いつぞやお世話になった、新橋の「雑魚」。
Public Barと謳いつつ、くだけた居酒屋ノリがオープンエアに心地いいお店。
角地にあって、隅切りから眺める佇まいがちょっと印象的だったのも覚えています。
そしてその「雑魚」に軒を並べるのが、今夜のとまり木、その名も「ネヂ」。
吊るした巻き簾には、”餃子がうまい居酒屋”とあります。
どーもーとドアを引き明ければ、
正面の厨房でどんと構えるマスターの笑顔がみえる。
ふくよかな顔立ちと量感のある体躯が頼り甲斐ある雰囲気を漂わせています。
手にしているのは、餃子が収まったアルミのトレー。
どんどん焼くかんね、ってね。
既に幾皿かの餃子なんぞを平らげている先発陣に追いつけと、ビールを呷っての「焼き餃子」基本形と「ラム餃子」。
「ネヂ」には、スタンダードに「しそ餃子」「チーズ餃子」「カレー餃子」「にんにく餃子」といった焼き餃子に「トマト水餃子」「肉と野菜の水餃子」「あさりの水餃子」といった水餃子のラインナップがあって、それ以外にも旬ネタを含めたいろいろな餃子がスタンバイしているんだ。
端正な焼き目のグラデーション。
焼くタイプは、パリっとした食感とムニっとした食感が同時に果たせるような皮の仕立て。
まったりと練ったあんに、控えめにラムの香る餃子も面白い。
刻んだ長葱をトッピングしているのは、「タン塩餃子」。
ラムもあればタン塩もあるだーと呟きつつ噛めば、なーるほど確かにタン塩の味わいが妙にマッチする餃子だ。
更なる変り種といえば、「ネヂ」オリジナルの「生餃子」。
えーそれって焼く前のお土産用じゃん!と思うなかれ。
柚子胡椒を添えたそれは、どこか二つ折りしたクレープを思わせるような質感の皮と包み方。
そのままどーぞー、と云われるまま、そのまま口に運ぶ。
例えば、生春巻きとは仕立ても食感も勿論違ってて、 皮も肉も野菜も生で食べる、当に「生な餃子」が愉しいな。
これは同じ新橋のご近所餃子処「玲玲」にもあったかも、の「トマトの餃子」。
ゆるゆると火が入って甘酸っぱく弾けんとするトマトの魅力を包み込んだ、やや厚手の皮のふるふる。
タンブラーに無造作に注いだ赤ワインのお供にするのが粋なんじゃないかな、なんて考えが一瞬過ります。
「ネヂ」は、「餃子食堂」ではあるけれど、ただ餃子だけのお店ではありません。
釣り好きマスターの目点てもあってか、達筆なる品書きを賑わすその時季の魚介も注目に値する。
例えば、きゅんとした歯応えの中に品のいい旨みが解ける大原産の釣りものの「花鯛」の刺し。
艶消しの黒い器に綺麗に広がった透明な身はなぁにと訊けば、「馬づらハギ」の薄造りだ。
たっぷり添えてくれた肝を目にすれば、くるんと包んで食べたくなるよね。
なはは、旨い。
あれあれ?その不思議な形状の、如何にも珍味な雰囲気を醸しているのはナニ?と問えば、その答えが「タコの子」だ。
ちゅるんと啜って、恐る恐る歯を使うと、ぷちんと弾けて澄んだ海の風味が広がる。
いいね、酒持ってこい、ってね(笑)。
かと思えば、鮮度抜群と謳う、なんと「豚レバー刺身」、はたまた「ひと口レバカツ」があったりとそれぞれに嬉しがらせるのであります。
あ、フライと云えば、も一度食べたい!のが、「アジの納豆フライ」。
一見普通の鯵フライをひと口齧れば、納豆パラダイス。
鯵フライにこんなに合うなんてね。
揚げものにも合うぞと、ハイボール。
ハイボールといっても、「ハイ(丸A)ボール」と標す赤いラベルがちょっと妖しい「天羽の梅」で作った「Aハイボール」をちゅるちゅると。
キンミヤを割る梅シロップはもしかしてこれなのかな、とか思いつつ、またちゅるちゅる(笑)。
そして、〆には、「生姜チャーハン」という手もあるけれど、面白いのが「沖縄そばの釜玉うどん」。
確かに沖縄そば風のやや平打ちの麺に玉子が載っている。
あ、湯掻きたてを混ぜなければと慌てて、くにゅくにゅと混ぜる。
なるほど~、一般的なラーメンの麺やつけ麺の麺でなくて、沖縄そばの麺をもってきて、釜玉にしたらという発想した時点で成功とも云える。
すぐ混ぜるのが大事、だぞっと。
新橋の路地裏の餃子食堂「ネヂ」は、餃子が旨いだけの店じゃない。
常連の姐さんによれば、マスターが語る店名「ネヂ」の由来は、「ネヂが好きだからさ」ともハードボイルドに「ネヂれた人生送ってきたからさ」とも。
でも、合わせ呑むにどんぴしゃな酒肴を追い掛け工夫する心意気や発想は、ちっともネヂれず真っ直ぐだ。
「ネヂ」
港区新橋4-19-6 第二粕谷ビル1F
[Map] 03-5401-0141
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