ひる時に八重洲ブックセンター辺りにいたりすると、そうだ、京すしに寄っていこう!とその度に閃く。
尤も端からその流れを狙っているのだけど。
中央通りにも面した、ひと区画まるまる仮囲いに囲まれたブロックにはなにがあったのだっけなと考えながら、「京すし」の暖簾を潜ります。
額縁に入った「鉄火丼」とか「いなだ丼」といった書を横目にね。
正午を廻ると、んー15分お待ちいただきます、と大将に告げられてしまう時間帯になるので、そのちょっと前に掃き清められたたたきに立つのがよい。
左の隅ぐらいの席がちょうどひとつだけ空いていて、そこへするっとお邪魔です。
ところどころに染みのついた、いつもの品書きから選らんだのは、さっき表の額縁にもあった「いなだ丼」。
他のタネとのハーフにもできるけど、いなだ一本でいきたい気分であります。
どこか枯れた気風を思うカウンターで、大将の手際を眺めながら、のんびり待つひと時というのも、いい。
受け取ったどんぶりは、
水辺に浮かぶ睡蓮を連想させるようなしっとりした華やかさ。
いなだの身の薄紅色と縁取りの真朱がエッジの利いた包丁に活き活きとしている。
数滴の醤油におろし山葵の欠片をちょんと載せていただけば、一瞬こっくり甘いとさえ思う旨みがするんと消えてゆく。
酢飯を寄り添わせては、またひと口。
うん、いいね、 もうすっかりその時季の風格があるよう。
しじみのお椀がまた何気に嬉しいんだ。
今度は、〆たヤツのどんぶりが食べたいと、別のお昼どき。
どふゆふ訳か、同じ席に案内されて、「あじさば~」と声を掛けます。
表皮を剥いだ後の薄い薄い銀色が柔らかに光る鯵とやや控えめな風情にシメた鯖。
やや赤味を帯びてきゅっと酢の利いたご飯に対して、〆の具合は決して過ぎない按配のよさ。
気取らず背筋のシャンとしたこういうドンブリって意外と稀少なのじゃぁないかなぁ。
あれも久々にいただかねばなりませんとまたまたお邪魔しました。
本日のお昼は「鉄火丼」。
これまたしっとりとした深緋色。
覗き込んで窺える赤身の表情には、心地よい熟成を済ませたような余裕がある。
ただの鉄火丼ですよと云い乍ら、仄かな酸味とあっさりした脂を含む、赤身の香気をちらりと魅せてくれるのですね。
ほとんどのお客さんが丼を所望する、おひるどきの京橋「京すし」。
どうも額縁や品書きの「丼」の文字に条件反射してしまうのだけれど、次回はにぎりをいただきたいと思います。
「京すし」
中央区京橋2-2-2
[Map] 03-3281-5575
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