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酒さかな「向井酒の店」でふくだめ煮付鰯酢漬水茄子煮浸赤足海老フライ伊勢鶏治部煮

およそ七年振りのお伊勢さん。
伊勢神宮でもっとも印象深いのは、内宮へと宇治橋鳥居を潜り、宇治橋を渡り、ふたたび鳥居を潜って右手へと踵を向けると、その度にさっと空気が変わること。
参道や神苑を囲む樹々はもとより、内宮を包み込む宮域の広大な森、神宮林が齎す新鮮で冷涼な空気のためとも思いつつも、俗界から神域へと足を踏み入れたように思わせる不思議が、確かにある。

外宮にお参りして、
宇治山田駅裏手の伊勢「つむぐ」で、
小粋な佳きおひるをいただいた後、
タクシーでご無沙汰の宇治橋の大鳥居へ。 擬宝珠越しの宇治橋が、いい(^^)。
冬至を中心とした前後1か月には、
内宮宇治橋の大鳥居越しに昇る、
美しい日の出を望むことができるけれど、
残念ながらこの日は夏至の頃。
暑い暑い日で、神域との境界も流石に、
暑さに揺らいでか多少曖昧に感じた。

五十鈴川の流れでお清めをしてから、
ゆっくりと参拝して、御朱印をいただき、
宇治橋を渡り戻って、大鳥居を振り返り一礼。
おはらい町通りを「赤福」本店辺りまで、
往復しないとお伊勢参りが完結しないような、
そんな気がするのは、何故でしょう(^^)。

おはらい町通りやおかげ横丁を汗を掻き掻き、
散策してから伊勢市駅前の宿まで戻って小休止。
日中の暑気がほんの少し引いてきた夕暮れ時。
今宵の止まり木へとやってきた。 酒さかな「向井酒の店」は、
伊勢市駅の北西に位置する外宮の別宮、
「月夜見宮」辺りから踏切を渡った通り沿いにある。
最近ののむちゃんのお気に入りの一軒
でもある、みたい(^^)。

通りの向かい側からしばし佇んで、
眺め遣る店側のその佇まいや、佳し。
外観を眺めるだけで、
いい酒といい肴がいただけることがすぐ判る。
立て掛けられた板木には既に、
“満席”の貼紙がされている。

酒と大書きした一文字に「日本盛」と添え、
右手にビール、小鉢物と縦書きし、
左手に「むか井」と示した大振りな暖簾。 “小鉢物”ってのも、実にいい。

暖簾の左手には、
正統派の酒の店らしく杉玉が下がっている。 吊るされていた木札を見るとそこには、
酒の神様三輪明神、とある。
三輪明神 大神神社は、
奈良県桜井市三輪にある神社。
Webサイトによると、
その祭神は、国造りの神様として、そして、
人間生活の守護神として尊崇されており、
医薬の神様や酒造りの神様としても、
広く信仰されている、と云う。
お酒を通じた縁が、きっとあるのでしょうね。

予約の名を告げると、
厨房に向かうカウンターの、
一番奥の席へと通してくれた。 ふと見上げれば、下がり壁の左右一面に、
沢山の絵馬が飾られている。

丁度正面の棚の上には、
「向井酒の店」の店構えの模型がある。 現状とはやや趣が異なるところをみると、
改装・改築前の店舗のものではあるまいか。
建物右手には、所謂”うだつ”が上がっているね。

お品書きの酒肴たちは、A4見開きに、
お造り、酢の物・旬菜、焼き物、揚げ物、煮物と、
50品弱が並び、お食事物なぞが別掲されている。
おススメ品には赤丸が、お急ぎ品には赤べた丸印が、
付記されていて分かり易い。

生麦酒のジョッキを合わせたところに、
「ふくだめ煮付け」が届いた。 過日、居酒屋「一月家」で初めて知ったのは、
伊勢志摩地方で、床臥(とこぶし)のことを、
「ふくだめ」と呼ぶということ。
それは、貝殻の煌めき麗しきやや大振りの床臥。
想定以上に柔らかく煮付けてあって、いい。
なんだか、床臥を口にするのって久し振りだ。
ちなみに、「一月家」でいただいた珍味、
「鮫だれ」は、お品書きには見当たりません。

お刺身か、稲わらたたきかと、悩んだ挙句に、
「クレソンとかつおのニンニクオイル和え」。 それは、突然のイタリアン(^^)。
大蒜オイルと小振りの葉の新芽的クレソン、
そしてそれと鰹との相性や、絶妙であります。
砕いた胡桃の実のクリスピーもいい合いの手だ。

これまた「一月家」でもいただいた、
「いわしの酢漬け」。 綺麗なウロコのキラキラが興を誘う。
鰯の頭と尾を落として、内臓を外して、
丸のまんまでなくて、それを半身にしている。
酸味と甘みの塩梅が、いい。

こいつぁお酒だとお品書きを眺めると、
暖簾にあった「日本盛」の上撰は、
兵庫・西宮の酒ではあるのもの、
それ以外はやっぱり成る程、すべて三重の酒だ。 伊賀の蔵元、大田酒造による冷蔵品、
「半蔵 神の穂 特別純米」をいただきましょう。
伊勢志摩サミットで乾杯に使われたお酒だそう。
「神の穂」は、三重で開発された独自の酒米。
「半蔵」は、服部半蔵の、半蔵、だね。

お次に届いたお皿には、「水なすの煮びたし」。 そうか、水茄子ってこんなに大振りだったっけね。
柔らかくもしっかり目でプニっとした水茄子が、
煮出汁をたっぷりと含んで、そこに鎮座する。
食感だけのどこか素っ気ない印象もある水茄子に、
野性的にも思う香りがあって、美味しい。
水茄子そのものがまず、美味しいんだ。

揚げ物から「あかあし海老フライ」。 足赤海老とは、所謂熊海老のことで、
クルマエビ科の大型の海老のことを云うそう。
届いた瞬間に、おおお、と思うサイズ感。
海老フライでこの形状ということは、
海老の身を開いて整形してから揚げているんだね。
衣から突き出した尾の朱色が鮮やかだ。
ふわんとした身からじわじわ甘味が伝わってくる。
海老が硬くならないように短時間で揚げるために、
海老の身を開いているのかもしれないな。
下味がついているようで、そのまんまで、美味しい。

四日市の酒蔵、丸彦酒造の、
県内限定という「樋乃口 純米無濾過」をいただいて、
焼き物から「鯛塩麹焼き木の芽オイル」。 想定外に美しくも上品な見映えのする。
焼き物には、伊勢志摩の備長炭を使っているそうで、
パリパリとした皮目の焼き目も美しい。
塩麹、そして木の芽オイルと、
パサつきがちな鯛の身を如何に、
しっとり美味しくするかの工夫が見て取れる。
鯛の身に沁み込んだ甘い香りが魅惑的で、
銀鱈の西京漬けにも引けを取らない感じだ。

煮物・温物から、「伊勢どりのじぶ煮」。 金沢の地ではないけど、の治部煮。
あー、とろんとさせないんだ、という第一印象。
あらあら、美味しい美味しい。
伊勢どり、って旨いんだねぇ。
じっくりと出汁の利いた汁も旨い。
うんうん、美味しい美味しいと、
口に運ぶ度呟やいていることにふと気づく(^^)。
和芥子が似合いそうでもあるね。
鶏に片栗粉を回す、その加減が難しそうだ。

伊勢市駅の北西に位置する外宮の別宮、
「月夜見宮」辺りから踏切を渡った通り沿いに、
酒さかな「向井酒の店」は、ある。 いちいち全部旨いやん、という食後感にニンマリ。
曽祢本通りの尼辻近くの居酒屋「一月家」に、
勢田川を背にした河崎本通り沿いの居酒屋「虎丸」。
今回お邪魔した宇治山田駅裏手の「つむぐ」に、
そして此処、酒さかな「向井酒の店」と、
伊勢に行ったら寄りたい店がまた増えた。
焼ぎょうざ「美鈴」で餃子で麦酒を呑りたいし、
うーむ、困ったなぁ(^^)。

「向井酒の店」
三重県伊勢市宮後2-5-26 [Map]
050-5596-4373

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