そのカウンターでお隣さんがいただいていた献立も気になりました。 ところが、何日か通うものの、黒板にその文字がない。 訊けば、「木曜日にでてますよ」。 改めて、木曜日にお邪魔しました。 それは、如何にも潔く実直な風情の「ぶり大根」。 鰤大根は、鰤が主役かはたまた大根が主役か、なんてテーマがどこかにあったなぁなどと思いながら、まずは大胆に厚切りな大根に箸を伸ばします。むほほほほほ。 むほっと齧った大根から鰤の旨みと香りがたっぷりと零れて、滲みた煮汁の調味が味わいの輪郭を囲む。 うまーい! ニッカニカしながら鰤の身に箸の先を寄せると、ほろほろとまとまりながら解ける。ちょんと煮汁に浸していただけば、こちらもこちらで当然のように美味しいことに思わず頷く。 ああ、共に主演であり、互いに助演であるのが鰤大根なのですね。
昭和26年創業の割烹、茅場町「辰巳」。壁に掛かった小さな額には、 創業当時の佇まいを伝えるモノクロ写真が収まっている。 いまよりも狭いであろう、二間の間口の建物の外壁には、 天麩羅、季節料理と筆文字で謳ってる。 「辰巳」というのは、辰と巳の間、つまりは南東の方角を指す言葉。 店の名「辰巳」には、江戸の城からおよそ南東の方角に位置した深川の遊郭を俗に”辰巳”と呼んだのと同じ粋が籠められているかもしれないね。
「辰巳」 中央区日本橋茅場町2-1-9[Map] 03-3666-0996
column/03112