そんな良案を具体化しようと随分とご無沙汰の箱根界隈についてガイドブックなんぞを手にしてみる。
ページを捲っていると、ずっと以前に箱根へゴルフに行った時のことを思い出した。
それは確か、12月の初旬くらい頃。
箱根園だったか、湯の花高原だったか。
曇天の雲の下到着したゴルフ場は既に冷蔵庫の真っ只中。
頬を切る風に震えながらティーオフしたものの、
まさにゴルフどころじゃない感じ。
地面から深々と冷え、小雪がはらはら舞う中でひと息つけると飛び込んだ休憩小屋が、まるで雪山の避難小屋のような光景だったことを妙に鮮明に憶えています(笑)。
その帰り道だったか、芦ノ湖方面からの寄り道だったか。
宮ノ下を通りかかった時に横目にみた、
老舗ホテルの佇まいも妙に脳裏に残ってた。
そんなこんなで結局、数ある箱根のお宿の中から選んだのは、
「富士屋ホテル」でありました。
予約を入れようとしてはたと気づいたのは、
正月の箱根といえば駅伝があるってこと。
駅伝を絶対に見たいならまだしも、実は駅伝には全く興味がない(笑)。
駅伝で交通規制が敷かれて、かつ沿道にひとが集まるところへノコノコ出掛けていくことは避けて、復路が通り過ぎて落ち着いた頃ならよかろうと、宿泊の予約を入れたのでした。
6月に開通した圏央道で高尾山の下を潜り抜け、スイスイと海老名まで。
海老名のJCTでちょっと滞ったもののそのまま小田原厚木道路に抜けて快調に進む。
オダアツでは真っ白に化粧した冨士山が雄大な顔を覗かせる。
実にすんなりと箱根湯本の駅を通り過ぎ、早川に沿っての山登り。
母親らを乗せた車は、無事ホテル前にと到着しました。富士屋ホテルは今、国際興業グループの一員なのですね。
登ってきた、国道一号線から踏み入った小さな太鼓橋から見上げるのは、明治24年(1891年)建造の本館のファサード。左手を仰げば、あの日眺めた和装の建物が冬の凛とした空気の中に佇んでいました。
その名を花御殿。昭和11年(1936年)に建てられた建物は、
登録文化財にして近代化産業遺産。
寺社建築を思わせる千鳥破風付きの入母屋と校倉造りを模した壁を特徴とする建物で、海外からの客人たちにも「フラワーパレス」として親しまれている、という。
本館のフロントで手にした部屋の鍵には、
大きな木製のキーホルダーがついている。そこには、少々立体にもみえる梅の木の絵が描かれてる。
これだけのサイズがあれば、そうそう失くすことはできないね(笑)。
梅の木の絵のある扉を押し開けた客室は、
古風な中に老舗の風格を滲ませるもの。長押の額にも梅の木の絵が飾られています。
開け放った窓からは、紅い手摺りの向こうに本館、
そして食堂棟が臨める。えっと、冨士山はどっちの方向かな。
富士屋ホテルは、増築を繰り返して今の姿になったそうで、他にも西洋館、フォレスト館、カスケードルームといった建物があり、通路・廊下で繋がっている。
花御殿から本館方向へと進む廊下には、嘗てホテルを訪れた著名人たちのモノクロ写真がパネルにして飾られている。1932年の日付とサインのある、テニスラケットを手にしたチャーリー・スペンサー・チャップリンやオノ・ヨーコ、ショーンと一緒のジョン・レノンの姿などなど。
ヘレン・ケラーは手形を残している。
それらを覗き込んでから、
白い壁、赤い絨毯の廊下をずずいと歩み往きます。
ちょろっと覗いた本館の階段もなかなかの風格。決して華美ではないところにグッときます(笑)。
フロントの前を通り過ぎて進むは、食堂棟のアプローチ。欄干の飾る板の間の通路で向かうレストランなんて、
そうそうあるものではありません。
富士屋ホテルのメインダイニングルーム「THE FUJIYA」のランチは、
カレーコースが軸になっている。
ビーフにチキンにシーフード。
伊勢海老カレーに鮑カレーなんてのまで用意がある模様(笑)。
素直に「ビーフカレー」のコースをお願いしましょう。
麦酒の小瓶をいただいて、届いたコンソメは深い琥珀色。誤魔化しの片鱗もない真っ当な美味しさを思う、
素敵なスープなのであります。
コンソメに映っていたランプの煌きに誘われるように頭上を見上げる。チーク材を多用したメインダイニングルームの高い天井には、
高山植物が描かれていて、花御殿との連なりを想わせます。
サラダのお皿を平らげたところへ、
ソースポットとライスのお皿がやってきました。ポットに覗くカレーには奇を衒わない、
丁寧な仕立てがなんとはなしに滲みます。
ええーいとライスに流しかけたカレーから、
ゴロゴロっと、それでも品のいいサイズの角切り牛肉が顔を出す。フォークに載せたカレーを口に含むと、
野菜や果物由来と思しき優しい甘さがふわっと広がる。
小麦粉を炒め、油脂を含んだルーが齎すカレーの世界とは、
一線を画くような仕立てが嬉しい。
地味ながらも何気に贅沢な材料と手間暇をかけた、
そんなカレーなのかもしれません。
6種類の薬味の載ったトレーは、寄木細工のもの。寄木細工は、箱根の伝統工芸であるらしく、ホテル内の売店にも、懐かしの秘密箱やオルゴール、財布や万年筆等々が売っていました。
デザートは、フランボワーズのシャーベット。使い込まれた銀器にもまた脈々と続く饗応の時間を想います。
富士屋ホテルのメインダイニング「THE FUJIYA」でランチタイム。ランチ所望の旨を通路の奥のコンシェルジュに伝えると、番号を記したチケットが手渡される。
そしてなんと、テーブルの準備が整った番号が扉の前の電光掲示板に表示されるというシステム。
昭和5年(1930年)に建造の登録文化財にも何気に馴染むチーク材の筐体に収めた掲示板は、名前をアナウンスすることなく、席を待つロビーとダイニングとの距離があることに対応する苦肉の策なのかもしれませんね。
「THE FUJIYA」
神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下359富士屋ホテル [Map]
0460-82-2211
http://www.fujiyahotel.jp/restaurant/thefujiya/index.html