
八丁堀の某所。
その昔そこにはサインポールのストライプをくるくるさせた床屋がありました。
その建物を改築している様子が窺えたのは、09年の早春の頃のこと。
今は新大橋通りに面している牛たんの「助六」もこの並び界隈にあったんじゃなかったっけとそんなことを考えながら、もしかして新しい飲食店になるのかしらんと眺めていたことを思い出します。
落成なった板張りの建物。
店頭を覗き見するようにして目に留るのは、
黒板に認めた「イタリアワイン飲めぬ者入るべからずの店」。
しかも、基本的に四名様以上はご遠慮ください、とある。
ありたいスタイルには頑なに拘りたい店主の気概がストレートに伝わるメッセージだ。
隠れ家に忍び込むような気配をさせる通路の奥では、
重厚な木肌の扉と真鍮のノッカーが迎える。
おっかねぇー頑固親父がそこにいるのじゃないかと恐る恐る押し開けると、
カウンターの向こうにちょっと探るような目線のシェフがいる。
蓄えた髭に後ろで束ねた髪。
如何にもなオヤジじゃぁないけれど、なるほど頑固そうな面構えにも映ります。
カウンターの隅に案内されて、斜めに見上げる吹き抜けの天井は高く、
木の調子を活かした全体にしっかりとした厚みのあるデザイン。



訊けば、元の床屋の木造二階屋は築45年のものであったという。
その家屋を跡形もないくらいに大改造して仕立てたということのよう。
シェフは以前、飯田橋でイタリアンを営んでいて、
入口扉やカウンターの一枚板はその店から持ち込んで再生させたものなんだ、とも。
イタリアワインを愉しんで呑んで欲しいと訴えるシェフの真骨頂は、
カウンターに何気なく置かれた手書きのワインメニューに顕れてる。
Italiaグラスワインと示したタイトルの下には、三項目。
Spumanteはイタリアの泡、
Vini Bianchiは飲み応えありの白かフレッシュ&フルーティの白。
Vini Rossiにはスペシャル赤か飲み応えありの赤か果実味豊かな赤。

こうしてあらかじめ呑み口の区分がされていると、
呑みたい気分やその順番や料理との感じをすんなりと組み立てられる気がして、いいよね。
まずはやっぱり泡からとお願いするとそれは、
滑らかな辛口の「BORTOLOMIOLボルトロミオル」だったり、
ふくよかな呑み口の「CONEGLIANOコネリアーノ」だったり。



深い色合いのロゼ「PODERI MORINI」だったりする。
飯田橋の頃からの定番だというのが、「マッシュルームを生食で」。


ありゃ、生でくっちゃうのねと思いつつ、
まずは添えてくれているペコリーノロマーノチーズを齧ってからやおら、
つるんと丸いマッシュルームに歯を立てます。
しゃくっという独特の歯触りとともにマッシュルームが割けて、
キノコな香りが立ってきて、これが旨い。
マッシュルームのいいのがない時季には、「蚕豆を生食で」となるのだけれど、
これはこれでカリシャクとした歯触りと青さの中の旨みが新鮮な驚きを呼んでくれるのだ。
お次のイタリアワインは、
フレッシュな白を挟んで飲み応えありの白へと変遷するのがボクのパターン。


熟成感漂う「FILAGNOTTI」だったり、
VERNACCIA種の「ISABELLAイザベッラ」だったり。
奥行きの広がりに含む熟れた華やぎとミネラル感のバランスが旨いなぁと、
「CARNIGAカルニーガ2004」のラベルをしげしげ眺めると、Soave Classicoとある。
どうもソアーヴェと訊くと、かつての魚を象ったボトルを思い出してしまうのだけど、
あれと一緒にしてはいけないンだね。
シェフが繰り出すメニューは、”すべてがワインのおつまみ”。


そんなワインの友は例えば、「季節野菜とキノコの温かいサラダ」とか、
ゴルゴンゾーラの香りを添えた「北アカリじゃがいもと黒豚”肉じゃが”」とか。
そうそう、ゴルゴンゾーラといえば、
「ゴルゴンゾーラを主とするイタリア産チーズ四種の半熟仕上げオムレツ」なんて手もある。

ふっくらさせたオムレツが含む塩っ気と青カビ風味が繰り返しワインを誘うのだ。
時には、鴨なんぞと洒落込もうと、
「シャラン産鴨骨付きもも肉 直火焼きグリル」。

カリカリしっとりに焼き上げた皮目の香ばしさと身肉が届けてくれる、
ああ、深い滋味。
お友の赤は、「TAURASIタウラージ」だったり、

豊かなボリュームの「CANAJAカナヤ」だったり。
そうこうしているうちに呑みながら〆ちゃいたいってなことになって,
パスタを所望してしまう。
「ふきのとうフリオ」は、
まさに蕗の薹のほろ苦い香りをおもいっきりフィーチャーしたヤツ。

ぱきっとした茹で具合と乳化したオイルが含む塩っ気のある旨みは、
ワインのつまみになる仕立てだ。
イタリアンワインに拘って呑める店「metameta」。

北と南で違いがあったのに、最近は温暖化のせいか北の葡萄の出来がよくて、
ドライでミネラルなヤツが珍しくなってきちゃった、という。
クラシカルな仕立ての瓶が好みかな、とシェフ。
“metameta”という店の名前の意味を訊ねるとそれは、
イタリアの旧い口語で”半分半分”といった意味だと云う。
シェフはその名に、”初心忘るべからず”との意味合いを篭めているそう。
どうやって試練を乗り越えていったのか、新しい試練にどう対処したのか、
という事柄と”半分半分”という言葉とがどう重なるのか意味深だ。
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「metameta」
店舗情報は非公開
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