そこへやってきたのは、角の丸い緑色に塗られた可愛いバス。 東村山市内を3路線で巡る市営のコミュニティバスだ。 西武バスがその運行を受託しているらしい。 おばさまがゆっくりと運転する「グリーンバス」は、 すぐに府中街道に折れて、秋津方面へと向かいます。
バスを降りたのは、久米川辻という停留所。 交叉点の角には、 新田義貞公遺蹟で重要文化財であるところの元弘の碑の案内看板がある。鎌倉幕府滅亡の直前に倒幕の兵を挙げた、 新田義貞側の将士三名の討死者名や合戦の日や場所等が刻まれた板碑が、 徳蔵寺というお寺にあるらしい。
そんな重要文化財があるのかぁと思いつつ、 目線は交叉点からすぐの茶色く錆びた看板へ。純手打うどん「ますや」と判読できます。
暖簾を潜って、格子戸を引くと、 鄙びたお祖母ちゃん家という様子がまさに武蔵野うどんに似つかわしい趣き。畳の上の座卓で寛ぐのもよいなぁと惹かれつつ、 右手のカウンターの隅へと腰を下ろしました。
厨房では、お祖母ちゃんがせっせと天麩羅を揚げている。やっぱり此処は、「肉汁うどん」でありましょう。 お祖母ちゃんに、「天麩羅、茗荷も入れてください」とお願いします。
どうやらうどんそのものは、主にお祖父ちゃんの担当らしく、 お祖母ちゃんから注文を聞いたお祖父ちゃんは、 うどん部屋のあるらしい奥へと引っ込んでゆきます。
「肉汁うどん」大盛りの膳が手渡されました。丸い笊に盛られたうどんは、やや細身。 地粉らしい褐色やくすみは余り窺えませんが、 その撚れや包丁の断面に手打ちらしさを想います。
お椀の汁には、豚バラ肉が数片浮かんでる。 家庭で供されてきた武蔵野うどんのつけ汁は、 まさにこんなノリの装いなのであります。 汁に浸して啜るうどんは、正統派の武蔵野うどんの味がする。 つけ汁がやや塩分控えめ過ぎて物足りなく思うのは、 お祖母ちゃんがそれなりにお歳を召されているからでしょう。
きっと、タイミングによっては、茹で置きのうどんとなることもあるかもしれません。 でも、元来の武蔵野うどんは、 例えば、祝儀不祝儀の宴や親戚などの寄り合いの最後に、 〆に食べられるよう大量に茹でておいて、 併せて用意していた肉汁とでいただいていたもの。 茹で置きなんてとんでもないというのは、武蔵野うどんには当たりません。
お祖母ちゃんは、「足りたかな、天麩羅はどうかな」と訊いてくれる。 もうちょっと食べたい欲張りを抑えつつ、 茗荷の天麩羅も美味しかったです、ありがとう。
武蔵野うどんの中核エリア東村山の久米川辻に、 純手打ちうどん「ますや」がある。純手打ちと謳うのは、 終始一貫して手作業によるうどん打ちであるからであるらしい。 瓦屋根に載った看板をよく見ると、 右隅に一升枡の絵図が描いてある。 店名はその”枡”から由来する「ます屋」かと思いきや、 お祖母ちゃんのお名前が「神山マス」さんであるという。 マスさんのお店、つまりは「ます屋」なのですね。
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「ますや」 東村山市久米川4-33-10 [Map] 042-393-9481
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