でも、やっぱりフレンチじゃないでしょうと省みて、 予約を入れたのが、お久し振りの「萬屋おかげさん」でありました。
四谷三丁目交叉点の地上に上がり、 荒木町界隈のご機嫌を窺い乍ら、新宿通りを四谷駅方向へ。
判らずに通り過ぎてしまうひとあり勝ちな、 雑居ビルの入口を思い出すようにしながら、到着します。 ちょうど、PUB&SCOTH「cheerio」のお姐さんがスタンド看板を出すところ。 いざ、地階へと向かいましょう。
予約の名を告げ、掘りテーブル席のひとつに落ち着いて。振り返り眺める馬蹄形のカウンターでは、鍋が微かに湯気を上げています。 何を炊いているのでしょう。
ご案内の、今夜のおまかせ料理の黒板をじっとみる。 これが此方での愉しきひと時の口開きです。
最初だけの麦酒で乾杯して迎えたのが、「新銀杏の素揚げ」。この時季ならではのオツな恵みのひとつ。 腐った果肉の匂いは難儀だけれど、洗浄や天日干しなんかの手間をいただくと、 こうしてとっても美味しくいただける。 有難いことでありますね。
お通しとして頂戴したのが、おからのお惣菜。滑らかにしっとりとしたおからの細やかな美味しさ。 お通しで実力が測れる、なぁんてことも云われますが、 そうであれば、此処が間違いのないことを確かめ、 そして以降の展開を期待させてくれる小皿だと云えましょう。
次のお皿の綺麗な白身は、「竹岡の活け真鯛 煎り酒で」。竹岡というのは、内房・富津のこと。 おろしたての鯛の身が、ほんのり酸味の煎り酒にそよいで、いい塩梅。 醤油に浸しちゃったら鯛のこんな繊細な味わい、知ることができません。 そうそう、今はなき高輪台の「梅乃家」は、竹岡式らーめんの店だったなぁ、 そんなことも思い出したりなんかして(笑)。
お酒はというと、「東光」で知られる山形・小嶋総本店の純米大吟醸「洌」から、 佐賀「鍋島」の純米吟醸・山田錦へ。
粗塩を盛った小皿には、「揚げたて蓮根のさつま揚げ」。はふほふいただけば、蓮根の甘さ風味が解れ出る。 ちょんヅケした塩の効果、絶大であります。
鯛と同じ竹岡からの「活き皮はぎ 肝あえ」が小鉢が届く。河豚より断然美味いと思い込んでいる皮剥をいただけば、 嗚呼、堪らん! そして、底冷え極寒の船上でただ一匹だけ釣れた時のシーンを思い出す。 警戒心の強いおちょぼ口な魚は、素人には釣るに難儀だったのであります。
長崎の鰹は、「わらあぶり」に加えて「づけ」までも。きちんと藁で炙るお店は、意外と多くない。 炙って包んで活性化した旨味と香りに唸り、 ヅケで纏ったほの酸味にまた唸ります。
唸ると云えば、秋口に酒呑みを唸らせる逸品のひとつが、 「秋刀魚刺しの肝あえ」。厚岸から届いたという、ザ新鮮なしっかりとした秋刀魚の身に、 肝の滋味が絡みつく。 同じ台詞、嗚呼堪らん!がまた脳内を駆け巡ります。
片口には、美山錦主体だという澄んだ旨味の「小左衛門 純米吟醸 ひやおろし」の滴。代わる片口に注がれたのは、 青森は「陸奥八仙」の純米吟醸原酒華吹雪だ。
竹製のおにおろし器を想像しながら、「新潟の舞茸 鬼おろし」。キノコが恋しい季節になってきた。 「雪国まいたけ」も新潟の南魚沼の会社だけど、 舞茸の国内シェアはその六割が新潟県みたいだね。
そんな頃には、特別純米「杉勇(すぎいさみ)」生酛辛口+14原酒。 茨城の「来福」の仕込み水を添えてもらいます。
酒肴の最後を飾るのが、「栗原豆腐と皮はぎのカマの煮付け」。皮剥のカマの煮付けなんて口にするのは勿論初めて。 澄んだ滋味がこれまた佳いのであります。 栗原豆腐店は、お近く四谷三丁目、創業120有余年の老舗豆腐屋さんらしい。
そして、「萬屋おかげさん」のシメといえば、ご存知「塩むすび」。 塩梅のいい、美しくさえもあるおにぎりをパリパリの板海苔に包んで齧り付く。 そこへ椀のお味噌汁。 大団円で御座います(笑)。
美味しい日本酒と旬の酒肴たちが揃う、 云わずと知れた四谷の銘居酒屋「萬屋おかげさん」。ご無沙汰しているうちに、料理がコースになっていた。 黒板からどの酒肴をお願いしようか悩むのも愉しみのうちだったけれど、 日本酒の銘柄も含めて、まさにすっかり「おまかせ」して委ねてしまうのも悪くない。 “おかげさん”で、いいひと時が過ごせました。
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「萬屋おかげさん」 新宿区四谷2-10 松本館B1F [Map] 03-3355-8100 http://www.okagesan.net/
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