門店です。
「いわしや」創業は、昭和14年。
古びたお店を一度訪ねたことがあったと思う朧げな記憶は、改装前のものかもしれません。
暖簾の先は、10数席の小じんまりしたフロア。
壁には、鰯をモチーフにスタンプを重ねたようなパターンの額が掛かっている。二階にも客間、座敷があるようです。
店頭のお品書きには、日替わりの定食の「立田揚げ」、5食限定の「フライ定食」に「蒲焼定食」と並ぶ。蒲焼かぁと思いながらその下側を見ると、「あと7食ご用意できます」と残数のカウントダウンがされているメニューがありました。それが「磯揚定食」です。
磯揚げの“磯”は、例えば磯辺揚げの“磯”。
そんな連想はしていたけれど、届いた膳の丸皿をみて、おおお、と思う(笑)。なにやら真っ黒い物体三片が大きくはないお皿の中寄りに寄り添い、獅子唐が青みを添えている。
そこへ、飯椀と汁に香の物。
質素と云うか質朴と詠むか、はたまたこれぞ贅沢と謳うか。
こふいふ食事を日々していれば、メタボなんぞにゃならないのだろねと自問自答しながら、その”黒いヤツ”に向き合います。
やや箸で掴み難いながら掴み、歯の先を入れると、パキっというパラフィンでもカジった感じの歯触りがして、でもそのまますっとすんなり噛み切れる。
中は勿論、鰯の擂り身。蓮根か玉葱の野菜が別の歯触りを補っています。
お椀をずずっと啜ると、白味噌の甘い甘い仕立て。
汁のメインは、可愛いサイズの鰯つみれで、噛まずしてふわっと消えてしまいそうな嫋やかさ。
立田揚げか蒲焼か、いっそ「南蛮漬」かと腕組思案しながら裏を返して、口をついてでた答えは「立田揚げ」。
小さく盛ったゆかりに肩をあずけるように重ねられた立田揚げを含むお膳もまた飾り気なし。
真鰯なのかなぁ。
衣と中の鰯の身とのバランスを冷静に考えると、やや衣が勝ってしまっているようにも思う。
考えようによっちゃオツでシブい食事だし、悪くない味わいなのだけれど、ちょっと枯れた気分にもさせるのだね。
これで千円オーバーというのも、ちょと切ない。
そう遠くない過去にイヤってほど食べれた頃があったはずなのにね。
今およそ普通に美味しく口にできている魚たちが鰯みたいなことになっちゃう日が来るかもしれない。
その一方で、漁師さんたちを取り巻く環境も厳しさを増している。「いわしや」の暖簾を背にしながら、日本人もっと魚を食べなくちゃ!なぁんて思うのでありました。
「いわしや」 中央区銀座7-2-12 03-03-3571・1048