
茅場町の裏通り。
坂本町公園近くの角地に、そこにずっとずっとあるような風情で佇む割烹があります。
割烹「辰巳」。
嘗ては、証券会社や取引所のお偉いさん達が贔屓にしていたのかな、なんてふと想う。
夜訪れるのは、ちょっぴり敷居が高そうにもみえるけど、おひる時なら怖くない(笑)。
白い暖簾が揺れる店先に佇んで黒板メニューを窺うと、
嬉しいことに「カキフライ」がある。

広島、と産地を明示してくれています。
如何にもな落ち着いた様子の店内。

カウンターの真ん中あたりに腰掛けると、
正面の硝子ケースにパットに収まって出番を待つ牡蠣の剥き身がみえる。
これで三人前くらいかな、なんて考えるところへ、さーっと軽やかな揚げ音が聞こえてきました。
しっかりとついた揚げ色は洋食屋さんのそれのよう。

揚げ立てにふーとひと息呼吸を入れてから徐に齧りつく。
サクとカリの中間くらいの歯触りが崩れて、湯気をあげる牡蠣の身の旨みと交差する。
あまり縮まらず、ぷりんとしたその身の気配を残しながら、
凝集した海の恵みを愉しませてくれる感じ。

いいね、うん。
そのカウンターでお隣さんがいただいていた献立も気になりました。
ところが、何日か通うものの、黒板にその文字がない。
訊けば、「木曜日にでてますよ」。
改めて、木曜日にお邪魔しました。
それは、如何にも潔く実直な風情の「ぶり大根」。

鰤大根は、鰤が主役かはたまた大根が主役か、なんてテーマがどこかにあったなぁなどと思いながら、まずは大胆に厚切りな大根に箸を伸ばします。

むほほほほほ。
むほっと齧った大根から鰤の旨みと香りがたっぷりと零れて、滲みた煮汁の調味が味わいの輪郭を囲む。
うまーい!
ニッカニカしながら鰤の身に箸の先を寄せると、ほろほろとまとまりながら解ける。

ちょんと煮汁に浸していただけば、こちらもこちらで当然のように美味しいことに思わず頷く。
ああ、共に主演であり、互いに助演であるのが鰤大根なのですね。
昭和26年創業の割烹、茅場町「辰巳」。


壁に掛かった小さな額には、
創業当時の佇まいを伝えるモノクロ写真が収まっている。
いまよりも狭いであろう、二間の間口の建物の外壁には、
天麩羅、季節料理と筆文字で謳ってる。
「辰巳」というのは、辰と巳の間、つまりは南東の方角を指す言葉。
店の名「辰巳」には、江戸の城からおよそ南東の方角に位置した深川の遊郭を俗に”辰巳”と呼んだのと同じ粋が籠められているかもしれないね。
「辰巳」
中央区日本橋茅場町2-1-9
[Map] 03-3666-0996
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