島崎藤村も卒業生のひとりだという由緒ある小学校、泰明小学校。
フランス門とも呼ばれる瀟洒な門扉越しに校庭を眺めると、紅い帽子白い帽子をそれぞれに被った子供たちが元気に飛び跳ねている。
その向こうには、アーチ型の窓を避けるように枯色の蔦が絡んだ校舎が見渡せる。
目指す本日のおひる処は、その向かいにある横道にあるのです。
横道の路面にふと目を遣ると、エンブレムが埋め込まれているのに気づく。
ここには、立派な「泰明通り」という名があったのですね。そうかそうかと顎鬚を撫でながら(笑)、辿り着いたのは、 ご存知「泰明庵」の暖簾の前です。
がらがらと引き戸を開けると、湯気で眼鏡が曇る。 オヤジさん達をはじめとする先客さんたちに混じり入るようにご相席をお願いします。 丸く削れたテーブルの角が味わい深い。
甘い葱と牛蒡の笹掻きと一緒に牡蠣の身を口に含む。

今度は御本尊の蕎麦と一緒に牡蠣の身を。
昼なおキリっと冷え込んだ真冬日、ふたたび泰明通りを訪れました。 姐さんが珍しく、よろしかったら二階へどうぞというジェスチャーで迎えてくれる。 気がついたら昼も夜も一階ばかりで二階にあがったことがない。 それはそれはとちょっといそいそと(笑)、二階への階段を辿ります。 二階のフロアも一階に違わぬ、落ち着いた味な風情だ。
この日の目当ては、ずっと気になりつつもまだいただいていなかった「せりそば」。 二階担当の姐さんにそのように声を掛けると、「肉つけますか、今日はかしわのみなのですけど」と仰る。 はい、と応えると続けて、「根、つけますか、食べられますので」。 あ、では、そのようにお願いします。
青々とした表情でどんぶりを飾っているのは、言わずと知れた春の七草のひとつ。
やおら、割り箸をその芹の間に差し込んで、その下の蕎麦と一緒に手繰り上げる。 セリとセリとがキュッと鳴いたような気がする。 ああ、香しき青き春の息吹。
根のところは甘いようなほろ苦いような、不思議な魅力。
創業来半世紀にあまるという泰明通りの老舗蕎麦店「泰明庵」。
「泰明庵」 中央区銀座6-3-14 [Map] 03-3571-0840
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