ゲートに向かって渡った広瀬川は、蒸溜所のところで新川川(ニッカワガワ)と合流する。 辿り着いたのは、力強きハイランドタイプの余市蒸溜所のモルトに加えて、柔らかなローランドタイプのモルトをつくるべく、かの竹鶴政孝氏が興したという宮城峡蒸溜所。キルン棟からはじめ、ポットスチルを見上げ、樽の貯蔵庫へと回ってピートを弄り、天使の分け前のお話に頷いて、そしてお楽しみの試飲で〆るのが決まりだ(笑)。
仙台市内へとバスで戻って、ホテルでひと休み。 ふたたび昼間訪れた界隈にやってきました。 ゲート越しに既にひと気の増えた国分町の通りを横目にする辺り。
雑居ビルの階段を降りてゆくとそこは、急にしっとりした空気のフロア。 「一心」のファサードは、瓦を載せた軒を持つ、酒蔵の色気漂うもの。 兄弟店「加減 燗」「光庵」と並び併せて、雑居ビル地階とは思えない雰囲気を醸しています。 昼下がりは蒸溜の蔵へだったけど、夜は醸造の蔵へ、だなぁ(笑)。
予約の名を告げ、促されるままカウンターの一番奥へ。 背中越しに幾つか仕切られた小上がりの様子が窺えます。
翌日訪れる予定の石巻のお酒をと限定純米中汲み「墨廼江(すみのえ)」を。ここ「一心」の特徴のひとつが、つきだしとしてやってくるお造り。 乾杯をして早速、近海本鮪の中とろや海老の甘さを愉しみます。
時季外れだから「ばくらい」だねと話しながら覗いたお品書きに「新ほや」がある。 夏場が旬じゃないんでしたっけ?と訊くと、そうでばかりもないのですと姐さん。 どれどれとマンゴー色の身を摘まみます。ああ、如何にも獲れ立ての鮮度を思う甘さと磯の旨味に濁りなし。 冷や酒との相性を語るまでもありません。
続いて届いたのが「定義(じょうげ)さんの油揚げ」。 肉厚にして三角形の油揚げをしっかり目に炙ってある。醤油を回しかけて、生姜と刻み葱を散らしていただけば、 ぱりぱりとした歯触りに続いて大豆の香りが弾ける。 通常のお揚げでも厚揚げでもない、絶妙の厚みが生む美味しさ。 お品書きには、”定義如来・西方寺の、門前町で一番の名物!”と謳っています。
カウンター正面の棚をみあげると、 太田和彦氏をはじめとする面々の日本酒や居酒屋に関する書籍が並んでる。その上には、”「夏子の酒」尾瀬あきら”の色紙。 あ、達郎師匠の色紙もある。 仙台公演の際に訪れていたのですね。
お酒を石巻の「日高見」純米吟醸に。 酒米は、山田錦の母とも云われる山田穂。 小粋に旨味広がりすっとキレる、心地よい吞み口であります。
そんなお酒に飲兵衛気分を添えてくれるのが、「十穀みそ」。炒った穀物あれこれを合わせ味噌と和えたもの。 これだけで呑むようになったらいよいよアル中だ(笑)。
長皿で恭しくやってきたのが、「松島産 活穴子白焼き」。松島の穴子がいただけるのだねぇと小さな感慨を思いつつ、 そのまま塩をほんの少々で口へ。 おお、むほほほほほほ! ああ、美味い。
一点の曇りもない旨味が香ばしさと一緒に炸裂する。骨切りするように入れた包丁の効用も素晴らしく、 なにより鮮度もとより穴子そのものが佳いのではあるまいか。 何はともあれ、人生で一番の穴子白焼きであります。
「一心」には、オリジナルプライベートな限定酒があって、 それが「伏見男山純米大吟醸中汲み」。気仙沼の男山が醸す酒米は、蔵の華。 艶やかに華開くように旨味が広がって纏まる感じがいい。
そんなグラスの滴を迎えるは、 肝和えにしてもらった「活きかわはぎ」。鳴呼、堪らない。 河豚をいただくより断然こちらに軍配を挙げたい気分です。
きっと仙台が誇る日本酒と旬の魚介・酒肴の店「一心」。決してお安くはないけれど、宮城ものをはじめとする銘酒と真っ直ぐ絶佳な酒肴の相乗を堪能させてくれるに違いない。 そうそう、「一心」のファサードは、ビッコミ・オリジナル掲載の尾瀬あきら氏「蔵人(クロード)」の表紙に描かれたことがある。 こちらにお邪魔したのは、それを憶えていたこともあってのことでした。
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「一心」本店 仙台市青葉区国分町3-3-1 定禅寺ヒルズB1F [Map] 022-261-9888
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