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鮨「八郎すし」で末廣柳八目勘八赤烏賊万寿貝紺碧卵の甘海老喉黒吉永小百合と梅ノ橋

およそ一年振りとなる金沢へ。
新幹線を降りて、勝手知ったる兼六園口から香林坊の定宿へ向かう。
ホテルに荷物を降ろして早速、旧日銀の向かい、香林坊アトリエ前に次から次へとやって来るバスのひとつに乗り込んだ。
広坂の交叉点を左折したバスは、金沢城公園と兼六園との間を通り抜けて、浅野川の袂の橋場町バス停に滑り込む。

浅野川大橋を渡り、右手へ折れると、
何度か散策したことのあるひがし茶屋街だ。 日本式洋食レストランの「自由軒」の前を通り過ぎ、
一般公開されているお茶屋の「志摩」を見学。
そのままずいーっと茶屋街の奥まで歩む。

茶屋街の突き当たりから左に折れ、
宇多須神社にお詣りしてから子来坂を往く。
えっちらおっちら急坂を登り、
卯辰山にある宝泉寺へ。 五本松を背にして振り返れば、
浅野川両岸をはじめとした、
金沢の街が見渡せる。
ちょうど真ん中辺りには、
木製らしき橋が見付かります。

卯辰山から降りてきて、
先程眺め遣った橋を渡る。 浅野川を渡る橋は、
その名を梅ノ橋と云う。
構造としては鋼橋ではあるものの、
高欄と桁隠の造作部分は木製で味がある。
ニ度の流失を経ての今の橋が三代目。
浅野川の南側の川沿いの道が、
“鏡花のみち”と呼ばれているのはこの橋界隈が、
泉鏡花の小説「義血侠血」の舞台になっている、
そのことからだという。

梅ノ橋の上から見下ろした、
鏡花のみち沿いに佇むのが、
この日のおひる処、「八郎すし」。 積年の町家のファサードに、
緑青の浮いてきた行燈看板もまた、
いい感じの風情を醸しています。

予約の名を告げ、
L字のカウンターの奥へ。 窓越しに今しがた渡って来た梅ノ橋が見える。

硝子ケースの中では、
整然とタネたちが出番を待っている。 カウンター右手の壁には、
丁重に額に収めた吉永小百合のサイン色紙。
訊けば、映画「いのちの停車場」の撮影に、
「八郎すし」の店内二階が使われたという。
ふむふむ、成る程なるほど(^^)。

能登のお酒があるというので、
純米吟醸「末廣」で口開きといたしましょう。 能登のひやおろしに早速のお供は、
これまた能登の「岩もずく」。
石垣島のもずくより繊細な食感のもずくだ。
添えてくれた黒崎の茶豆も、また美味い。

大樋焼の器にそっと載せられた、
最初のにぎりは、柳八目(ヤナギバチメ)。 メバル(ウスメバル)のことを石川では、
そう呼ぶのですと二代目の親方が仰る。
品のよい細やかな甘みもあって、佳き哉。
東京ではあまり目にしないような気もするね。

続いて、勘八のにぎり。 余計な脂がなくて、あっさりとした旨味。
訊けば、金沢港で漁師から直接買い付けた、
小振りなカンパチだという。

「末廣」をお代わりして、
仕込み水も貰ったところへ鮪の赤身。 うんうん、これでよい、これがよい(^^)。

烏賊では王様ですと親方の云うは、
赤烏賊のにぎり。 造形的にして綺麗。
上品にしてしっかりした甘さが伝わります。

続いて登場したお皿には、
なかなか大振りな万寿貝。 親方が貝殻を見せてくれたけれど、
それはペイントしたかのような真っ白な貝で、
北の方ではシロガイと呼ばれるそう。

二枚付けで糸切鋏のようなお姿は、
ご存じ小肌のにぎり。 さらっとしたシャリとの相性やよし。

市場でも見掛けていた甘海老登場。 やっぱり卵の青色、紺碧が印象的。
外子になるものは青色が多いと親方。
うんうん、甘い、旨い、甘い。

お椀をいただいたところで、
ふと、親方に訊いてみた。
近江町市場にも買い出しにいくのですか? お答えは、否。
主だった鮨店のプロとしての買い付け先に、
今や、近江町市場は機能していないようです。

包丁がつくる襞を魅せて届いたのが、
梭子魚(カマス)。 脂ののりがよく、旨味たっぷり。
そして、ふんわりふわふわだ。

そしてふたたびの赤烏賊のゲソあたり。 ナンコツ的コリコリの食感のあと、
ジュワワンと甘さがやってくる。

鯵もまた、脂ののり十二分。 これもまた、
これでいいのだ、これがいいのだ(^^)。

玉に続いて最後に登場は、
能登で捕れたという喉黒。 皮目の裏側あたりから全体が甘い。
これはもう、云うまでもなく、
期待通りの美味しさであります。

デザートをいただいてから、
映画のロケに使われたという二階へ、
女将さんに案内いただいた。 茶屋街の「志摩」でも眺めた、
紅殻(ベンガラ)色が二階居室の壁にも。
映画では、吉永小百合演じる女性医師が、
ここから向かいの橋を渡って診療所へと通う、
そんなシーンが撮られたという。

金沢はひがし茶屋街近くを流れる浅野川の、
梅ノ橋眼前に「八郎すし」は、ある。 当地で71年の歴史があるという「八郎すし」。
店名の”八郎”さんは、創業者の先代で、
二代目の親方と、その息子さんの三代目が、
いま同じ付け台に立っている。
親方や三代目と金沢の話を軸とした、
四方山話をあれこれと交わしつつ、
品よく活き活きとしてしっかり美味い、
一貫一貫と能登の酒。
ゆったりとしてとても良い時間でした。

「八郎すし」
石川県金沢市並木町2-16 [Map]
076-231-1939

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