
四条通りから高瀬川沿いを下りひとつめの曲がり角。
イタリア割烹なるお店を横目に向かう、
鴨川を渡る橋の親柱には、団栗橋と刻まれている。
鴨川の川面は穏やかなれど、そこを渡る風はまだまだ冷たいそんな頃。
橋を渡った川端通りとの角に在るのが、
おでんの店「蛸長」だ。
川を背にした通りの向かい側から眺める面構え。

枯れた風情が魅力的だったその姿は、
以前の趣を十二分に残しながら11年の秋に大規模な改修を終えて、
比較的新しい印象になっています。
カウンターの天板は従前のものを残している。
幾多の傷があり、焼け焦げたような部分も少なくない。


白いカバーのスツールに腰掛けて、しっとりと手に馴染むような安堵を感じるのは、
長い時間にこなれたカウンターが醸す空気の所為かもしれません。
磨かれた銅で囲ったおでん鍋。


煮立たず湯気を上げる出汁は、あくまで澄んでいる。
麦酒をすっ飛ばして、ちろりの燗酒をお願いするのが素直な欲求だ。

時季のおでんは、鍋を覗き込んでもよいけれど、
壁の木枠に収めた木札に示した名前を確かめるのもまた愉しい。

やっぱりここからと大根に飛龍頭。
昆布の利いた出汁がじっくりと沁みつつ、
煮崩れの心配などない一品料理の風格を保っている。

豆腐、鴨捏と一緒にお店の名前にも係る蛸を頂戴する。
想定以上に噛んで柔らかで張りがあって。

出汁の旨みと蛸の身の甘さが交叉して、堪らない。
四代目に目配せして、うんうん頷いて、お猪口を傾けます。

すぐ脇に芥子と刻んだ九条葱の器がスタンバイ。
実は、山椒を振ってくれた九条葱だけでもちょっとした酒肴になっている(笑)。
葱鮪はどんな姿でと器に盛ってくれる所作を見守ると、
端正な形状の鮪に添えてくれる小口切りの白葱。

そして、あれってなんですかと訊ねてお願いしたのが、炒皮。
鯨の皮目と脂の部分、所謂”コロ”だ。
なかなか質のいいものが入手し難くなってきているそうだけれど、
独特の食感に気になるよな匂いもなく、噛んで愉しい肴であります。
歌舞伎文字のお品書きには、
巻甘藍、七五三結、阿蘭陀、紐育なんて文字がある。
ロールキャベツや昆布は想像がついても、
はて、オランダにニューヨークとはと腕組思案する(笑)。
此処「蛸長」の紐育はつまり、レタスのこと。

萵苣(ちしゃ)を当てずに、紐育。
シャキッとした歯触りを残すように炊いたレタスが、青みの代わりに甘さを纏ってる。
うん、佳いね。
セルクルで成形しているのかな。
創業来130余年という、川端団栗角のおでん「蛸長」。



「蛸長」には”裏種”もあって、木札の文字も”種”の字が天地逆に書いてある。
当然のように限定品になっていて、開店早々に訪ねて注文しないとありつけない。
逆に、〆に”七五三結”をと思っていたのに、おでんを食べすぎて結局いただけない。
そんなことになってるお客さま、意外と少なくないかと思います(笑)。
「蛸長」
京都市東山区宮川筋1-237 [Map] 075-525-0170
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