いざいざとその階段を下りようとすると、 席が整うのを待って、談笑するひと影がある。時に歩道にまで行列ができることもあるようです。
間もなく案内いただいた店内は、 右手にオープンな厨房に向かうカウンター、 左手に幾つかのテーブルが配されています。 居抜きの店舗もセンスよく白基調で塗り込めれば、カフェっぽく垢抜けて、 女性客もその居心地に安堵する。 そんな事例のお手本のようだなぁと、 そんなことを考えながらカウンターの隅に腰を降ろします。
グラスの麦酒をポテトサラダでいただきつつ、 ゆったりと出来上がりを待つはとんかつの何れかではなくて、 「広島県産カキフライ定食」のお膳です。第一印象は、衣の揚げ色が生っぽいフライだなぁということ。 それと、カキフライも大き過ぎないのが美味しいと、 やっと気がつき始めた身としては、大振りサイズがやや気に掛かる。
檸檬は搾らず、自家製というタルタルを載せて噛り付く。 サクサクとした、なんとも軽妙な衣の、生パン粉の歯触り。メニュー裏側の解説には、 揚げ油は、少量しか採れない腸間膜油、つまりは内蔵を包んでいる油を主原料にしていて、 とてもコシがあり余熱で火を通す力に優れています、とある。 比較的低温でじわじわっと揚げたものかと思えば然にあらず、 油から早めに上げて、余熱で火を通すところに特に留意した揚げ方なんだね。
ただ、齧った牡蠣の身は大きさの割にはどれもが不思議なくらい潰れてしまって、 衣と一体感のある美味しさの成果には正直ちょっぴり、不足がある感じ。出来ることならば、 小さめサイズの縮み難い牡蠣をこのサクサク衣で包んだフライを食べてみたいなぁ。
そして、素人が思うに、カキフライには、 ある程度一気に包み込むようにして火を通して閉じ込めるプロセスが必要なんじゃないかと、 そんなことをなんとなーく考えたりなんかしてみるのでありました(笑)。
と、そこへ壁の張り紙で気になるお品、数量限定の「白子のフライ」。もしかしたら中は熱々なのかと恐る恐る大口開けて齧り付く。 そこそこの熱々で甘く蕩ける真鱈の白子。 ただこれもひと口サイズでいただければ、 もっと絶品な感じになるのじゃないかと他意なく腕組みしてしまったりして。 うーむ。
別の夜、今度はとんかつをいただいてみたいと同じカウンターの一席に。 基本形が気分ですと「霧降高原豚ロースかつ定食」を所望します。生パン粉のひとつひとつが表情を持ちつつ、均質に並んでる。 どれどれと齧るサクサクとした歯触りは、なるほどに心地いい。
改めて、ヒマラヤらしきサーモンピンクの岩塩をちょんづけしていただけば、 店主厳選の霧降高原豚の脂が上品な甘さを発揮する。うむうむ、なるほど。 油の温度管理と余熱による火入れのタイミングを突き詰めた繊細なる揚げ口の軽やかさ。 ただ、どうももうひとつときめかないのは何故だろうと考える。 ない頭を絞ってひと巡り(笑)。 どうも、とんかつの衣に一層の香ばしさも期待しているところがあって、 どうやらその辺りに満たされないものを感じたのかもしれません。
白っぽい衣の揚げ色でふと思い出したのは、 上野の孤高なる変人(失礼)の城であった、今はなき「平兵衛」のとんかつやカキフライ。 並べて考えるのも憚られつつ、 あの独特なる「平兵衛」の低温じっくり揚げ技法と余熱での火入れを計算した揚げ方には、 もしかしたらどこか通じるものがあるのかも、なんて一瞬考えてしまった。 そう云えば、今流行りの低温調理には、”揚げる”も該当があるのかな。
じっくり人気の高田馬場、気鋭を思うとんかつ「成蔵(なりくら)」。精悍な印象の主人、三谷成蔵(せいぞう)さんは、 広島から上京して、あの、新橋「燕楽」での修業などを経て独立を果たしたという。 厚みのある霧降高原豚を低温からじっくり揚げ上げる「特ロースかつ」が気に掛る。 岩塩でと薦める「メンチかつ」の仕立てや「エビフライ」の火入れ加減もまた気掛かりです。
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「成蔵」 新宿区高田馬場1-32-11 小澤ビル地下1F [Map] 03-6380-3823
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